第817話 お名残り惜しい気持ちでいっぱいですが……

「あら、もうこんな時間……もう少しで出発だったわね?」

「おお、もうそんなに時間が経ってしまっていましたか……エリナ先生の作ってくれた料理が美味し過ぎたことと、こうしてお話をさせていただく時間が楽し過ぎて、あっという間でした……」

「ふふっ、この程度のメニューでよければ、いつでも食べに来てね? そして私も、楽しくお話させてもらったわ」

「そう言ってもらえると嬉しいです! ありがとうございます!!」

「それから、ワイズ君のことだけれど……貴族と平民という身分差のある恋愛であっても、それなりに苦労はあるものの幸せに暮らすことができている先輩たちがいるから、そのことだけですぐ諦めてしまわないよう言ってあげて」

「それはつまり……平民が結婚相手でも、後継者争いに見事勝利することができた先輩がいらっしゃるということで……?」

「ええ、そんなにたくさんいるわけではないけれど……でも、実際に本人の実力だけで周囲を圧倒して後継者の地位を勝ち取った先輩がいる……ほかにも、アレス君好みの道であろう自分自身の家を興すってやり方で身分差のある恋愛を成就させた先輩もいるから、ワイズ君も自信を持つといいと思うわ」

「なるほど……分かりました! きっとワイズとしても心強く感じることでしょうから、早速その話をしてやろうと思います!!」

「まあ、少し調べればすぐ分かることだから、そういう身分差のあるカップルがいること自体は既に知っていることかもしれないけれどね……そこで、私の知り合いの中にも何組かそういうカップルがいるから、もしワイズ君が彼らの話を聞きたいということであれば、いつでも紹介してあげるわ」

「おおっ、それは凄い! やっぱり、実際に経験している人から聞く話はとっても参考になるでしょうからね!!」

「ええ、そう思うわ」

「これは絶対! ワイズも喜びますよ!!」

「ただし、上手くいかず破局したカップルも見てきたし……必ずワイズ君がミカルさんと結婚すべきだと言うつもりもないから、しっかりと将来を見据えて、結論を急ぎ過ぎないよう熟考した上で答えを出すよう言ってあげてね?」

「そうですね、その婚約を申し込んだ商会の息子というのがとんでもない人間であれば、問答無用で止めることになるでしょうが……それ以外のことについては、ワイズが焦って前のめりになり過ぎないよう私とケインで注意して見ておきます!」

「そうね、それがいいと思うわ」

「はい! それでは……お名残り惜しい気持ちでいっぱいですが……そろそろ待ち合わせ場所に向かおうと思います」

「ええ、気を付けて行ってきてね……そして戻ったら、また道中の話を聞かせてもらえたらと思うわ」

「そのときはぜひ! またお話させていただきます!!」

「ふふっ、楽しみにしているわ」

「それでは、これで本当に……今日も美味しい昼食を御馳走様でした! では行ってきます!!」

「はい、行ってらっしゃい」


 こうしてエリナ先生との幸せな昼食時間が終わり、欠席の連絡も完了した。

 また、今回の話題が結婚についてだったこともあってか……エリナ先生と結婚することができれば毎回こんなふうにお見送りしてもらえるのかもしれない……なんてことも妄想してみたりしゃったりして!

 いや、待てよ……もしかしたら「行ってらっしゃいのチュー」なんかもしてもらっちゃったりして!? キャッ!!

 うぅ~む、これは照れちゃうなぁ~でへへ、でへへへへ。


「……ウゲェッ!?」

「うん? どうした……って、えぇぇぇぇッ!?」

「ま、魔力操作狂いの奴……一体全体どうしちまったっていうんだ……?」

「なんていうか……今までにも、あんなふうに締まりのないニヤケ顔を晒してたことがあったと思うけど……だけど! 今日はいつにも増して酷いや!!」

「まあ、シンプルに言ってバチクソキモいな……」

「まったく……何が起これば、あれだけのヤベェ顔ができてしまうのでしょうかねぇ……?」

「さぁなぁ……魔力操作狂いの考えていることなんて、よく分からんからなぁ……」

「チィッ! 惜しいな……ここに女子たちがいれば、奴のツラを見て一気に幻滅しただろうに……」

「いやいや、それはさすがに……なぁ?」

「うん、あんな顔を見ることになってしまった女の子たちがかわいそうだよ……」

「ああ……なかなかのトラウマになりかねん……」

「ぶっちゃけ、泣いちゃうんじゃね?」

「泣くだけで済めばいいけどな……下手したら、気を失っちまうんじゃねぇか?」

「「「あり得る!!」」」

「ま! とりあえずあの顔は厳し過ぎるから、俺たちの記憶から消去しとこうぜ?」

「うん、それがいいと思うね……」

「今晩あのヤベェ顔が我々の夢に出てきて……この上なくうなされてしまうかもしれませんねぇ……?」

「お、おいッ! 恐ろしいこと言うなよッ!!」

「ねぇ……誰か光属性の魔法得意じゃない? 念のため浄化の魔法をかけておいてもらいたいんだけど……」

「なら、それこそ魔力操作狂いに頼めばいいんじゃね? アイツ、光属性がバチクソ得意だったはずだしな……」

「えぇ……そんなの無理だよぉ……あのニヤケ顔、キョワイし……」


 おっと……集合場所へ向かう道すがら、ついつい妄想が膨らんでしまい、あり得ないぐらいニヤニヤしてしまっていたようだ……

 これはいかんね……ここはひとつクール神に祈りを捧げて、己のクールさを取り戻すとしようか。

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