第815話 報告うんぬんってのは、単なる口実

 嗚呼、もう少しで今日の授業が終わってしまう……

 それは、とてもとても切ないことだ……

 もし可能ならば、この時間がもっと続いて、エリナ先生の美しく透きとおる声をずっと浴びていたい……

 それが俺の、ささやかな望み……

 まあ、明日と明後日は休みで授業がないからいいが……それ以降の地の日からはまた授業があるのに、おそらく休まざるを得ない……

 うぅむ、そんなエリナ先生に逢えない日々のことを考えると……寂しさで心が押し潰されてしまいそうだよ……

 それでも、俺と同じように片想いの美学を実践しているワイズに協力するためだからな……ここはググッと我慢のしどころだろう。


「区切りもいいし、今日の授業はここまでにしようかしら……この週末、みんなが有意義に過ごせることを願っているわ。それじゃあ、また来週ね」


 こうして、今日の授業が終わってしまった……

 そして俺の切なさ指数も、どんどん上がっていく……

 ……おっと、そんな切なさに浸ってばかりいないで、「来週の1週間ほど、休むことになりそうです」ってエリナ先生に報告しに行こう!

 来週の出席確認をする際に俺がおらず、エリナ先生に余計な心配をさせてしまっては申し訳ないからね!!

 ただまあ、仮に報告していなかったとしても、そのときロイターたちの誰かが不在の理由を伝えてくれるだろうとは思う。

 ま、その辺はね! 俺自身が出発前にエリナ先生と少しでも一緒に過ごしたいってだけのことさ!!

 だから、報告うんぬんってのは、単なる口実って感じだね。

 というわけで、教室から研究室へ戻ろうとしているエリナ先生に声をかける。


「エリナ先生」

「あら、アレス君……ひとまず、研究室に行きましょうか」

「はい!」


 やったぞ! 今日もエリナ先生にお昼を御馳走してもらえる!!

 こうやって授業が終わったあと話をしに行くと、まずは研究室でエリナ先生の手料理をいただいてから話をするって流れが恒例となっている。

 フフフ……この流れを確立することができた俺自身に、惜しみない拍手を贈ってあげたいところだ。

 それに何より、毎度お昼を御馳走してくれるエリナ先生の優しさに、この上ない感謝を捧げたい。

 そんなことを頭の片隅で思うと同時に、研究室までの道のりをエリナ先生と会話を楽しみながら進む。

 これぞ我が人生……最高の刻。

 嗚呼、このまま永遠に刻が止まってくれれば……ずっとエリナ先生と一緒にいられるのにね……

 そうこうしているうちに、研究室に到着。


「失礼します」

「ええ、それじゃあ簡単なものだけれど、チャーハンを作るから少し待っていてね」

「はい、ありがとうございます!」


 ここで何もしないのも悪いが、かと言ってそれほどやることもないので、とりあえずテーブルを拭いたり食器をセッティングしたりしながら待つ。

 そんな感じでさほど待つこともなく、調理が完了したようだ。


「お待たせ、そして準備をしてくれてありがとうね」

「いえいえ、この程度はどうってことありません」


 なんて言葉を交わしつつ、腹内アレス君も待ちきれないようなので……早速いただきます!!

 そうしてチャーハンをひとすくいして口に運ぶと……


「美味しいですッ! とてもッ!!」

「ふふっ、いつもアレス君は凄く美味しそうに食べてくれるから、私も嬉しいわ」

「いつも、いつも! 心から美味しいと感じております! エリナ先生の作ってくださる料理は最高です!!」

「もう、アレス君ったら大げさなんだから」


 これは大げさでもなんでもなく! リアルガチで美味いんだ!!

 なぁ! 君もそう思うだろ!? 腹内アレス君!!


『ああ、美味いのは認めるが……お前は、はしゃぎ過ぎだ』


 ほほう……ここにきてクール気取りかい、腹内アレス君?

 君だって、エリナ先生の料理が美味し過ぎて、今にでも踊り出したいぐらいなんだろう?


『お前のような落ち着きのない男と一緒にするな……いいから、おとなしく食え』


 まあ、ここで急に踊り出したりなんかしたら、エリナ先生に「なんなの、この子……」って思われちゃうかもしれないからね、それは絶対に避けたいところだ。

 ゆえに、俺も表面上はクールを装って食べる。


「まだあるから、遠慮しないでおかわりしてね?」

「はい! それでは、遠慮なく!!」


 エリナ先生の手料理なら、何度でも何度でもおかわりしたくなっちゃうもんね!

 フッ……俺がこの世界に来てダイエットを成し遂げたのは、こんなふうにエリナ先生の手料理をいっぱい食べれるよう身体的スペースを空けておくためだったのかもしれない。


「それにしても……本当に美味しいチャーハンですね、パラパラのご飯がジューシーなオーク肉とよく合っていますし、この香ばしさが食欲をさらに刺激してくれます!」

「実は最近、新しい種類の調味料を選んでみたのだけれど……これだけアレス君に美味しいと言ってもらえたのなら、正解だったみたい」

「へぇ、新しい種類の調味料ですか?」

「ええ、よく行く商会の販売員が『新しく入荷したこれは、絶対オススメ! 使ってみれば分かります!!』って力説していたからね、そこまで言うならってことで試してみることにしたの」

「なるほど、それはセンスのいい物を扱っている商会のようですね」

「そうねぇ、極々たまに『なんでこれを入荷したのだろう……』と疑問に感じることもあるけれど……基本的には信頼できるセンスをしている商会だと思うわ」


 ここでタイミングよく商会の話題が出たので、ここからワイズの話につなげるとしよう。

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