第818話 見送りに来たぞ!

 午後1時になる少し前にエリナ先生の研究室を出て、学園の正門前にやって来た。

 そこには既に……


「アレス殿、これからしばらくお世話になります」

「俺のこともよろしく頼みつつ……何よりワイズのことを! 俺と2人でしっかりサポートしてやりましょう!!」

「うむ、こちらこそよろしく! そして、自分自身が直面した問題であるかのような真剣さで此度の活動に臨もうと思っている!!」

「アレス殿のお気持ちに、深く深く感謝致します」

「ハハッ! アレスさんが協力してくれるんだ、これほど心強いことはないってもんだぜ!!」

「ああ、その期待に応えられるよう……俺も全力で行く!!」

「「おぉっ!!」」


 そんな感じで、ワイズとケインの2人と合流。

 また、夕食後の練習会に参加しているみんなも見送りに来てくれたようで……


「見送りに来たぞ!」

「いやぁ、なかなか集まったもんだねぇ?」

「だな……なんも知らん奴がこの状況を見たら『何事?』って思うんじゃねぇか?」

「うんうん、何かのイベントでもあるんじゃないかって思われるかも」

「まあ、イベントって言えば、イベントになるんじゃね?」

「ふぅむ、トードマンの実態を探りに行く……か、それもある意味イベントと言えるか……」


 一応、原作ゲームは恋愛シミュレーションの要素も強かったわけで、そう考えると今回のこれも、何気に正しいイベントの在り方だと言えるかもしれない。

 とはいえ、俺が原作ゲームをプレイしていたとき、ワイズやミカルといった人物が登場してたって記憶はないけどさ。

 いやまあ、この2人はメインキャラとして設定されていなかったんだから、当然と言えば当然だけどね……

 しかしながら、プレイヤーには知りようもないこととはいえ……原作ゲームのシナリオ外ではトードマンと結婚させられてしまう憐れな少女がいたかもしれないってことなんだなぁ……

 うむ……トードマン次第ではあるが、おそらくこれからそんな悲しみを一つ取り除きに行くことができるのだろうと思えば、自然とやる気も湧いてくるというものだ。


「とりあえず3人が帰って来たら、トードマンの見た目がどんなだったか聞きたいところだ」

「まっ! モンスターのトードそのものみたいな姿だろうけどな!!」

「ひぃぃっ! 想像しただけでキモチワルイ!!」

「よかった……うちの領地にはトードがほとんど生息していなくて……」

「でも、アンタのところって……トードがいないのはいいかもしれないけど、ちょっと乾燥し過ぎじゃない?」

「そうねぇ……もう少し緑化を考えてもいいかもしれないわね?」

「そ、そう……? それじゃあ、今度お父様に話してみようかしら……」

「うん、それがいいよ!」

「ただまあ……領内の事情を深く知らない私たちが軽はずみに口出しできることではなかったかもしれないけどねぇ……?」


 そうだね、領主にも考えがあって、あえてそうしてるっていうこともあるだろうからね……

 ただ、俺の前世感覚としてなんとなく、「木を植えるのって、環境にいいんじゃないの?」っていうのはある。

 まあ、ただ植えればいいってもんじゃなくて、管理とかちゃんとしないと逆に問題が発生するとか聞いたような気もするけどさ……


「そんな話は置いておいて! 今はアレス様たちの旅の安全を願いながらお見送りするときでしょ!!」

「正直、あたしも一緒に行きたかったなぁ……」

「そりゃ、みんなそう思ってるでしょ……」

「アレス様と旅行……うん、行きたい……」

「なるほど……これは新しい組み合わせを模索するいい機会だわ……」

「ほんに、ほんに……」

「ワイズ君とケイン君をどうアレス様と組み合わせるか……これは思案のしどころね?」

「凄い……アレス様を見ていると、無限の可能性を感じることができるっ!」

「………………ほら、ロイター様の様子をご覧になってみるといいわ……」

「ロイター様の……まあっ!」

「しーっ……声が大きいわ」

「あら、いけない……」

「気丈そうな振る舞いを見せてはいるけれど……どう? 内から滲み出る切なさみたいなものを感じないかしら?」

「ええ、ええ……感じますとも……」

「ふっ……愚問ね」

「しばらく離れ離れになってしまうお2人の心情を思うと……嗚呼、わたくしまで切なくなってしまうわ……」

「いえ、そんな切ない期間を経てこそ……よりお2人の心の距離が縮まるというもの……」

「あら、いいことを言うじゃないの」

「ほんに、ほんに……」

「というか……そもそも私はロイター様とサンズ様の組み合わせこそが一番だと思っていたし?」

「それなら私だって、アレス様にはヴィーン様がいいと思っています!」

「ほらほら、ケンカしないの……今は新しい組み合わせを模索する絶好の機会なのだから……」

「それもそうね」

「ひとまず解釈談義は、またの機会に致しましょうか」

「「「賛成」」」


 えぇと……あの一部の女子たちは小声でコソコソ語り合っているつもりなのだろうけど……

 地獄耳のアレス君には聞こえちゃってるんだよね……

 まあ、だからといって下手にリアクションをせず、スルーするようにはしているが……

 一応、仲間内でコソコソするだけの分別はあるみたいだしさ……

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