第7章 成長の糧

第126話 誰かが待ってくれている

「ただいま、キズナ君! この部屋にはもう慣れたかい?」


 焼肉を終えて自室に戻ってきたので、まずはキズナ君に帰宅の挨拶をした。

 なんていうのかな、誰かが待ってくれている部屋に帰ってくるっていうのはいいもんだね。

 前世でも大学は親元を離れて東京で一人暮らしだったからさ……

 まぁ、一人暮らしを始めた最初のうちはなんとなくワクワクして浮かれてた。

 でもしばらくして慣れてきたらふとね、寂しさみたいなものを感じちゃったりもしてさ……

 とはいえそんな感傷も、ゲームに集中し始めたら忘れてるんだけどね!

 ま、それはともかくとして、今日からはキズナ君といっしょなわけだからそんな切なさとも無縁ってわけさ!!

 そんなことをつらつらと考えていると、ミキオ君たちトレントブラザーズやフウジュ君のことが頭に浮かんだ。

 大丈夫だって、みんなも俺の大事な仲間だよ!

 そして腹内アレス君のことだって忘れちゃいない、こっちに来てから楽しいことや大変なこと、なにもかも全部いっしょに経験してきたんだからさ!!

 それから……この学園で2カ月過ごしてきて、だいぶ人間関係も広がってきたね。

 俺の初期プランでは学園の人間はほぼ無視するつもりだったんだけどな……

 正直なところ、ゲームの設定的に周りはみんなアレス君の潜在的な敵みたいに思ってたし。

 それに、仲間であるはずのアレス君の取り巻きはすぐに裏切る頼りにならん奴らで、もっと言えばアレス君を陥れようとするマヌケ族の擬態なんていうのもいたからさ。

 しかもそれが誰だかわからないというね……

 とはいえそんなふうに思っていても、エリナ先生は前世の俺の推しだったからさ……憧れを捨てきれなくて、無視なんかできなかったね。

 それと、学園の女性職員のお姉さんたちも、ついつい好意的に接してしまった。

 いやまぁね、俺は年上のお姉さん大好き民だから……

 この気持ちに嘘はつけなかったんだ……

 そんなわけだからさ、みんなも「それならしょうがない」って言ってくれるよね? 信じてるからね!!

 あ、でもあれだよ、理解してくれているだろうとは思いつつ一応言っておくと、前世ではこんなふうにお姉さん大好きムーブをかましてないからね?

 できるわけないからね! 勘違いしちゃ嫌だよ!?

 なんというか、アレス君の体だからこそ怖気づかずに行けちゃうって感じだからさ、そこんとこヨロシク!!

 ……ああ、ちょっと話が脱線してしまったな。

 こんな感じでエリナ先生や職員のお姉さんという例外もあったけど、基本学内ではソロを貫こうとしていた俺にも学生の仲間ができたってことさ。

 しかもロイターにはちょっとしたノリのつもりだったんだけど「マブダチ」とまで言ってしまったし……

 マブダチなんて、前世では照れくさすぎて使えない創作物の中だけの言葉だと思ってたのにね……

 あ、でもここってゲームの世界なんだと思えば、こういうワードのチョイスもわりとスタンダードって言えるのかな?

 それにまぁ、ダイエットによって二次元キャラらしいイケメンとなったアレス君の台詞だからね、おかしくはないのかもしれない。

 とりあえずこれから野営研修までのあいだ、しばらくはパーティー単位での活動が多くなるだろう。

 ……集団行動のスキルがどっかに落ちてないかな?

 まぁ、ファティマさんが上手いことまとめてくれることを期待って感じかな……

 いや、他人任せじゃいけないってことも頭ではわかっているんだけどさ……

 でもやっぱ、めんどくさいって思っちゃうんだよ……

 この辺の心情、たぶんファティマさんには読まれてそうだよな……

 うぅ、最近の俺、ファティマさんに負けっぱなしじゃね?

 やべぇなぁ、もっとクールさを前面に押し出していかなきゃだよなぁ。

 そんなことをシャワーを浴びながら、とりとめもなく考えていたのだった。

 そうしてシャワーを浴び終えれば、夜錬の開始だ。

 まずは回復魔法の練習から。

 ただ、今日はキズナ君をお迎えしたばかりだからね、あんまり派手なことをしてびっくりさせるのもよくないと思うんだ。

 だからソフトめに、手のひらをチョイっとスパッと斬りつけて回復魔法を発動って感じでまとめた。

 そのあとは筋トレと精密魔力操作というお決まりの流れ。

 それでさ、精密魔力操作に関してなんだけど、前世で読んだ漫画に森林とかの自然の中で瞑想するっていう修行をしてた漫画内師匠がいたからさ、俺もその感じを意識してみた。

 キズナ君がいるからね!

 そうはいっても、ゴリゴリこっちからキズナ君へ魔力を流し込むみたいなことをしたら枯れてしまうかもしれないから、そういうのはしていない。

 この空間の中で、自分が自然の一部になったっていうイメージで、精密魔力操作をやるって感じさ。

 するとなんとなくだけど、キズナ君の生命の息吹みたいなものも感じられてね、やっぱりキズナ君も生きているんだなぁって思った。

 こうして寝る時間まで精密魔力操作をして過ごしたのだった。

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