第536話 一曲踊っていただけるだろうか?

 ダンスの時間がやってきたところで、俺はまずファティマと踊ることにした。

 というのが、初っ端からセテルタに「エトアラ嬢と踊れ!」といっても「はぁ? なんで?」ってなりそうだからね。

 踊る雰囲気というか、なんとなくそういう流れみたいなものを構築したいと思うのだ。

 そんなことを頭の片隅で考えつつ……ファティマとのダンスに集中せねば。

 そこで、ファティマが小声で話しかけてきた。


「……いよいよ、動き出すときかしら?」

「ああ、そのつもりだ。そこでなんとか、そういう流れに持って行きたいが……」

「そうねぇ……とはいえ、どんな流れを作ったところであの2人だから、最初はゴネるでしょうけれど……」

「やっぱ、そうだよなぁ……もしかしたら最後は、強引に『ゴー!』といわねばならんかもしれん……」

「それでも駄目なときは……王女殿下にお縋りするしかないかしらねぇ?」

「うむ、最終手段……だな」

「まあ、さすがにあの2人でも、王女殿下の言葉を無碍にはできないでしょうからね」

「……違いない」

「ふふっ、きっと大丈夫よ」

「ああ……そうだな」


 ファティマがこういっているのだし、俺のお姉さんセンサーも「イケる!」って判定を下しているのだ……よっしゃ! 自信を持っていこう!!

 そうしてファティマとのダンスを終え、お次はパルフェナと踊る。

 ……まあ、ある程度は普段から見慣れているつもりだとはいえ……やはり、こうも接近しているとね……パルフェナは「富める者」なのだなと……改めて強く思った。

 ……おっと、いかんいかん! 男のそういう視線っていうのはバレバレだっていうウワサだからな……気を付けねば!!


「……あはは、気を遣おうとしてくれて、ありがとね」


 ……バレてましたね。

 ……ごめんなさい。


「……それはそうと、今回のこと……上手くいくといいね!」


 パルフェナのほうから話題を変えてくれた……ありがたい。


「ああ、なんだかんだあの2人、相性はいいハズ……だと思うからな」

「そうだね、私もそう思うよっ!」


 こうしてパルフェナからも激励を受けたことにより、ますます自信を深める。

 そんなこんなで、しばらくはなんでもないような、さりげない感じでダンスの時間を過ごす。

 その際、これまで食事を共にしてきた女子たちとも踊る。

 また、その子たちの様子を見てみると、俺の心からの言葉に応えて魔力操作に取り組んでくれていたのだろう……魔力の感じが、食事を共にしたときよりよくなっているのだ!

 いいぞ! 実に素晴らしい!!


「……私、魔力操作に真面目に取り組むようになってから、お肌の調子がよくなった気がするんですよねぇ……これもきっと、アレス様のおかげですよね!」

「回復や身体強化なんかもできるように、魔力にはそういった効果もあるのだろう……といいつつ、君はもともと美しかったと思うがな」

「まぁっ! アレス様ったら……お世辞だとしても嬉しいです……本当に」


 いや、マジでルックスはもともとよかったと思うよ!


「俺の言葉を真剣に受け止め、魔力操作に真面目に取り組んでくれた……その心の在りようにこそ称賛を贈りたい。そして、その調子でこれからも魔力操作を続けていってくれたらと思う」

「はい、アレス様のお言葉を励みに……これからも頑張ります!」

「ああ、応援している……共に頑張ろう」

「はいっ! ありがとうございます!!」


 ……といったやりとりが何人ともあったね。

 それから、腹内アレス君お気に入りのクッキーの子!

 確か名前は、メノ・ルクストリーツ!!

 あの子とも踊った……いつもは腹内にいるアレス君が表に出てね!!

 ……いや、俺が押し出したといえるかもしれない。

 だって、あの子に関しては、明らかに俺より腹内アレス君のほうが気に入っていたからね!!

 まあ、俺にイジられる照れもあってか、思いっきり渋っていたけどね……

 でも、最後は本当に渋々ながらも表に出たって感じだった。

 それと、これによってハッキリしたが、腹内アレス君は出ようと思えば、自分の意思で表に出ることができるみたいだね。


『フン、今回は特別だ……お前がうるさかったからな!』

『おやおや……そうでしたか……』


 ……なんて、心の中でニヤニヤする。


『……うるさい! お前には今回やるべきことがあるのだろうが! そっちに集中しろッ!!』

『フフッ……そうだったね』

『まったく……食事が終わったのなら、俺は寝るんだ! くだらんことで起こそうとするな!!』

『おーけー』


 ……とまあ、そんなこともありつつ、次はエトアラ嬢と踊ろうか。

 なんか知らんけど、ダンスが始まってから気配を消してたんだよね。

 そんなわけで、エトアラ嬢は……っと、いたいた。


「一曲踊っていただけるだろうか?」

「あら、そんな気を遣わないでもいいのに……いったでしょう? 1年半は自由にしていいって……」

「まあ、そういわず……一緒に参加したのだし」

「ふふっ……それもそうね」


 そうして、エトアラ嬢と踊る。


「……わたくし、あなたとファティマさんの仲を引き裂きたいとは思っていないの……あなたが本気で彼女と添い遂げたいと思っているのなら……ね」

「……ッ!? い、いや、俺とファティマは……いろいろな話は出ているのだろうが、同じパーティーの仲間で……友達だから……」

「……さてね、自分の本当の気持ちなんて……意外と分からないものよ?」

「……ふむ」


 なんともコメントに困る発言だが……

 この際、ファティマのことは置いておくとして、やっぱりエトアラ嬢は俺じゃなきゃ駄目ってわけじゃなかったみたいだね。

 そしてエトアラ嬢は、俺とのダンスのあいだ、ずっと遠い目をしていた……

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