第199話 一緒にいたかった……
「師匠!!」
光を放つレミリネ師匠のスケルトンの体。
その体に、俺がたびたび認識していたレミリネ師匠の生前の姿が肉付けされたように半透明で浮かび上がっている。
そして……その体が、少しずつ、本当に少しずつ輪郭を失い、消えようとしている。
「な、なんで……どうして……」
『思い出した……私、一度でいいから、こうやって誰かに気にかけて守ってもらいたかったんだ……そっか、そうだったんだ……』
「こんな……こんなの! 大したことじゃないですよ!!」
『ううん、私には……それが大したことだったの……』
「そんな!!」
『たぶん、そんな私の心残りを読み取って……ダンジョンがスケルトンにしたんだろうなぁ……』
「こ、心残りって……それじゃあ……」
『そうだね……もう、お別れしなくちゃなんだ……』
「そんなの嫌だ! 俺! レミリネ師匠にもっといっぱい剣術を教えてもらいたい! それに何より! もっともっと一緒にいたい!!」
『えっ、私の名前……聞こえてたの? ずっと師匠だったし、聞こえてないと思ってたよ』
レミリネ師匠……こんなときなのに、気になったのはそこなんですか……
「……調べました。そして、レミリネ師匠が何をいっていたのかは理解できていませんでした」
『へぇ、そうだったんだぁ。それで、私ってなんていわれてたの?』
「……国を守った『救国の剣聖女』と呼ばれています……あと……レミリネ流剣術も有名です」
救国の剣聖女については、旧イゾンティムル王国民が子孫に向けて実際に語り継いできたことらしいからな。
そして……レミリネ流剣術については、俺がこれから有名にするのだ、それが今現在のことではなかったとしても大した差ではないだろう。
『……そっかぁ、なんだかちょっと、照れちゃうね』
「レミリネ師匠は素晴らしい人なのですから、当然です!!」
『ふふっ、ありがと。それとね、剣術のことだけど、私の身に付けていた技術は既にアレス君の中に根付いてる、あとは練習するだけ。だからもう……私に教えられることなんて何もないんだ』
「そんなことありません! 全然! まだ、なんにもわかってないんです! だから、もっともっと教えてください!!」
『大丈夫だよ、アレス君はちゃんとわかってる、私が保証する』
「うぅっ、でも……」
『……ごめんね……あぁ、そろそろこの体を維持するのも難しくなってきたな……本当にお別れのときがきちゃったみたい……』
「嫌だ! お願いだから!!」
『……私ももっと、アレス君と一緒にいたかった……』
「それなら!!」
『でも……ダンジョンは、この心残りをスケルトンにするつもりはないみたい……残念だなぁ』
そういいながら、ほとんど消えかけた体で、俺を抱き締めてくれるレミリネ師匠。
そして、俺の頬に口づけをして……
『アレス君に逢えてよかった……ありがとう』
その言葉とともに、レミリネ師匠はいつも使っていた剣を残し、光となって消えていった。
認めたくないことではあるが、それは今までとは違う姿の消し方だった。
そして……なぜ? どうして? 俺は何を間違えたんだ?
そんなことばかりが頭の中をぐるぐると回っている。
だけど、去り際のレミリネ師匠の笑顔を思い出すと……これでよかったのだ……そう思うべきだという気もしてくる。
でも、俺のわがままな部分、大人になり切れていない部分が、そんな綺麗事を否定したがる。
そうして、いろんな感情が浮かんでは消えていく中で、レミリネ師匠が存在していた空間をひたすら見つめ続けていた。
もしかしたら……そんな未練がましいことを思いながら。
しかしながら、いくら期待を込めて眼差しを向けていても、そんな「もし」は起こらない。
「そんなこと、わかってはいるんだけどね……」
そこでふと、同じように光となって消えた廃教会のスケルトンたちのことを思い出した。
もし彼らが再出現していたら……そんな考えが頭をよぎる。
我ながら自分勝手なものだなと思わないでもないが、ごくわずかな、淡い期待を持って廃教会に向かった。
「……ははっ、そんな都合よくはいかないよな……」
やはりというべきか、廃教会には誰もいなかった。
そしてなんとなく神像に目を向ける。
「う~ん、転生神のお姉さんや、オッサンとは似てないよな……」
そんな呟きを漏らしつつ、レミリネ師匠が無事に転生神のお姉さんのところへ行けるよう祈ることにした。
……正直なことをいえば、そちらへは行かず、こちらにいて欲しい。
でもそれは、レミリネ師匠にとっていいことではない、それはわかるつもりだから我慢するしかない。
そうしてしばし廃教会で祈りを捧げ、外に出た。
そこで沈みかけの夕日を見て、レミリネ師匠に初めて逢ったときもこんな感じの夕日だったなと思い出す。
「ほんの少し前のことなのに……懐かしさが込み上げてくるよ……」
そんなレミリネ師匠との思い出に浸りながら、時間のため学園に帰ることにした。
その後のことは、どこか心ここにあらずという感覚だったが、どれも自分のルーティンとなっていたおかげか、大きな問題もなくこなすことができたのだった。
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