第533話 まさに人徳によるもの

 会場到着までそう長い道のりではなかったが、エトアラ嬢とセテルタの言い合いをBGMとした移動という感じだった。

 それにしても、春季交流夜会のときも思わないではなかったが、カップルの成立している男女から勝ち誇った雰囲気を感じられる。

 そしてその表情は、うちのギドほどではないが、ドヤ顔が浮かんでいる。

 まあ、彼らには勝者という自負があるのだろうね。

 それから、もちろん今回も男子1人に女子複数だとか、反対に女子1人に男子複数という集団もたくさんある。

 あと、単純に派閥で固まってるんだろうなっていう集団なんかもあるね。

 そんなことを思いつつ、会場入り。

 やはり今回は全学年そろっているだけあって、人が多い。

 そうして参加者がみんな会場入りし、夜会開始の時間となる。

 そこでまず、生徒会長さんの開会の挨拶をご拝聴。

 今回の夜会も、運営は生徒会を中心とした実行委員の皆さんがやってくれている。

 とはいえ、参加者たちの多くはそんな挨拶を聞いている振りだけして、心の中ではスルーしているんだろうなって感じだ。

 そうした挨拶などを終え、いよいよ本格的に夜会が始まる。

 そしてまあ、これは毎度のことながら、序盤のうちは挨拶回りからとなる。

 というわけで、一番の上位者である王女殿下へ挨拶に向かう。

 また、俺たちの集団は公爵子息であるロイターや、侯爵子女であるエトアラ嬢にセテルタ、そして俺がいることもあって、順番待ちがほとんどなく、すぐ挨拶できた。

 この際、王女殿下の周囲にいたティオグと目が合い、互いに頷き合った。

 キッチリと王女殿下に話が通っているというわけだね。

 今回の企ては、この時点で勝ち確ということができるだろう。

 とはいえ、全て王女殿下頼りというわけにはいかない。

 話が拗れそうになったら執り成してもらうってだけだ。

 まあ、おそらく最後のほうで出てきてもらうことになるだろうなって気はしてるけどね。

 そんなこんなで、王女殿下への挨拶を済ませる。

 そうして、今度は俺たちが挨拶を受ける番となる……まあ、俺たちも上位貴族の子女となるわけだからね。

 ここで普段は俺にビビり散らしている男子たちだが、夜会という雰囲気とロイターたちも一緒だからということもあってか、若干震えながら俺にも挨拶をしてくる。

 そして女子たちのほうは、いつもより気持ちにゆとりを持って挨拶にきている気がする……なんというか、表情が穏やかとでもいえばいいのか、そこまで決意の滲んだ顔をしていないからね。

 それで挨拶が一段落したところで、せっかくの全学年そろった夜会なので豪火先輩のところに行ってみた。

 するとどうだ……さすがというべきか、男女関係なく大勢集まっているじゃないか。

 そのためもあって、挨拶程度の話しかすることができなかったが、軽くでも話ができただけいいだろう。

 いやまあ、周りの連中が俺を見て遠慮しようとはしてたんだけどね、そういうのは豪火先輩への迷惑にもなるだろうから、適当なところで身を引いたって感じ。

 そして豪火先輩は伯爵子息で、家格としては高いほうではあるが、かといって極端に高いというわけでもない。

 それなのに、これほどまでに人が集まるというのは、まさに人徳によるものだろうと思うね!


「……ガネアッド先輩の人気は凄かったね?」

「ああ、そうだな!」


 豪火先輩のところを辞したところで、セテルタが話しかけてきた。


「それに、ワイルドでカッコいいのはもちろんだけど、さり気ない気遣いもしてくれる人でさ、男とはかくあるべしって思っちゃうね!」

「アレスにそこまでいわせるだなんて、やっぱり凄いんだなぁ」

「ああ、見習うところの多い先輩さ!」

「フフッ、ちょっと嫉妬しちゃうね」


 そんな会話をしつつ会場内を見回してみる。

 今回の夜会には、エルフやドワーフ、それに獣人族など異種族の人たちも参加している。

 まあ、異世界転生者としては異種族に格別の興味を示すべきなんだろうけど、俺自身そこまで特別な関心を持っていない。

 これは前世のときからそうだったのだが、異世界転生系の作品内で主人公が「獣人だぁ! ケモミミィィィッ!!」とかいって大喜びしているのを見たり読んだりしても、「ふーん?」って感じで、あんまり共感とかもできなかったんだよね……

 なんて思って眺めていると、エルフ族の男が近寄ってきた。


「……ふむ、話には聞いていたが、確かに君から聖樹の匂いがするな」

「ああ、前にもそんなことをいわれた気がする」

「うむ、いい匂いだ……おそらく君も、とても大事に育ててくれているのだろうな……エルフとして嬉しい限りだ。ぜひとも、そのまま愛情を持って世話をしていってもらいたい」

「もちろん、俺の大事な家族だからな、いわれるまでもないさ!」

「そうか、家族か……とても素晴らしい、君のような人間族がもっと増えてくれることを願いたいところだ……」

「まあ、それなりにいないわけでもないとは思うけどな……」

「フッ……だといいのだが……おっと、あまり長話をするわけにもいかないね……君と聖樹に祝福を……それでは、失礼」

「どうも」


 どうやら俺は、エルフ族にオッケーをもらえる程度にはキズナ君をしっかり育てられているようだね、よかったよかった。

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