第383話 健気に頑張るわたくし

「そろそろ日も暮れてきましたので、本日の移動はここまでとして宿を取ってはいかがでしょう? ちょうど、少し進んだところに街もあることですし」

「ふむ、そうだな……お前たちはどうだ?」

「さんせ~い!」

「右に同じ」

「……ふぅ、助かりましたわ……これでなんとか、今日の移動を乗り切れそう、ですわ!」

「ヨリ……午前中に魔素の魔力変換能力の向上を課題としたらどうかという話はしたが、無理はするなよ? ペースがキツければ遠慮なくいえばいいし、魔力ポーションだって飲んだらいい」

「お気遣い感謝いたしますわ……ですが、今はまだ大丈夫でございます」


 確かにな、見た感じまだ大丈夫そうではある。

 これはちょっとプライドを傷付ける物言いだったかな?


「……そうだな、余計な発言だった、許せ」

「いえっ! そんな、とんでもない! アレス様に気にかけていただけて、心の底から嬉しさでいっぱいですわっ!!」

「そうか」


 とはいえ、本人は無理をしている自覚がなかったとしても気付かないうちに……ってこともあるかもしれないからな、一応それとなく気にはかけておいたほうがいいだろう。


「もしかしてヨリったら、『健気に頑張るわたくし』ポイントを稼いじゃってる?」

「そう……かも?」

「これは、私たちもうかうかしてられないんじゃない?」

「……いや、一概にそうともいえない。か弱い娘という要素は、アレス様の好みにさほどの重要性はないと思われる」

「う~ん……そっか! そういえばあの人たちもみんな強いもんね!!」

「そういうこと。私たちが稼ぐべきは、実力に裏打ちされたポイントでこそあるべき」

「サナの理屈っぽさも、こういうときには役に立つね!」

「その一言は余計」


 とかなんとか、俺がヨリと話しているうちに後方でノムルとサナがヒソヒソと話し合っている。

 まあまあ俺の聴覚ってイケてるからね、そういうナイショ話も拾っちゃうのさ。


「見えてきましたね。あまり大きな街ではありませんが、一晩の宿を取るぐらいならじゅうぶんでしょう」

「ああ、違いない」


 そんなわけで、街に到着。

 そして本日泊まるホテルの手配をギドがササッと済ませる。

 こういった、こまごまとしたことを人にやってもらうというのは実に楽でいい。

 その点では、ソロよりもアリっていえるかもしれないね。

 というわけで、ホテルのスイートなルームへ移動。

 まあ一応ね、ギドたちは俺の護衛という意味も兼ねているつもりらしいからね、それをやりやすいように一続きの部屋に泊まるというわけさ。

 それはともかくとして、腹内アレス君がそろそろ待ちきれない! って感じになってきているので、夕食をいただきに行こうじゃないか。


「さて……ここはもうソエラルタウト領ではありませんわ」

「ふむ、そうだな」


 本人の実力にもよるが、基本的にウインドボードのほうが馬車より速いからね、既にソエラルタウト領も越えているんだ。

 個人的に、シノリノさんの馬車で送ってもらいたいっていう気持ちはもちろんあったのだが、シノリノさんも雪の街へ物資の運搬をするのに忙しそうだったからね……

 加えて、道中で道草を食いたいっていう気持ちもあったしさ……ごめん腹内アレス君、その辺に生えてる草を食べるつもりじゃないからね?

 すっかりグルメとなった腹内アレス君が、「道草を……食べるのか?」っていう反応を示してきた。

 いや、もともと侯爵子息なんだから、普段から食べる物は高級品だったかもしんないけどね……むしろ、俺の影響で庶民の味付けを覚えたまであるかもしれないし……

 ああ、そうじゃなくて、ウインドボードで時間短縮ができるので、途中でちょっとした観光を楽しむ余裕があるって話だ。

 まあ、俺の観光っていっても冒険者的なことが中心になると思うけどね。

 んで、ヨリはソエラルタウト領を越えたからなんだっていいたいんだろう?


「お忍びという設定はいつまで続けられますの?」

「ん? ああ、それか……ソエラルタウト領内だと何かと面倒があるかと思ったからな……ここからはお前たちに任せるとしよう」

「かしこまりましたわ」

「いやいや、私たちの中で一番ヨリが忍んでなかったじゃ~ん」

「それは逆、一番忍べていなかったからこそ、私たちに使用人仕様を求めているに過ぎない」

「そ、そんなことありませんわ」

「ホントに~? 目が泳いでるよ~?」

「ヨリ、無理はよくないとさっきいわれたはず」

「むぅ……」

「ま、俺も設定が適当で頻繁にバレてたからなぁ、そんなに気にすんなよ」

「そうですね……私はようやく『アレックスさん』と呼び慣れてきたところでした」

「ああ、別にそのままでもいいぞ? 俺も基本的には冒険者のアレス君のつもりで行動するつもりだしな」


 というかたぶん、ギド的には「坊ちゃま」が一番しっくりくる呼び方なんだろうしな……


「私も~お忍びモードのときのほうが距離感が近い気がするし、気楽だからこのままでいっかなぁ~」

「……ノムルの場合は単純にガサツなだけ」

「あ~っ、いったな~? サナだって、ぶっきらぼうな話し方のクセにぃ~!」

「あら、ごめんなさいね……私は場面に応じて使い分けていただけなのよ?」

「むっきぃ~っ! なんちゅう減らずぐちぃ~!!」

「ほらほら、2人とも……あまり騒がしくするものではありませんわよ?」

「フッ、元気のいい娘さんたちだ……」

「一応、この中ではアレックスさんが一番お若いのですがね……」

「……まあな」


 前世のことを考えると、心の年齢はサナたちと同じかちょっと上ぐらいなんだけどね……

 いや、それはそれとしてガキっぽい性格をしているといわれたらそれまでだけどさ……

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