第380話 同行者

「アレス、さっそくリリアン様のところに行きましょうか」

「はい、そうですね」


 先ほど昼食を終えて、これから母上のお墓に出発の挨拶に向かう。

 義母上と一緒に行こうと約束していたし、しばらくソエラルタウト領を離れることになるからね。

 そんなことを思っているうちに母上のお墓に到着。

 前に来たときも思ったけど、ここは本当に荘厳な雰囲気が漂っているね。

 そうした澄み切った空気の中、義母上と並んでお墓の前で祈りを捧げる。


『母上、私は明日ソエラルタウト領を出発いたします』

『母様、行ってくるよ!』


 そしてまた、あたたかい光に包まれる。

 心地よい光の抱擁を受けながら、しばらくの時間を過ごす。


『母上、今日のところはこれにて失礼いたします』

『次はたぶん、春休みに来るよ!』


 こうして、母上のお墓を後にした。


「リリアン様も、アレスが挨拶に来て喜ばれていたわね」

「母上にそう思っていただけたのなら、嬉しい限りです」

「いつにも増して強く優しく煌めいていたし、きっとこれからの旅も、あたたかく見守ってくれていると思うわ」

「母上の愛情に感謝の念でいっぱいです。春休みにはまた、元気な姿で母上にお目にかかりたいと思います」

「そうね、そのときをリリアン様も楽しみにされているでしょうね」


 こんな感じで、義母上と母上トークをしながら屋敷に戻った。

 また、このときの義母上であるが、とても目を輝かせて生き生きとしていた。

 やはり、これがリリアンガチ勢というものなのだろう。


「それじゃあ、またあとでね」

「はい、今日はご一緒できて嬉しかったです」

「ふふっ、私もよ。また一緒に行きましょうね」

「喜んで!」


 こうして義母上と別れ、自室に戻る。

 そして応接間に、ギドをはじめ使用人たちが勢ぞろいする。


「アレス様、明日からの同行者が決定いたしましたので、改めてご挨拶申し上げます」

「ほう?」


 そういえば、アレスのお供権を賭けて使用人たちが争奪戦を繰り広げていたんだっけ?

 その選抜についてはギドに任せていたからなぁ。

 さて、誰が選抜メンバーなのか……


「まず、アレス様も知ってのとおり、私ことギドがお供いたします」


 まあ、うん、そうだね。


「サナです」


 アレス付きの使用人たちの中で、ギドを除いて一番魔力操作に長けていた子だったからな、納得という感じだ。


「ノムルです! またご一緒できて光栄です!!」


 なるほど、「撲殺令嬢」って呼ばれてた子だな。


「そしてわたくし! ヨリがアレス様の快適な旅をお約束いたしますわ!!」


 ふむ、「平民力」に自信アリって豪語していた子だな。


「以上の4名が同行させていただきます」

「分かった、よろしく頼む」


 まあ、サナとノムルはもともと魔力操作の練度がほかの使用人たちより高めだったし、この前のモンスター狩りでも実力を見せていたからな、まさに順当といったところか。

 そしてヨリの場合は、サナやノムルより多少練度が落ちるものの、日頃の訓練の様子から実力的にはその次ぐらいだと思うので、これまた妥当な人選だろう。


「……くっ、もっと学生時代に頑張っておけばよかった」

「ぶっちゃけ……サナとノムルは軍に入って魔法士とか騎士をやってたほうがよかったんじゃないの?」

「まあまあ、今回はしょうがないって……次だよ! 次っ!!」

「そうそう、俺たちだって次は本気で行くからな!」

「はぁ? その今回は譲りました感、ダッサ!」

「ホントね~あんたらみたいなチョボいのにウチらが負けるわけないでしょ」

「な、なんだとぉ?」


 今回の選抜を逃した使用人たちが、こんなふうに言葉を零している。


「俺も春休みには帰ってくるつもりだし、ともに行動する機会もまだまだあるだろう。それまでにしっかりと鍛錬を積んで実力を高めていることを期待しているぞ」

「はい! かしこまりました!!」


 まあね、俺がソエラルタウト領に帰ってきてから訓練を始めた使用人もいるしさ、よほどの才能でもなければさすがに数週間で一気にトップっていうのはなかなか難しいよね。

 でも、数カ月先の春休みならどうなっているか分からんぞ?

 そう思えば、今度また使用人たちに会うのも楽しみになってくるというものだ。

 というわけで、同行者の発表が終わったところで夕食だ。


「アレスは明日出発でしょ? しばらく会えなくなるし、今日は最後に模擬戦をやらないかい?」

「本当ですか? ありがとうございます!」

「あらあら、別れの挨拶が模擬戦とは、本当にやんちゃさんな兄弟ねぇ」

「セス……」

「マイネ、違うからね? 決して書類仕事から逃げたいからってわけじゃないからね!?」

「ええ、分かっているわ、アレス君とは戦いの中での語らいが一番想いが伝わるのでしょう? それに……明日の仕事が増えるだけだもの、気にする必要はないわ」

「そ、そうだよね、あはは……」


 兄上、理解ある義姉上でよかったですね!

 あと……サボるつもりはないのだろうけど、書類仕事があんまり好きじゃないっていうのも正直なところなんだろうなぁ。

 まあね、俺も苦手だと思うし、その辺は似てるよね!

 こうして夕食を楽しんだあとは、兄上と模擬戦。

 お互いの想いを剣と魔力に乗せ、心ゆくまで戦う。

 そして改めて思う……兄上が兄上だったからこそ、俺は変な緊張感に苛まれることなくソエラルタウト領で楽しく過ごせたんじゃないかってね。

 雪の街を開発して、念願のスノーボードもできたしさ!

 だから……ありがとう、兄上! また会う日まで!!

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