第532話 指図してくるのは遠慮願いたい
「……これも予想していなかったことではなかったが……あなたも一緒とは……」
エトアラ嬢の登場に、若干の戸惑いを見せるセテルタ。
だが、この展開をまったく予想していなかったわけでもないようだ。
まあ、そりゃそうかもしれんね……なぜなら、エトアラ嬢が俺に婚姻を申し込んできていたのだから。
「あらぁ、坊やったら、ご挨拶ねぇ?」
「……坊やではない、セテルタだ」
「ふふっ、そうやって意地になるところが、坊やといわれるところなのよ? まあ、それはともかく、今回の夜会は一緒に参加せず、アレス殿の自由にさせてあげようと思っていたのだけれど、ファティマさんからお誘いを受けてね……」
そういいつつ、軽くファティマに視線を向けるエトアラ嬢。
「このたびは私の誘いを受けてくださり、ありがとうございます」
「うふふっ、かわいい後輩からのお誘いだもの、喜んで応じるに決まっているじゃない」
「光栄です」
……どうやら、エトアラ嬢的にファティマは「かわいい」後輩ということらしい。
いやまあ、見た感じ「きゅるん」としているとは思うけどね……
それにしても1歳年上とはいえ、ファティマ相手にこれだけ余裕を持った態度で接することができる辺り、やはりエトアラ嬢はなかなかの強者であると評価できそうだ……少なくとも心は強いんじゃないかな?
……まあ、ファティマに対して陰口を叩いている奴はそれなりにいたけどさ、そいつらが面と向かって強気でいられるかっていうと、無理そうだからね。
「そうか、ファティマさんが誘ったのか……まあいい」
「……セテルタ様、今からでもお離れになったほうがよろしいのでは?」
「そうですよ……何が悲しくてトキラミテなどと……」
セテルタの取り巻きたちが、離脱を勧めだした。
「……いや、このままアレスたちと一緒に行く」
「お言葉ですが、セテルタ様……」
「我々は、モッツケラス家の恥となりはしないかと心配で心配で……」
「それに、今からでもセテルタ様とご一緒することを希望される令嬢だっておられるはずです」
「然り然り……さらにいえば、ソエラルタウト殿にそこまでこだわらずとも……」
「くどい! ……僕はアレスたちと一緒に行くといったはずだ」
「……ッ……かしこまりました……」
「セテルタ様が、そうまでおっしゃられるなら……」
「………………しかし、なぜそこまで……」
最後のは、本当に極々小さい呟きだったが、俺には聞こえちゃったね。
フッ……俺は地獄耳だからさ。
まあ、そいつはもともと、セテルタが俺とつるむことを快く思っていなかったのだろう。
それはそれとして、こんな感じでゴチャゴチャいわれるなんて、派閥っていうのは実に面倒そうだ。
うん、やっぱ俺にはいらんね!
とはいえ、貴族家の当主となろうって奴には、避けて通れないことなのかもしれない。
そう考えると、より一層ソエラルタウト家を継ぐのは兄上にお願いしたいところだ……まあ、俺がなんと思おうと、親父殿が既にそう決めていることではあるんだけどね。
そんな感じで、ちょっとワチャワチャした感じにもなってしまったが、気を取り直して会場へ向かうことに。
……あ、そういえば、ファティマがエトアラ嬢を誘ったってことを知られて、モッツケラス派閥の奴らからファティマが恨まれてしまうだろうか……?
「……余計な心配をしているようだけれど、気にしなくていいわ」
……らしいです。
相変わらずファティマさんは、俺の心をお読みになられる……
でも、本当に気にしなくていいのかな……?
「あの程度のことで心配しなければならないほど、私もミーティアム家も弱くないわよ?」
「そ、そうか……」
やだ、ファティマさんったら……オットコ前!
「それはそうと、今回はきちんとした服を着てきたわね?」
「はい、ファティマさんのご指導のおかげです」
「結構」
「はい、恐れ入ります」
めでたくファティマさんのファッションチェックを合格できたようだ。
ありがとうギド……お前のおかげだ!
そうして、ギドのことを空に思い浮かべてみたところ……ドヤ顔だった。
……うん、やっぱあの顔はウゼェな。
なんて思っていたところ……
「まったく、坊やったら……配下の者にああまで口答えされるだなんて、躾がなってないのではなくって?」
「……そんなこと、あなたにとやかくいわれる筋合いではない」
「あらあら、そう変に頑張らなくたって、年長者のいうことは聞くものよ?」
「何度もいっているが……たった1歳しか変わらないのに、そう上から目線で指図してくるのは遠慮願いたい」
「さぁて、それは難しい相談かもしれないわねぇ? なぜなら、坊やを見ていると、あまりにも未熟で歯がゆくなってくるのだもの……」
「何を偉そうに……」
「まあ、そうねぇ……わたくしのマネとはいえ、アレス殿に懐くことを選んだのは、坊やにしてはなかなかいい判断だったのではないかしら?」
「なッ……『懐く』だって!? なんとも失礼な物言いをするものだ……あなたこそ、未熟そのものなのでは?」
「うふふっ……そうはいっても、子犬がじゃれついているようにしか見えなかったのだもの」
「……まあ、あなたはそういう人だったな……構わない、好きにいっているといい」
「あらあら、拗ねてしまったかしら?」
なんか、自然とエトアラ嬢とセテルタの言い合いが始まっていたが……この2人、やっぱ仲いいんじゃないの?
ほら、ケンカするほど仲がいい……的な?
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