第381話 みんなに見送られながら出発

「アレス様の障壁魔法に挑戦するのも、今日で最後かぁ~」

「春休みまでお預けだもんねぇ?」

「アンタらはいいわよね……まだしばらくアレス様と一緒にいられるんだからさ!」

「うふふっ! ま、ねぇ~」

「頑張った甲斐がありましたわ!」

「実力だからしょうがない……その代わり今日の挑戦をあなたたちに譲ったのだから感謝されてしかるべき」

「くっ……! 覚えてなさいよ!!」

「そうよ! この次は、アタシがアレス様とご一緒するんだからね!」

「だめだめ~その役目はあーしって決まってんの!」

「おいおい子猫ちゃんたち? 俺たち男のパワーも見くびってもらっちゃ困るぜ?」

「そうさ、文系には武力など不要と教えられてきた僕たちだけど、アレス様にその価値観も変えてもらった……だからこそ、これからの僕たちはちょっと凄いよ?」

「そんなの! 私だって文系出身なんだから、条件は同じよ!!」


 まあね、確かに俺の同年代の学生たちを見ていても、文系出身者は割と戦闘能力の向上に興味がなさそうだったからなぁ。

 野営研修のときも、森の入口あたりでお茶会を開いてのんびりしてたみたいだしさ。

 でも、そんな文系出身者も魔力的なポテンシャルはじゅうぶんあるわけだから、努力次第では比較的すぐに実力を伸ばせるはずだ。

 その辺が、もともと保有魔力量の少ない平民より恵まれているところといえるだろうね。

 といいつつ、トディたちみたいに雪の街で出会った人たちにも魔力操作を勧めておいたし、その中から才能を開花させる凄い人材も登場するかもしれない……

 そう考えると、ワクワクが止まらない!

 ああっ! 春休みにソエラルタウト領に帰ってきたときが楽しみで仕方ないっ!!

 なんて寝たフリをしながら、使用人たちの最後の挑戦を心で観戦する。


「我が身に眠る力よ! 今こそ目覚めよ! 超ド級マキシマムファイヤー!!」

「なッ! ど、どんな凄い炎なんだ!?」

「……って、単なるファイヤーボールじゃないのよぉ!」

「アホらし……」

「あっれ~おっかしいなぁ……もっとすっごい炎になるはずだったんだけど、う~ん?」


 イメージではそうだったのだろうが……単純に魔力が足りなかったのと、魔力操作の練度も不足していたのだろうな。

 ただ、今はそれでもいいと思う。

 魔力操作をコツコツ続けていれば、いずれ実力がイメージに追いつくだろうからね。

 そのときまで、諦めずに頑張るんだぜ!!

 という激励は、目覚めたフリをしたあとにしてやるべきだろうな。

 そんなことを思いつつ、そろそろ起床のお時間ですかね。

 こうして使用人たちに目覚めの挨拶をするとともに、今回の挑戦者たちに激励の言葉をかけていく。

 そしてお次はいつもどおりに朝練として訓練場を走る。

 また、訓練場にいた親父殿派の領兵たちから忌々しそうな視線を相変わらず浴びている。

 でもま、関係ないのさ。

 おそらく、そう遠くない未来にアレス付きの使用人たちのほうが圧倒的な実力者になるだろうし。

 いや、ここにいるような他の貴族家の護衛を兼ねた見送りに選ばれていない連中のレベルなら、既に超えているかもしれんがな。

 そんなこんなで朝練を終え、シャワーを済ませて朝食へ。


「この夏アレスと一緒に食事をするのも、これで最後になるのね……」

「そうなってしまいますね」

「寂しいわねぇ」

「義母上にそのように思っていただけるだけで、私は嬉しく思います」

「アレスったら、こんなときまで聞き分けがよくなくてもいいのに……」

「まあ、学園だから仕方ないよ……といいつつ、僕も寂しい気持ちは同じさ」

「私も……それに、アレス君と接点のあったソエラルタウト領のみんなも同じ気持ちでしょうね」

「兄上、義姉上……ありがとうございます」

「でも、こんなしんみりするより、もっと楽しい食事にしよう! 春休みなんて、あっという間にくるはずさ!!」

「そう……ね、もっと楽しまなくてはね」

「うん、セスのいうとおり」


 さすが兄上だ、ムードメーカーとしても一流でいらっしゃる。

 こういうところも見習いたいものだな。

 このようにして、家族だんらんの時間は穏やかに過ぎていった。

 しかしながら、親父殿がいたらこうはいかなかっただろうな……

 春休みのときも、親父殿が王都にいればいいのに……なんて思ってしまうよ。

 そして朝食を終え、自室に戻って出発に向けた最終確認をする。


「ふむ……忘れ物もないし、完璧だな」


 まあ、俺が使う物は基本的にマジックバッグに入れているからね。

 マジックバッグさえ忘れなければ、そもそも忘れ物など発生しないといえるだろう。


「アレス様、我々も準備が整ってございます」

「おう、そうか……それじゃあ、そろそろ出発かな?」

「アレスしゃま~おげんきでぇ~」

「私のことも、ほんの一瞬でもいいので、思い出してくれると嬉しいです」

「アレス様が帰ってきたときは、もっとイイ女になってるかんね! 楽しみにしててよ!!」


 準備が整い、さあ出発だ! というところで、アレス付きの使用人たちが次々に別れの言葉をかけてくる。

 最初はもっと俺のほうから距離を置いていたはずなんだが……今ではそれもだいぶ縮まったな。

 まあ、魔力交流をした奴はみんな仲間……こいつらみんな、俺の大事な仲間ということだ。

 そんな想いを込めて、使用人たちそれぞれに返事をする。

 そうして挨拶が済んだところで部屋を出る。

 そして屋敷の前では、義母上たちを中心に屋敷のみんなが見送りに集まってくれている。


「アレス、思いっきり楽しんでくるといいよ!」

「アレス君、体に気を付けて元気でね」

「はい、兄上たちもお元気で」

「何かあったら、遠慮しないで必ず連絡してくるのよ、いい?」

「はい、頼りにさせていただきます」

「何もなくても、いつでも何度でも連絡してきていいんだからね?」

「……それは母上が連絡してきて欲しいだけでしょう?」

「当たり前じゃないの!」

「……アレス様、リューネ様の手紙を私が定期的にお持ちいたしますので、そのときに返事も書いていただければ幸いに存じます」

「はぁ……そうやって、ルッカはすぐ母上を甘やかすんだから……まったく」

「いいのですよ兄上、私も母上に何か報告できるよう日々を有意義に過ごしたいと思います」


 それに、ルッカさんと定期的に会えるっていうのも嬉しいことだからね。


「ま、アレスも負担にならない程度にね」

「はい、お気遣いありがとうございます」


 こうして、ソエラルタウト家のみんなに見送られながら出発する。

 さて、学園都市までの道中、何があるかな?

 なんて楽しい出来事を期待しながら、移動開始だ!

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