第535話 そんなに緊張することもないでしょう?

「え~っと、こっちにあるのはエスカルゴか……う~ん、やっぱりどうしてもお上品なんだよなぁ……私としてはもっと、こう、パンチの効いたモノをこそ求めたくなっちゃうんだよなぁ……でもまあ、こんな煌びやかな夜会なんだもん、当然といえば当然かなぁ……お~いっ、ズミカ! どう? そっちにはいいのあったぁ?」

「う~ん、あんまりかなぁ……?」

「そっかぁ……期待薄だけど、ほかのテーブルも探してみよっかなぁ?」


 ……あれは、いつだったかの昆虫食ガールズでは?

 そしてズミカとか呼ばれてる子……思いっきり堂々と魔族の姿を晒してるじゃないか。

 そんなことを思いつつなんとなく眺めてたら、彼女たちがこちらに近づいてきた。

 残念だが、こっちのテーブルも君らが求めるような尖った料理はないぞ?


「……あら? ごきげんよう、いつぶりだったかしら?」


 そのとき、ファティマも昆虫食ガールズが近づいてきていたことに気付いたようだが……どうやら知り合いっぽい。


「えっ! あっ!? ご、ご無沙汰しております、ファティマ様ッ!!」


 ファティマに声をかけられて、ようやく向こうも気付いたのか、ズミカとかいう魔族少女が驚いた……というより、めっちゃ恐れおののいた態度で返事をしていた。

 ……なんていうか、ビビり過ぎじゃね?

 その辺の男子が俺に対するときより、震えているように見えるんだけど……これは気のせい?


「ふふっ、私とあなたの仲なのだから、そんなに緊張することもないでしょう?」

「あっ! いえッ! そんな、恐れ多いですッ!!」

「私……あの日、あなたに素晴らしい発想の転換をするきっかけをもらえて、感謝しているぐらいなのよ?」

「えっ! えぇっ!? そ、それは……ぐ、偶然ですッ! ハイッ!!」

「そうかしら? まあ、どちらにせよ、感謝だけはさせてもらうわね、ありがとう」

「そんな、恐縮ですッ! すいません!!」

「それじゃあ、引き留めて悪かったわね? 引き続き、よき夜会を」

「はっ、はひぃっ! すいません! ありがとうございますッ!!」


 そうしてファティマと魔族少女の会話は終わった。

 なんというか、終始ファティマにビビりっぱなしだったけど……君、それでもプライドの高い魔族なの? って聞きたくなっちゃうね。

 あれじゃあ、まるで……俺と戦ってプライドをズタズタにされたときのマヌケ族みた……いッ!?

 もしかしてファティマの奴……あの子を過去にボコったことでもある!?

 そういえば、あのカフェのときも……今も一緒にいた友達の子に人間族に擬態してたみたいなこと話してたもんな……

 なるほどね……ファティマ、恐ろしい子……ッ!!


「……何かしら?」

「あっ、いえ……ファティマさんが運んできてくれたお料理、とても美味しいです……ハイ」

「そう? それはよかったわね……その調子でもっと食べるといいわ」

「……ごっつあんです」


 命までは取らなかったみたいだけど、ファティマも過去にマヌケ族を撃破経験アリというわけだな……

 ま、まあ……ファティマが実力者なのは、もともと俺も認めていたことではあったし?


「へぇ~っ、ズミカってファティマ様と知り合いだったんだねぇ? すっご~い!」

「い、いや……そこまでのことじゃないから……あは、あはは……」


 昆虫食ガールズは、そんな会話をしながら遠ざかってゆくのだった……

 まあ、一緒にいた子としては、平民が単に貴族令嬢に対して恐縮しているようにしか見えなかったんだろうなぁ……


「あの方……確か、コモンズ学園長の庇護下にある方だったかしら?」

「ええ、そのようです」

「ふふっ、本当に……ファティマさんは交友関係が広いのねぇ?」

「彼女に倣っていえば、偶然ですね」

「オーッホッホッホッホ! 実に面白い……ますます気に入ったわ、ファティマさん!!」

「ありがとうございます」


 どうやらエトアラ嬢はファティマのことを、かわいい後輩からさらに格上げしたようだね……

 まあ、察するものもあるだろうからね……


「……」


 そんな2人……というか、エトアラ嬢を感情を表に出さず見つめている男がいる……セテルタだ。

 やっぱ、なんだかんだいってエトアラ嬢の動向が気になっちゃうんだろうなぁ……

 そんなこんなで、なおも食事タイムは続いていく。

 そこで、周囲の様子を眺めていると……

 ここから少し離れた場所だが、シュウという名の武術オタクのメガネがいた。

 ……相変わらず、武闘派オーラの凄い令嬢たちに囲まれている。

 あの集団……なんというか、形としてはハーレムのようではあるのだが……どうにもそんな華やいだ雰囲気じゃないんだよなぁ。

 ……あれで20代のお姉さんたちなら、もう最ッ高だろうになぁ。

 そんなことを思いつつ眺めていると、シュウからのほほんとした笑顔を向けられた。

 まあ、アイツなら、俺の視線ぐらい簡単に気付くわな。

 それに対し、俺も軽く会釈を返しておいた。

 そこで、ロイターが話しかけてきた。


「……シュウか?」

「ああ、ちょっと目が合ったのでな」

「奴もなかなか謎の多い奴だが……お前が気に入るだけあって、実力は本物だろうな」

「確かアイツ、大会関係には今まで出てないんだっけ?」

「そうだな……そのためもあって、私も直接戦ったことはない」

「今度開催される学園内の武闘大会……それも出ないつもりなのかねぇ?」

「まあ、出場は任意だからな……私も手合わせしてみたいとは思っているが……」

「ま、そのときになってみないと分からんって感じかなぁ」

「そうだな」


 そうしてしばらく経ったところで、ダンスの時間がやってきた……

 さて……そろそろ仕掛けるタイミングだな!

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