第198話 いつぞやの

「師匠! 今日も一日よろしくお願いします!!」


 昨日みんなに、レミリネ流を世に知らしめるとか威勢のいいことをいったからな、それが口だけで終わらないようにするためにも、より気合を入れてレミリネ師匠の剣を学ぶべきだろう。

 そう思いつつ、今週ラストの休日となる今日は、午前中に自主練をガッチリやって、スケルトンダンジョンへの移動中に昼食を済ませ、昼からの時間をレミリネ師匠の剣術指導に充てる。

 そしてレミリネ師匠は、いつもどおり落ち着いた動作で剣を構える。

 やはり、いつ見てもレミリネ師匠の構えは美しく、惚れ惚れする。

 いつか俺もそんな構えをできるようになりたいものだ。


「それでは……参ります!」


 そう一声かけ、まずは型稽古的な動きから始まる、これもいつもどおり。

 もう何日もやっている流れなので、体がだいぶ覚えてきた。

 そのため、こう斬り込まれたら、こう捌く、みたいな基本的な動作も自然にできるようになりつつある。

 そんな自分の進歩を噛みしめつつ、丁寧に型稽古、別な言い方で表現するならば、組演武を充実させていく。

 そうして時間の経過とともに、レミリネ師匠の指導が基礎的なものから実戦的なものへと徐々に移行する。

 そしてそれは、レミリネ師匠のギアが上がっていくということでもあり、それに伴って俺の被弾割合も増えていく。


「……ッ! もう一本、お願いします!!」


 ……最初の頃に比べたら俺の剣の腕も上がってきているが、レミリネ師匠から一本を取るのは、まだまだ先になりそうだ。

 だが、それは伸びしろでもあるといえる!

 レミリネ師匠が遠くにいればいるほど、俺はもっともっと強くなれるということ!!

 嬉しい! 楽しい! 最っ高!!


「……」


 そんなふうに、俺がテンションを上げていると、ふいにレミリネ師匠が「まったく、剣術バカなんだから……」みたいな表情を見せたように感じた。

 相変わらず、俺のお姉さんセンサーはいい仕事をしてくれるね。

 こうして俺は、レミリネ師匠との幸せな時間を過ごしていたのだが……

 腹立たしいことに、そんな至福の時を邪魔する輩が現れ、襲いかかってきた。


「……もらったァ!!」

「何をもらったんだ?」

「ぎゃっ!!」


 ひとまず、急に襲いかかってきた乱入者に一撃入れて無力化させる。

 どうやら狙いはレミリネ師匠だったようだが……

 まぁ、この程度のザコどもにレミリネ師匠の手を煩わせる必要もあるまい、俺が全て対処しよう。


「死ねッ!」

「お前がな……といいたいところだが、一応人間だしな……」

「ぐがぁ!!」

「あらら、弓使いまでいるのか……」

「ひっ! ぎゃ!!」


 槍を突き込んできた奴には、槍を叩き落とす……というか粉砕しちゃったけど、まぁ、それはそれとして一撃を入れて黙らせ、遠距離にいた弓使いには腕に氷塊をぶつけて戦闘能力を奪ってやった。


「オラぁ!」

「シッ!」


 そして俺の弓使いへの対処を隙と思ったのか、大男がハンマーをレミリネ師匠に振り下ろそうとし、その男に隠れるようにして接近していた男もナイフを突き立てようとする。

 が、そんなもの隙でもなんでもない、風歩で大男との距離を詰め、その勢いのままにミキオ君の一撃で大男のハンマーを破壊し、ナイフ男には、手元に蹴りを入れることでナイフを弾き飛ばした。

 とりあえず、襲撃者5人の無力化はこんなもんかな?


「う、うそだろ……」

「くッ!!」


 しかしコイツら、なんでこんなマネをしたんだ?

 冒険者ギルドでも「獲物の横取りはマナー違反」って最初にいわれることだと思うんだがな。


「さて……こういうのはマナー違反だと思うんだが、何か弁解の余地でもあるのか?」

「そんなことは関係ねぇッ!! ソイツがいなけりゃ! 俺たちゃ今頃立派な王国騎士だったんだ!!」

「はぁ?」


 正直、なんだそりゃ……って感じだ。

 それで話によるとコイツら、先日の王国騎士団入団試験の受験者だったようで、試験前の最終調整としてスケルトンダンジョンに来たところ、運悪くというべきか、レミリネ師匠と遭遇してしまい……

 後のことはご想像のとおりかもしれないが、中途半端に挑んでボッコボコにされ、武器や装備は使い物にならなくなる。

 そして体のほうも一番重傷で骨折だが、それを治すのに安くないポーションにお金がかかり……そのせいで武器や装備に回すお金が……という感じになったみたい。

 そんで結局、コンディション最悪で入団試験を受けることになり、そのまま不採用。

 というわけで、自分たちが不採用となった恨みをぶつけるためにレミリネ師匠に襲いかかろうとしたってことらしい。


「実にくだらんな……そんな考え方なら、おそらく一生王国騎士に採用されることなどないだろうな」

「なんだと!!」

「単にお前らの実力が不足していただけじゃないか、それを他人のせいにするのは間違いだ……それに、王国騎士を採用するにあたって、評価の対象は強さだけではなく、精神性も見ているに違いない……その点をふまえて、もう一度よく考えてみることだな」


 この前の定食屋さんで、腕自慢らしき小娘が模擬戦で勝利したにもかかわらず不採用で、その負かした相手が採用となったらしいからな。

 ただ強いだけでは駄目で、ほかに何かしら必要なことがあるのだろうと思う。


「このッ! 何も知らねぇ奴が偉そうにッ!!」

「まぁ、そうだな」


 男が悔し紛れに怒鳴り散らす。

 横取りの奇襲だろうがなんだろうがスケルトンナイトのユニークを討伐してやろうと思った、みたいな感じのなりふり構わない野心的な理由なら少しはマシだったんだがな……


「チクショウッ! 覚えてやがれ!!」


 そんな俺のつまらなそうな態度を感じ取ったからなのかは知らないが、男たちは捨て台詞を吐いて逃げていった。

 やれやれ、つまらん奴らに時間を使ってしまったな。

 さて、それじゃあ、剣術指導の続きをお願いしますかね。

 そう思い、レミリネ師匠に向き直ると……


「し……師匠!?」


 レミリネ師匠の体が光り輝きだした……

 いつぞやの教会のスケルトンたちのように……

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