第642話 嫉妬してるだけじゃね?
「皆さんの期待に応えられるよう頑張ってきます……それでは!」
呼び出しを受けたサンズは、俺たちに激励を受けながら舞台へ向かった。
「次はカイリーとサンズか……どっちが勝つかねぇ?」
「カイリーも王女殿下の取り巻きらしく、確かな実力を持っているが……それでも、おそらくサンズだろうな」
「おいおい、正気か? サンズなんぞ……単なるロイターの腰巾着でしかないだろ?」
「そうだそうだ! ロイターさんのおこぼれにあずかる、ごっつぁん野郎め!!」
「ま、あんなチビ助……ここまではなんとか運よく勝ち進めたんだろうが、そう何度も幸運は続かねぇだろうよ」
「……お前らこそ正気か? サンズは間違いなく強いぞ?」
「うむ……あの強さを運だけというには無理がある」
「まあ、ロイターさんが目立ちまくってるから、その陰に隠れがちになってるのは確かだけどな」
「つーか、お前ら……サンズに嫉妬してるだけじゃね?」
「だろうね、サンズ君……女の子たちにモテモテだし」
「それをロイターのおこぼれって考えているのかもしれんが……まあ、そういうこともないわけじゃないだろうが、多くはサンズ自身の人気によるものに違いあるまい」
サンズに嫉妬か……まあ、そうだろうなって感じだね。
それに、前世でも身長の低い男子というのは舐められがちだったし……おそらく原作ゲームの制作陣にもなんとなくそういう感覚はあっただろうから、この世界にもその感覚が反映されているんじゃないかと思う。
そして……さすがに魔力操作万能論者の俺ではあっても、悔しいことにロイターの横とサンズの縦という課題については未だに成果を出せていないのが現状だ。
「……おい、またおかしなことを考えていたのではあるまいな?」
「うん? 俺はただ『サンズ君、がんばえ~!』って思っていただけだが?」
「まったく、お前という奴は……」
隣の席に座っていたロイターが、俺の心を読んだみたいだ……
そんなこんなしているあいだにも舞台は着々と整備されていき、サンズとカイリーは武器の選択をしている。
まあ、岩を全部片付けたとしても、あちこちクレーターができているし、地割れもあるからね……地属性の魔法でキレイに均さないといけないのさ。
「今回、初めて武闘大会を見に来たんだが……物凄い魔法の数々に圧倒されるばっかりだよ……」
「いやいや……今年の1年生が特別なんだと思うぞ?」
「ああ、俺はもう何年もこの武闘大会を観戦してきたが……こんなに大規模な魔法が連発されるのを見るのなんて初めてだ……」
「次の試合はどうなるんだろうな? やっぱり、また凄い魔法が飛び出すんだろうか?」
「あるかもなぁ……」
「なんか、やっぱり俺たちみたいな平民とは住む世界が違うんだなって気がしてくるよ……」
「だなぁ……」
「まあまあ、それはそれと割り切って、スゲェもん見せてもらってありがとうの精神で行こうぜ?」
「まあ、こういう優秀な人らがいてくれるから、モンスターに怯えて暮らさずに済んでるっていうのもあるだろうし……」
「そう思えば、頼もしくもなってくるってもんだな!」
平民出身だろうと、魔力操作を頑張れば可能だ。
まあ、大規模な魔法を使えるようになるまでには時間が相応にかかってしまうだろうけどね。
そんな感じで一般の観客たちの会話を耳にするたび、人々に魔力操作の練習を啓蒙していこうという思いが強まっていく。
『舞台の整備、それから選手たちの装備品チェックが終わりました。そうして両者とも舞台に上がり……中央にそろったところで、王女殿下から胸ポケットに最上級ポーションが挿入されます』
「チッ……カイリーはともかく、サンズの野郎……顔色一つ変えないとは、かわいげのねぇ……」
「ちょっとばかりモテてるからって、調子に乗りやがって……」
「……ちょっとじゃないと思うけどね?」
「うるせぇ! 余計なちゃちゃを入れてくんじゃねぇ!!」
あいつら、毎試合チェックを入れてるみたいだけど、よく飽きないな……
まあ、そんな会話を毎回耳に拾ってしまっている俺もどうかと思うけどさ……
なんて思っているうちに、ポーションの挿入が終わった王女殿下は舞台から降り……あとは審判の開始の声を待つばかり。
「……それでは、両者構えて!」
そういって審判が右手を天に掲げ、振り下ろすと同時に……
「始め!!」
『さぁっ、1回戦第6試合! カイリー・スノルアクツ対サンズ・デラッドレンスの試合が始まりました!! ここでスタンさん、両者の戦闘スタイルや見どころなどはどういったところでしょう?』
『そうですね……まずカイリーさんは、もともと槍術の技量の高さが目立っていましたが、最近になって急激に魔法の技量も上げてきています』
『なるほど! 槍術に魔法の技量が加わり、できることの幅が広がっているわけですね!!』
『ええ、そういえるでしょう……対するサンズさんはというと、やはりその小柄な体型とはアンバランスな大剣が目立ちますが、これを一般的なロングソード……いや、ショートソードやナイフでも振るうかのごとく自由自在に扱えるところが特徴といえるでしょう』
『自由自在に!? それは凄い!!』
「加えて、大剣を持っているのが信じられないほど機敏に動くこともできるので、カイリーさんはサンズさんをどうやって捉えるか……サンズさんはサンズさんで、カイリーさんにどうやって接近するか……こういったところがポイントになってくると思います」
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