第382話 一番の課題

 ソエラルタウトの屋敷を出発し、今はウインドボードで空の旅を楽しんでいるところだ。

 そこで、改めて使用人たちのウインドボードの操作能力を見てみる。

 もちろん、ギドは評価対象外だ……もともとの能力が違い過ぎるし、ウインドボードも当然のように乗りこなしているからね。

 そして、やはり魔力操作の練度が一番高いからか、サナが3人の中で一番上手くウインドボードを操作できている。

 しかしながら、サナに次ぐ魔力操作の練度を誇りながら、ノムルは若干ウインドボードの操作に劣っている。

 というのも、ノムルの場合は瞬間的な爆発力の高さがウリみたいなところがあって、一発一発に強く魔力を込めるのは得意なようだが、ウインドボードのような一定の魔力を継続的に放出っていうのはいくらか苦戦してしまうみたいなんだ。

 それでも、アレス付きの使用人の中ではやはり上位の腕前であることには変わりないといえる。

 まあ、早い話がスピードにムラがあるってことだね。

 そんなわけで、今回のウインドボードによる旅を経験することでノムルは、安定した魔力の運用能力を磨くことができるのではないか、そんな期待がある。

 それでヨリはというと、こちらはウインドボードの操作能力自体はまあまあだといえるのだが、いかんせん魔力が少なめなのだ。

 そのため、魔力のやりくりに気を使ってあまりスピードが出せないって感じかな。

 まあね、確か実家が士爵家とかいってた気がするからね、ほかの貴族家に比べて相応に保有魔力量が少なめなのは仕方ないのかもしれない。

 とまあ、こういった状況のため、ヨリのスピードに合わせて飛んでいるというわけだ。


「アレス様、私が遅いばっかりに……申し訳ありません」

「いや、このペースなら学園都市にもかなり余裕を持って到着できるはずだ、何も気にする必要はない」


 といいつつ、道中で暇があればモンスター狩りとか、ダンジョンに挑戦なんてこともできたらいいなって思わなくもないんだけどね。


「アレックスさんのおっしゃるとおり、あらかじめ想定していたペースよりも速いといえるので、心配には及びませんよ」

「というか、私もこのペースより速いとチョット厳しいかもだから、ヨリだけのせいじゃないよ!」

「嘆く暇があるなら、もっと効率よく魔力を運用できるよう努めるべき」

「うむ、サナのいうとおりだな。そして不足する魔力は、空気中の魔素を上手く取り込んで魔力に変換すればいい、そのための魔力操作でもあるわけだからな。そう考えれば、ヨリの今回の旅の課題としては、空気中の魔素を魔力に変換する能力の向上といったところになるかもしれんな」

「かしこまりましたわ! わたくし、きっとやり遂げて見せますわ!!」

「あ~っ! アレス君に課題を決めてもらっていいなぁ! ねぇ、私も! 私にも課題を決めてくださ~い!!」


 ノムルの課題か、さっき考えていたことをそのままいえばいい気がする。

 よし、それでいこう。


「そうだな、ノムルにも自覚はあるだろうが、安定した魔力の運用能力の向上を課題としたらどうだ?」

「確かに、ノムルは雑だから」

「うぅっ……サナにいわれるのはシャクだけど仕方ない……アレス君の課題、見事達成して見せるわっ!」

「うむ、頑張ってくれ」


 こうしてノムルの課題も決まったところで……視線を感じる。

 サナがじーっと俺を見つめてくる。

 ま、まあね、そりゃそうだよなって感じ。

 さて、サナの場合は……全体的によくまとまっていてソツがないって感じだからなぁ。


「サナは魔力操作の練度もなかなかだし、特別弱点といえるような部分もなく全体的に実力を伸ばせていると思うから、おそらくこのままの調子で鍛錬を積んでいけばいいのだろうと思う。ただ、そこであえて課題を設定するとしたら、一発の威力を上げてみるっていうのはアリかもしれないな」

「一発の威力……」

「ああ、今のサナでもある程度の相手には勝てると思うが、特別防御の固い相手には苦戦しそうだからな。そういう相手に対する切り札的な一発はあってもいいかもしれない。まあ、この点についてはノムルのほうが得意だろうし、ノムルもサナから学ぶ部分が大きいだろうから、お互いから学び合うといいのかもしれないな」

「ノムルから学ぶ……それが課題だというのなら仕方ない、やってみる」

「サナからかぁ……ま、アレス君がそういうのなら、いっつもサナからいわれている小言をもう少し真面目に聞いてやるとしますかね!」

「とりあえず、俺にいえるのはこの程度だな……あとは各自で考えてみてくれ」

「「「かしこまりました!」」」


 また、ギドがわざとらしい雰囲気を出しながら「私には?」みたいな顔をしているが、これはあえて無視することで返事とした。

 というのも、努力する魔族という時点で、単純な技術力なら俺よりギドのほうが高い可能性があるからな。

 そもそも俺がとやかくいうレベルじゃないと思うんだ。

 まあ、無言のままギドに視線を送るとニコリとして返してくるあたり、やはりちょっとした冗談のつもりだったのだろうな。


「……またアレス様とギドが視線だけで通じ合っていますわ」

「悔しい~っ!」

「なるほど……私たちの一番の課題が見つかった」


 えぇ、なんだよそれ……

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