第671話 置いて行かれぬよう

「……勝者! ロイター・エンハンザルト!!」


 審判の宣言により、ロイターの勝利が確定した。


「……フゥ……さすがロイター殿だ、お強い……拙者も全力を出し切ったという自負がありますゆえ、悔いこそありませんが……これから、もっともっと鍛錬を積まねばならぬと思い知らされたでござるよ」

「フッ……ティオグの刀術も素晴らしかったぞ……私も実際、やられるかと思った場面がいくつもあったからな……よって、私こそさらに鍛錬を積む必要があると感じた次第だ」

「左様でござるか……であれば、さらにロイター殿は力をお付けになるということ……拙者も置いて行かれぬよう、ますます励まねばなりますまい」

「フフッ……ティオグという強力なライバルに追い抜かされないよう、私も気を引き締めていかねばな!」

「ロイター殿にライバルといっていただけて、嬉しい限りでござるよ……そして次の3回戦、拙者のぶんも存分に闘ってきてくだされ」

「うむ……今回の対戦を糧として、3回戦を闘ってくるとしよう」

「ロイター殿の燦爛たる剣捌きを楽しみにしているでござる」

「ああ、楽しみにしていてくれ」


 試合終わって、ロイターとティオグが互いの健闘を称え合っている。

 うんうん、素晴らしい光景だよ。

 そしてロイターがいっていたように、俺から見ても実際に危ない場面がいくつかあったと思う。

 だが、そんな危ない場面も、ロイターの天性の勘とこれまで積み重ねてきた努力のおかげで上手く対応できたって感じかな?

 なんにせよロイターの奴め……全くいい経験をしたな!

 まあ、そんな2人の試合を見せてもらうことによって俺も学ばせてもらったからね、ありがたいもんだよ!!


『ロイター選手の勝利によって第4試合が終わりましたが……いやぁ、この試合もかなり見応えがありましたねぇ、スタンさん』

『はい、おっしゃるとおりですね……そして、私たちカイラスエント王国に住む者としては、基本的に王国式剣術を目にする機会が多くなりがちですが、ティオグさんが修められている舞鶴流刀術を今日1日でこれだけじっくり観ることができたのは、実に素晴らしい経験だったといえるでしょう』

『舞鶴流刀術! ええ、とっても優雅な刀術でしたねぇ!!』

『はい、あの優雅さは1回戦、2回戦とティオグさんの刀術をご覧になった方々になら、とてもよくご納得いただけることと思います』

『これを機会に、舞鶴流刀術を学んでみたいと思った方もいらっしゃるかもしれませんね?』

『そうですね、きっといらっしゃることでしょう』


 まあね、焔刀とともに早速村の子たちも興味を持ったみたいだし、そんな感じでこれから流行していきそうな気がするよ。

 それにさ、焔刀(日本刀)って時点で物凄くカッコいいし!


「う~ん……やっぱ、ティオグは負けちまったかぁ……」

「でもまあ、ロイターさん相手によく健闘したっていえるんじゃない?」

「ああ、割といい感じで肉薄できていたように思う」

「そうだな! ティオグはよくやったよな!!」

「おう! ナイスガッツだったよ!!」

「それはそうと……これで王女殿下の取り巻きたちも全員脱落かぁ……」

「いわれてみれば、そうだな……」

「とはいえ、3回戦に進む奴はみんな優勝候補として少なからず名前の挙がってた奴らなんだから、そんなもんといえばそんなもんだろ?」

「確かに、そんなもんだろうなぁ……」

「むしろ、この学園に入学したときから考えると……あの取り巻きたちってほとんど下位貴族出身なのに、ここまでよく頭角を現してきたよな?」

「なんか、そう考えると俺たち……だいぶ差を付けられちまったなって気がしてきた……」

「差を付けられた……そっか……僕たち、何してたんだろうね……?」

「奴らが勇気を出して動き始めたとき、俺らはバカにして笑ってたよな……」

「ああ、『身の程知らずの愚か者たち』って嘲笑してた……」

「ホントのバカは俺たちだったみたいだな……」

「ハハッ……笑えねぇ……」


 2回戦で敗退していったとはいえ、ティオグや王女殿下の取り巻きたちが輝きを放ち始めている姿を見て、改めてショックを受けている男子たちがいるようだ。

 でもさ、君たち……これからだよ?

 思い立ったときが、動き始めるときなんだからさ!

 そして、今はほかの奴が先に行っているかもしれない……でも、そんなことは関係ないんだ! 今の自分を超えて行けばいいだけなんだ!!

 そんなことを思っていると……


「ま、まあ! あいつらからは、ちょっと遅れちまったけどよ! オレたちだって、まだまだこれからだろ!? 最近、魔力操作狂いに触発されて魔力操作を頑張り始めた奴もいるぐらいだしさ、オレたちも続こうぜ!!」

「そ、そうだよね! 今からでも遅くないよね!?」

「よっしゃ! やるか!!」

「えぇっ……マジかよ……お前らまでヤル気になっちゃってんの……?」

「そういう暑苦しいノリ、正直ちょっと苦手なんだよなぁ……」

「とはいえだ……こうして徐々に暑苦しい奴が増えていってる現状、その流れに乗らないほうが逆にめんどくさくね?」

「う、う~ん……そうかぁ?」

「そうそう……頑張んなきゃいけないのは、結局自分だしなぁ……」

「……じゃあいいよ! お前らは、そうやってつまんねぇトコでウジウジしてな! 俺らは先に行く!!」

「いや、そんなキレんでも……」

「でも、そうか……先に……このままだともっと置いて行かれるってことか……そんなの嫌だな……」

「とりあえず、周りがトレーニングの話題で盛り上がってるところ自分だけダンマリっていうのもツライから、多少やっとくかな……」


 ふむ……また少し、ヤル気になった男たちが現れたようだ……いい傾向だね!

 といったところで、1年生男子の部2回戦が終わったというわけだ……次は女子の部2回戦だね。

 普段から模擬戦等をして共に頑張っているファティマやパルフェナは勝ち上がると確信しているが……はてさて、どんな試合が展開されていくのか楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る