第670話 一級の芸術を鑑賞しているかのような気分

『ティオグ選手による袈裟懸けの一閃を丁寧に躱し、反撃の一振りを放つロイター選手! しかし、ティオグ選手もしっかりと視えています! 振り抜いた刀を返し、ロイター選手の剣に合わせる!!』

『両者共に一つ一つの動きが洗練されていて、とても美しいです』

『まさに、スタンさんのおっしゃるとおりですね! ある意味において、一級の芸術を鑑賞しているかのような気分になってきます』


 一級の芸術か……なるほど、確かにそんなふうにも感じられるな。

 とかなんとか、知ったふうなことをいいつつ……俺には芸術的な素養なんかはあんまりない気もするけどね……

 だって、前世で芸術を嗜好してたって感覚もないし、原作アレス君もそっち方面には興味なかったっぽいしさ……

 ただ、2人からカッコよさがビッシビシに感じることはできるからね……それが俺にとっての芸術性だと言い張るのはアリかもしれない。

 そんなことを考えていると……


「うぉ~っ! 焔刀っていうんだっけ? あれ! めっちゃカッケェよなっ!!」

「うん! うん!!」

「俺としては、さっきの試合で見た大剣が一番なことに変わりはないけど……でも、焔刀もいいなって思った!」

「なんていうかさ……あの鋭さがいいよねぇ~っ!」

「どうよ、リッド? お前も木刀使いとしては、興味あるんじゃね?」

「そうだね、カッコいいと思うよ! でも、オイラにはこのアレス兄ちゃんにプレゼントしてもらった木刀があるからね! そして、いつかオイラもトレントの木刀を扱えるような男になるんだぁ!!」

「まあ、とりあえず……トレントの木刀をソレバ村で手に入れるのは難しいだろうけどな?」

「可能性があるとしたら、武器商人がたまたま村に立ち寄ったときぐらいか?」

「となると……ここみたいにデッカイ街に来ないとだな!」

「いや、その前に……しっかりお金を貯めなきゃだろうけどね……」

「だなぁ……」

「ま! 焔刀にしろトレントの木刀にしろ、俺たちの小遣いで買える代物じゃねぇからな、今はとりあえず普通の木刀で訓練しとこうぜ!!」

「賛成~っ!」


 ふむ……村の子たちは、ティオグの焔刀にも興味を持ったか……

 まあ、俺も焔刀……そして元ネタとなったであろう日本刀を物凄くカッコいいと思ってるからさ、同じだね!

 それから、学園の生徒たちの反応としては……


「ティオグの奴、正直もっとアッサリ負けるかと思ったけど……意外と粘ってるよな?」

「そうだねぇ……ロイター君相手に、なかなか頑張ってると思うよ」

「だが……『粘ってる』とか『頑張ってる』程度だと、勝利を得るのは厳しいだろうな……」

「まあ、それはね……」

「とはいうものの……ティオグの一太刀でも決まってしまえば、それで勝てるだけの威力はありそうだぞ?」

「いや、そもそも論としてポーション瓶を割るだけの威力さえあればいいんだから、当たればオッケーでしょ……もちろん、ポーション瓶を捉えて当てなきゃだけどさ」

「それはそうだと思うが……おそらく彼らは、勝てればいいだけの勝負はしていない気がする……」

「いわゆる、内容にこだわるってやつ?」

「ああ、そういうことだ……」

「なんていうか、そう聞くとロイターはともかくとして……『ティオグのクセに生意気だぞ』っていいたくなってくると思わん?」

「その気持ちも分からんではないけど……ロイターが瞬殺してないところを見るに、ティオグは内容にこだわって対戦する価値がある相手だって評価されてるってことなんじゃない?」


 実際、ティオグはじっくり対戦する価値のある相手だと思うよ?


「……ハァッ!!」

「させるか!!」

『ティオグ選手の鮮やかな一振りが飛び出す! だが、ロイター選手もしっかりと防御!!』

『今の一振り……狙うタイミングとしては絶妙だったと思いますね……』

『なるほど! ということは、きっちりと対処できたロイター選手がさすがだったというわけですね!?』

『ええ、まさしく』

「ふぅむ……これも対処されてしまったでござるか……」

「まあ、こちらとしても、今のは少々焦らされてしまったがな」

「ほう? そういう割には、表情に余裕がありそうにお見受けしますが……」

「フッ……内心の焦りを相手に悟られるわけにはいかんだろう?」

「ええ、それもそうでござる……なッ!!」

「おっと! ……まったく、油断も隙も無い」

「拙者としては、一振り一振りを大事にするしか勝機がありませんから……なぁッ!!」

「フン! ……受ければ受けるほど、惚れ惚れするような刀捌きだよ」

「ロイター殿にそういっていただければ、励みになるでござる……よッ!!」

「これもッ! とてもいい……ならば、こちらも!!」

「……ほぅッ! この手に伝わってくる振動……実に見事なり!!」


 それにしても、あいつら……メチャクチャ愉しそうだな……

 なんか、攻防の一つ一つに味わいを感じちゃってるみたいだしさ……


「そこまで期待していた組み合わせではありませんでしたが……意外と悪くありませんわね……」

「ほんに、ほんに……」

「わたくし……以前からティオグさんは、誰とでも上手くマッチする逸材だと密かに目を付けておりましたわ……」

「確かに……あの物腰の軟らかさは、得難い資質よね?」

「それでいて、芯はしっかりとある……」

「おそらく、あれこそが焔男の在り方……」


 焔男って……前世で言うところの、日本男児みたいな感じかな?

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