第534話 一番のきっかけだったかもしれんな
セテルタと一緒のところにエルフ族の男が来たので、話の内容をセテルタも聞いていた。
「へぇ、聖樹かぁ……やっぱり、アレスはいろいろ凄いんだなぁ」
「フッ、まあな! ……といいつつ、部屋で木を1本育てているだけだから、エルフにいわれるほど『これが聖樹だ!』みたいな感覚はないんだけどな」
「まあ、僕たち人間族にそこまで植物に対する鋭い感覚はないからねぇ? ああ、でも、アレスはこの夏休み、農村を救って回ってたって話だっけ……そう考えると、アレスには植物関係の才能もあるってことなのかもしれないね!」
「いやいや、『救って回った』は言い過ぎだな……ただ、縁があった村の子に魔力操作の素晴らしさを教えてあげて、その子から魔力操作の輪が広がっていったんだ。それで、さらにその中に地属性の魔力に強い親和性がある子がいてな、その子が村の畑を救う方法を見出し、その方法によって近隣の村が救われたってわけさ」
「フフッ、何気にアレスって謙遜するタイプだよね? 結局のところ、アレスが魔力操作を教えるっていうきっかけを与えたからこそ、村々は救われたんだしさ」
「とはいえ、魔力操作自体は誰でも教わることだろ? そして魔力操作は、継続することが困難なわけで、それを続けた人々こそが尊ばれてしかるべきなのだからな」
「それでアレスは、魔力操作に真剣に取り組む人を気に入るというわけだね?」
「まあ、そういうことになるんだろうなぁ……」
「今後ともアレスに認められるよう、僕も魔力操作を頑張ろっと!」
「フッ、俺こそ、セテルタが認めるような魔力操作の熟練者にならねばな!」
「……お前たちは、ここでも仲がいいようだな? それにセテルタ……周りの者たちを追い払ってまで、アレスと一緒だったとは……」
「まあ、あの方たちにもそれぞれ挨拶したい方……それに意中の方なんかもいらっしゃるでしょうからね……そして、僕たちも挨拶しておきたい方のところへはだいたい回ってきました」
ここで、ロイターとサンズが合流。
「……ハァ……疲れた……挨拶回りとか、ぶっちゃけしんどい……」
「トーリグ……そういうことは思ってても、心の内に秘めておくものですよぉ?」
「ハソッドもそれ……いっちゃってるよね?」
「……」
「ふむふむ……こういうときこそ、ヴィーンの無口さが武器になるというわけだな!」
「フフッ、武器かぁ……なるほど、それなら僕も見習っておいたほうがいいかな?」
「セテルタ……アレスの軽口を真面目に受け止め過ぎるのもどうかと思うぞ?」
「まあ、アレスさんはその場のノリ任せで発言することも多いですからね……」
そんなこんなでヴィーンたちも集まってきたことで、男子チームはほぼそろったといえるだろう……ああ、『ほぼ』っていうのは、セテルタの取り巻きたちがまだだからね。
「ファティマさんやパルフェナさんも、なかなか交友関係が広いのねぇ?」
「いえ、エトアラさんほどではありません」
「そうですよぉ、それに最近仲良くなった子も多いですし!」
「あらぁ、そうなのぉ?」
「ええ、学園に入ってから接するようになった令嬢も多いです」
「やっぱり領地が離れていると、なかなかお会いする機会もないですからね~特に私たちは王都からも離れていますし」
「そうねぇ、学園ならではというのは確かにあるかもしれないわねぇ? それに、わたくしたちもこうして学園の中で交友を深めることができたのだったわね」
「ええ、おっしゃるとおりです」
「とっても光栄です!」
とかなんとか話しながらファティマとパルフェナ、そしてエトアラ嬢たちも挨拶回りを終えて戻ってきたようだ。
そんなとき、腹内アレス君の食事要求がきた。
よしきた、挨拶回りも一段落したことだし、メシにしよう!
「さて……俺はそろそろ食事を楽しみたいと思う」
「おっ、そいつはいいな! 俺も行くぜ!!」
俺の発言にトーリグも同調し、それで流れができたのか、みんなでお食事タイムとなった。
フフッ……食うぞぉ!
そしてこのとき、ファティマの目が一瞬光ったのを俺は見逃さなかった!
コイツ……また、食わせる気だな!!
………………
…………
……
……俺の予感は正しかった。
ファティマは男子チームの皿が空になるタイミングを見計らって、次から次へと食事を取ってきたのだった……
その際、エトアラ嬢の取り巻き女子たちも、なんとなく黙って見ていることはできなかったようで、食事を運ぶのを手伝うのだった。
「そういえば……模擬戦の反省会のときも、ファティマさんは大量に食べ物を出してきたっけ?」
「そうだぜ、セテルタさん!」
「よく鍛錬し、よく食べよ……ということなのでしょうねぇ……」
うん、反省会のときはいつもそんな感じだね。
まあ、俺も腹内アレス君の求めに応じて結構食べるからなぁ。
「僕なんか、アレスさんたちと模擬戦とかをするようになって、ちょっと体の肉付きがよくなってきた気がするんですよね……」
「……確かに、ソイルは少し体の厚みが増したかもしれない」
ソイルに対するヴィーンの発言……お前、やっぱりソイルのこと、ちゃんと見てたんだな!!
なんてちょっと、目頭が熱くなりそうな気がしないでもなかった。
また、そんな2人のやりとりに笑みを深めているお方がいらっしゃる……それはもちろん、ファティマさんだ……
「……そういえば、これがアレスと決闘をする一番のきっかけだったかもしれんな」
「……ああ、懐かしいな?」
「そういえば、そうでしたねぇ……」
なんてロイターとサンズとしみじみ語り合いながら、食事を楽しむのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます