第594話 あえていうなら天然って感じ

 朝食を食べ終え、模擬戦がおこなわれる運動場へ。


「おう、さっきぶりだな?」

「ええ、さっきぶりね」

「おはよう、アレス君!」


 運動場には、既にファティマとパルフェナが到着していた。

 そして少しあとにロイターとサンズが、おそらく食事を共にしたであろう女子と一緒に運動場に来て、あとはクラスごとに別れてって感じでAクラスの待機場に到着。

 それからまた少しして、セテルタがエトアラ嬢と一緒に運動場に来て、学年で別れてこちらの待機場へ。

 とりあえずこれで、Aクラスで普段つるんでいる奴はそろったといったところだろうか。

 ちなみに、ヴィーンたちも運動場には到着しているが、今日はそれぞれのクラスの待機場にいる。

 そしてセテルタが口を開いた。


「これからの1週間、しっかり頑張りたいね!」

「ああ、そうだな」

「ええ、負けられない闘いが続きますからね」

「一つも落とせないというのは、それなりにヒリヒリとした感覚で、それはそれで面白くもあるといえそうだけどな!」

「まあ、私たちはこの程度の模擬戦で不覚を取るような訓練はしてきていないはずだけれどね?」

「ファティマちゃんったら、言い方!」


 とはいえ、実際のところファティマのいうとおりというべきか、この中で予選の段階で負けるような奴はいないだろう。

 まあ、先生方が組み合わせの方針を変更して、俺たちみたいなAクラス同士の奴で対戦を組んだりしたら、話は変わってくるけども。

 とかなんとか思っているうちに先生たちが現れて、本日の模擬戦がスタートとなる。

 はてさて、今日はどんな模擬戦が繰り広げられることになるのかなぁ、楽しみだよ。

 そうして自分の出番がくるまでは、知ってる奴や注目に値する奴の対戦を観戦して過ごすって感じ。


「……次! トイ・ライクラッツ!! それから……」


 おっ! ここで俺が密かに注目している奴の登場か……これは要チェックだな!!

 というのも、トイという奴は前期末試験のマラソンで才能を遺憾なく発揮した走りのスペシャリスト……といえばみんなにも伝わるだろうか。


「うえぇ、めんどくさ~い……ここはやっぱり、き」

「おいコラ! ここまできて棄権なんかしやがったら承知しねぇぞ!!」

「そうそう、最後の1週間なんだからさ、頑張ろ?」

「……このまま行けば、本戦にも進めそうな勢いだがな」

「ゲェェ……」

「おい、何が『ゲェェ……』だ! そこは『よっしゃ! やったる!!』とかいいやがれ!!」

「あはは、さすがにそれはキャラじゃないかも……」

「まあ、もう少し気概が欲しいというのも……正直な気持ちではあるがな」


 ただし、ヤル気が一切ないような物言いをするのが特徴の奴でもある。

 そして、そんな奴の背中を上手いこと押してやって結果を出させている仲間たちって感じだろうか。

 あの賑やかな4人組……見ていて、なかなかイイ感じなんだよな。


「……ほう、お前が注目している男のご登場というわけか」

「トイさんですか……普段の言葉からは信じられないぐらいの結果を出していますからね」

「そういえば、今のところ彼も全勝をキープしてるんだっけ? やるじゃん」

「まあ、アレスが興味を持つだけのことはありそうね?」

「トイ君、今日も圧倒的なスタミナを見せつけてくれるのかなぁ?」


 先ほど俺は「密かに」といっていたが、それは撤回しよう……ロイターたちにバレバレでしたぁ!!


「……では2人とも、準備はいいな? それでは………………始め!!」

「はぁ……めんどくさい……なんでこんなことに……」

「……チッ、舐めた野郎が! お望みどおりテメェの連勝も、ここで俺が終わりにしてやるよぉ!!」


 ここで、対戦相手の男子が先制攻撃に出る。


「はぁ……疲れるのも嫌だけど、痛いのはもっと嫌だからなぁ……」

「何をゴチャゴチャと! いいから、さっさと喰らいやがれぇ!!」


 素晴らしいフットワークを駆使して、トイは対戦相手の攻撃を全て躱していく。


「よっし、いいぞ! そのまましっかり躱してけ!!」

「うん、早速パターンに入ったって感じかな?」

「まあ、トイの無尽蔵ともいえるスタミナと張り合わないようにするため、早期に決着を付けようとしたのだろうが……」

「へッ! そんなの、シュウレベルの早業でもなけりゃ無理ってもんだぜ!!」

「あはは……さすがにシュウ君レベルは言い過ぎだと思うけどね……」

「ふむ、一瞬で仕留められなければ、意外と粘れるかもしれんが……どうだろうな?」


 シュウ対トイ……それはそれで面白いかもしれない。

 ただ、武術的練度そのものは圧倒的って言葉じゃ足んないぐらいシュウのほうが上だからな……

 というよりも、見た感じトイはあんまり剣術などの武術的鍛錬を積んでいない気がする。

 なんとなく動きが理論的じゃないといえばいいのか……う~ん、あえていうなら天然って感じがするんだよな。

 だからたぶん、今もその瞬間ごとに「ここがヤバい!」っていう感性に従って躱しているだけなんじゃないかと思う。

 でもまあ、武術だって頭でガッチガチに考えながらってわけじゃなく、自然とその動きが出るようにするっていうのが求められているとは思うので、最終的にはその人の感性次第ってことになるのかもしれないけどね……

 かくいう俺も、レミリネ流の動きを無意識レベルに昇華させるよう努力しているわけだし。

 なんて思いつつ、見ようによっては前世で慣れ親しんだ遊びの鬼ごっこのようでもあるトイの対戦を観戦している。

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