第83話 杞憂だった
最近の俺はなにかと自分が本当に異世界転生者なのか信じられなくなる失態を重ねていたので、先ほどの無自覚系ムーブをかましていたという事実により、自信を少し取り戻すことが出来た。
そんな充実感に浸りながら、憧れのエリナ先生の授業が始まる。
そこで俺が気分よくエリナ先生の凛とした涼やかな声を耳で味わっていたところ、背後にビシビシと敵意の波動を感じる。
……またか、つい先日もマヌケ族によって汚染された敵意君の思考をエリナ先生が浄化するなんてことがあったばかりなのに。
とりあえず、敵意君が再度マヌケ族の餌食になったってわけじゃないね、だって彼とはクラスが違うから。
まったく、マヌケ族なんかの思考誘導にかかったAクラスの残念ボーイはどこのどいつだい?
仕方ない、一応俺に敵意をぶつけてきている奴を魔力探知で探ってみるかね。
……なんだろう敵意ではあるんだろうけど、敵意君みたいに思考を誘導された人間特有の粘着質な感じではないな。
そしてマヌケ族絡みの魔道具らしき反応も感じられない。
……マヌケ族は関係ない?
あ、今エリナ先生と目が合ったけど、微かに苦笑いしてる。
どうやら、俺の杞憂だったと考えてよさそうだね。
なんというか、なんでもかんでも悪いことはマヌケ族が原因って思考にどうしても陥りがちになるな。
……まぁ、それだけあいつらがゴミカスだってことでファイナルアンサーしとけばいいか。
それから、俺に敵意をぶつけてきている奴に関しては放置でいいや、マヌケ族が関係していないんだったら、なおさらね。
余裕のある男っていうのは、小さき者にいちいち構わないものさ。
さて、思考の若干の部分を無駄なことに割いてしまったが、大した問題でもなさそうなので安心してエリナ先生の美声を堪能することに集中し直そう。
こうして、幸せな授業時間が過ぎていった。
教室から食堂への移動の際、先ほどの奴の顔をちらっと見てみたが、やはり知らんね。
こりゃ原作案件でもなさそうなので、さらに気にする必要がなさそう。
そんな感じで、食堂まで続く廊下を歩いているときにすれ違う学生たちをなんとなく眺めていると、なんかみんな妙にギラついてるね。
特に男子は狩猟者の眼になってる。
さっそく、朝食で言われていた狩猟民族の勘が総動員されているって感じかな。
果たして何人の狩人が獲物を捕らえることに成功するのだろうか……まぁ、頑張りたまえよ、若人たち。
そんな感じで、昼食を済ませた後はオーガの領域への移動手段を模索することにした。
いや、オーガについては既にそこまでの執着はないんだけど、これからのことも考えると移動手段はなにかしら持っておいた方が便利だと思ってね。
というわけでやって来ました魔法練習場。
まずは足の裏を押し出すように風属性魔法を放って、飛ぶというより跳ぶって感じを試してみるか。
ふむ、角度を調節しなきゃだけど、普通に自分の足で地面を蹴り出すよりは歩幅を大きく出来るね。
最初はちょっとビビってたから込める魔力を弱めにしたが、これならもう少し込める魔力量を増やしても大丈夫そう。
そうして徐々に増やしていった結果、今度は勢いが付きすぎて着地にフラつく段階まで来た。
今の俺の体幹等の身体操作能力だと、これぐらいが限度か……ううむ、だいたい10メートルってところか。
そこまで遠くない距離の移動ならこれでもアリだな。
それと、これを戦闘に上手く組み込めれば一瞬で距離を詰めたり、ヤバいときの緊急離脱にも使えそうだ。
これはあれだね、言い方や原理はいろいろだったけど前世の漫画キャラが使ってた瞬歩とか縮地みたいなことの俺なりの再現って言えるかもしれないね。
よっしゃ、これはこれで継続的に練習を重ねていこう。
お次は同じ要領で背中に追い風を受ける感じで行ってみるか。
……う~ん、これは背中から誰かに突き飛ばされてる感じがしてなんか気持ち悪いな。
かと言って、魔力弱めだと移動距離がその分減るし。
その後、しばらく続けてみたが、なんかしっくり来ないので一旦保留。
前方へまっすぐ進むだけなら、これでもいいんだけど、俺の感覚的に足から行った方が使いやすい気がするな。
とりあえず、なんかひらめきがあるかもしれないから、こっちも練習は定期的にするとして、メインは足にしよう。
これで一応なんとなくの感じは掴めたし、あとは最初に森の木を超える高さまで飛び跳ねてから、一歩一歩に合わせて踏切板みたいなイメージの風属性魔法を足の裏に当てながら走るって感じでしばらくは練習してみようかな。
……待てよ、よく考えたらスノーボードみたいな板に風属性魔法を当てるのもアリだな。
異世界転生の先輩の中にはそんな感じのことをしていた人もいたような気がするし!
今日はもう時間的に微妙だから明日、ミキオ君を勧めてくれた武器屋のオッサンにでも相談してみるかな。
盾に加工する前の鉄板あたりを売ってもらおう……盾そのものを足場にしたら武器屋のオッサンに切なそうな顔をされそうだし。
そんな感じで、腹内アレス君に夕食の時間を告げてもらうまで、空中移動の練習を続けた。
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