第769話 もうそろそろ秋も終盤だっていうのに

「それでは、今晩からよろしくお願いします!」

「うむ、共に頑張ろう! ではな!!」

「はい! 失礼します!!」


 そういって、朝食を食べ終えた俺たちは別れたのだった。

 そして、今回食事を共にしたハンナ・ミレッドという令嬢に夕食後の時間を使ってレミリネ流剣術を教えることとなった。

 フフッ……これによってレミリネ流剣術が世に広まる第一歩を踏み出せたといった感じかな?

 しかも、ハンナは友人も誘って来てくれるつもりのようなので、より一層レミリネ流剣術の広まりが加速されることが期待できる……やったね!

 待っていてください、レミリネ師匠!

 愚かな悪意によって、この世界の歴史が忘れさせられていたレミリネ師匠の存在……その記憶を、必ず俺が取り戻させてみせます!!


「……うへぇ……朝飯食って、日も高くなり始めてきたせいもあってか、あっつくなってきたぁ……」

「そうだな……もうそろそろ秋も終盤だっていうのに、なんて暑さだよ……」

「う~ん……暑さとか、ここしばらくはあんまり気にしてなかった……かも?」

「まあ、みんな武闘大会のことで頭がいっぱいで、そんなことに構ってる暇なんかほとんどなかっただろうからなぁ……」

「とりあえず、今年の夏が酷い暑さだったのは認めるところだが……かといって、ここまで暑さを引っ張るもんかね?」

「なんか、そういっているあいだに急にガクンと気温が下がって冬本番になったりして」

「秋を飛び越した……みたいな?」

「……そうして僕らは、いつしか『秋』を永遠に忘れるようになっていった……なんてね?」


 ふむ……そういや前世でも「今年の秋……どこいった?」みたいな発言をときどき耳にすることがあったよなぁ……


「そんな大げさな……」

「というか、空調の魔道具が壊れているわけじゃないだろうな?」

「いやいや、それこそ大げさでしょ……」

「つーか、この熱の発生源……ほぼほぼ魔力操作狂いだと思うぞ? 見てみろよ……奴の周りに熱気のこもった魔力が渦巻いてるだろ?」

「えっ、えぇ……マジ?」


 おっと、俺の心の中で燃え盛る情熱の炎が周囲の気温にまで影響を与えてしまっていたようだ。


「ふぅむ……確かにそんなような気もするな……」

「そういえば、さっき……ハンナちゃんと話しててテンション上がってたっぽいもんね?」

「うぅ、俺……ハンナさんのこと『いいな』って思ってたのに……どうして……」

「どうしてって……そりゃあ、家柄も抜群で前期の成績も優秀、そこにきて武闘大会まで優勝してしまうような奴なんだから、モテないほうがおかしいだろ」

「クッ! ファティマちゃんというとびっきりの美少女が傍にいて、さらにハンナちゃんまでなんて……マジで許せねぇよ……」

「まあ、ほかにもたくさんの令嬢が奴に群がっていってるみたいだからなぁ……まったく、羨ましいもんだぜ」

「でも……正直さ、僕は悔しさよりも、諦めのほうが先にきちゃってるんだよね……」

「分かる……なんか、心の奥深いところで『どうやっても勝てない』って理解しちゃってるんだよなぁ……」


 おいおい、そんなこというなよ……お前らだって、まだまだこれからじゃないか!


「つーか、微妙に聞こえてきた話によると、ハンナって子も全然剣術とかできないのに、魔力操作狂いに教えてもらうつもりらしいし……そうやってメソメソしてる暇があるなら、ついでにお前らも魔力操作狂いに剣術を鍛えてもらえば? それに奴だって、レミリネ流とかって剣術を広めたいみたいだし、ちょうどいいんじゃね?」

「えっ、えぇ……マジでいってる?」

「もちろん……つーか、俺も学んでみようかと思い始めていたところだったし」

「ウソだろ……お前、勇気あるなぁ……」


 ほう? こちらとしては来る者拒まず、いつでも大歓迎だ!


「……さ、さらに気温が……上がった?」

「う、うぅ~ん、僕……あの人の熱さについて行けるかなぁ……?」

「だが、少しでもハンナさんとの接点を作るには……確かにいい手なのかもしれない……」

「と、とりあえず夕食……夕食まで待ってくれ! そのときまでになんとか、決心を固めるから!!」

「これまた大げさな……」

「でもやっぱり……あの人はコワいもんね……」

「ま、後悔することのないよう、じっくり考えな」

「あ、ああ……そうさせてもらう」


 ふむふむ……もしかしたら、男子たちの中にもレミリネ流剣術を修める者が現れてくれそうな予感……これは期待が膨らむねぇ!

 なんにせよ、諸君がレミリネ流の門を叩きに来てくれることを楽しみにしているぞ!!

 そんなことを思いつつ、気分アゲアゲで自室へとつながる道を歩いて行く。


「……今日の魔力操作狂いは、一段と機嫌がいいみたいだなぁ」

「ああ、そのようだ……なんぞ良いことでもあったのだろうな」

「まあ、我々も彼に負けず、今日1日有意義に凄そうではないか!」

「おっ! そうだな!!」

「まあ、午前中は父上の見送りがあるから、本格的な活動は午後からといったところかな」


 そんなふうに、途中ですれ違った男子たちの会話も耳にしつつ、自室に到着。


「ただいま、キズナ君! そして朗報! なんと、レミリネ流剣術を習いたいって子が現れたんだよ!!」


 なんて挨拶をしながら、先ほどあったことをキズナ君に報告するのだった。

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