第816話 いわゆる報連相はこの世界においても大事

「ちょうど商会というワードがでたので、話をさせてもらいたいと思いますが……」


 というわけでチャーハン、そしてセットで用意してくれた卵スープの美味しさを思いっきり味わいながら、今回の要件を話した。

 そこで、「もっと話に集中せんかい!」って言われちゃうかもしれないけどさ……この卵スープもまた絶品でね……

 フゥ……このふわっふわの卵が、心と体を優しく温かく満たしてくれるんだよ……まさに夢見心地。

 そんな極楽気分ではあるものの話に関しては、昨日の夜はキズナ君、そして今日も朝からファティマとかに何度か説明をしているうちに伝えるべきことが上手くまとまり、さらに慣れもあってスムーズにできたんじゃないかと思っている。


「なるほど、それでメイルダント領に行くため、しばらく授業を休むことになりそうだということね……」

「はい、今回は冒険者ギルドの依頼でもなんでもないため、公欠扱いにならないことも理解しております」

「そうねぇ、確かに公欠にはならないけれど……アレス君はもちろん、ワイズ君とケイン君も成績に問題はなかったはずだから、少しばかり休んだところで影響はないわ」

「そうですか、よかったです」

「それに……これは特に3年生の場合が多いのだけれど、婚活の関係で授業を休む生徒もそれなりにいるからねぇ……」

「えっ、そうなのですか?」

「ええ、学園を卒業後に実家を継ぐとか嫁入り婿入りを考えているのに相手が決まっていない生徒の場合、授業どころではなくなってしまうみたいで……」

「な、なるほど……」


 そうか、貴族なんかだとお世継ぎ問題が第一義みたいなところがあるだろうし、「結婚相手すら見つけられない奴なんかに後継者が務まんのか?」ってほかの候補者から詰められたら、何も言えなくなっちゃうよね。

 加えて、後継者争いを有利に進めるには、結婚相手の実家のバックアップなんかも重要みたいだし……

 なんてことを考えていくと……そりゃ焦るよなって感じだ。

 とはいえ、そんな状況に陥っている時点で後継者争いに危険信号が灯ってそうな気がしないでもないが……

 また、嫁入りはともかくとして、婿入り希望かぁ……たぶん、俺が前世でも古めの価値観を持っていたからなんだろうけど……相手の家に入るとか「男として、地味にハードル高くね?」って思っちゃうんだよなぁ……

 いや、こんなこと言ってると「価値観をアップデートしたほうがいいよ!!」ってお言葉を頂戴しそうだけど……

 そんな俺の価値観はともかくとして、この世界というか王国では、自分の家を継げそうもないと思ったら比較的あっさり婿入りも視野に入れるみたいなんだよねぇ……

 まあ、そこんところ俺なら「自分自身の家を興せ!」って言いたくなっちゃうんだけどね……

 一応、学園卒業後は本人の一代限りとはいえ士爵の身分を与えられ、貴族としてスタートできるんだしさ。

 そんでもって魔力操作や剣術とかで実力を磨いていき、そのうちデカいモンスターを討伐したとかの功績で男爵に陞爵できれば、子孫に継がせていける家が完成するじゃないか。

 という感じで、結婚相手の親族たちの顔色をうかがいながら生活するより、そっちのほうがよっぽど気楽なんじゃないかと俺は思っちゃうんだよなぁ……


「ふふっ……アレス君は自分の手で運命を切り開いて行きたいってタイプだと思うけれど、みんながみんな自分に自信があるわけではないからねぇ……」

「あっ、いえ……そんな自信があるだなんてことは……」

「大事なことだと思うわ……そしてたぶん今年の1年生は、そんなアレス君の影響を受けて将来的に自立の道を選ぶ生徒が多い気がするわね」

「そ、そうですか?」

「ええ、それだけアレス君の影響力は強いということね」

「なんだか、恐縮してしまいます……」

「そうして生徒それぞれが選んだ道の先で後悔することのないよう、少しでも役に立つことを教えるのが私たち教師の役目なのだから、アレス君はアレス君の信じたとおりに行動していけばいいと思うわ」

「信じたとおりに……」

「そう、だから今回も、自信を持ってワイズ君に協力してあげてね!」

「はいッ!!」

「ああ、そうそう、それで話は戻るけれど……そんなふうに婚活の関係で授業を休むのは割とよくあることだから、無断欠席でもなければ公欠にはならないとしても、そこまで大きな減点にはしないようにしているから安心してね」

「ということは……こうして報告に来たのは正解だったと」

「ええ、理由が不明だと、こちらとしても配慮のしようがなくなってしまうもの……その点、毎回きちんと報告してくれるアレス君の律義さはとても素晴らしいと思うわ」

「あ、ありがとうございます!」


 やったぁ! エリナ先生に褒められちゃったよ!!

 ただまあ、本当はエリナ先生に逢いに行きたいってだけのことだったんだけどね……

 それはそれとして、いわゆる報連相はこの世界においても大事ということなのだろう。


「……ただ、それで好き放題欠席されても困ってしまうから、減点に関してのことは一応みんなには内緒にしておいてね?」

「はい! 絶対に言いません!!」

「ふふっ……とはいえ、このことは教師と生徒双方で暗黙の了解みたいなところがあるから、そこまで神経質にならなくても大丈夫よ?」

「なるほど、そうなのですね」


 まあ、原作ゲームの設定的にも、この学園は婚活するために生徒たちが集められているみたいなところもあるし、先生たちとしても「しょうがないなぁ」ぐらいで済ませてくれるってことなんだろうね。

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