第814話 注意深く見ているからこそ
「……えっ? アレス様は今日からしばらく、夕食後の練習会にいらっしゃらないのですか?」
「ああ、そうなる……だが、ロイターたちがしっかり指導してくれることになっているから、練習内容についてはなんら心配することなく参加してくれればいい」
「そ、そうですか……アレス様から直々にご指導を受けることができないのは寂しいですが……でも! そうやってお友達のために実際に行動できるアレス様の姿勢もステキだなって思います!!」
「自分勝手な行動だという自覚もあるだけに、そのように理解を示してくれることをありがたく思う」
「そんなそんな! あくまでも私たちはアレス様のご厚意で練習会を開いていただいているのですから!!」
「いやいや、俺にもレミリネ流剣術を広めたいという目的があるし……男でも女でも、将来的に実力を高め合えるライバルは1人でも多く増やしたいからな!」
「ライバル……ですか……本音を言えば、もう少しロマンチックな関係になりたい気持ちもありますが……それでも、どんな形にせよアレス様との縁をつないでいられればなって思います!」
ロマンチックな関係か……うぅむ……前世の俺なら、このチャンスを逃すまいと二つ返事で「喜んで!!」って即答していたかもしれないけどねぇ……
しかしながら、俺はお姉さん大好き民でもあるし、片想いの美学を実践する者でもある……
また、こんなふうにアプローチを受ける側になったからこそ、「軽々しく動いてはいけない」と思うようになっているのかもしれない。
まあ、そもそも論として、前世では生涯独身も視野に入っていた隠の者でもあったからなぁ……そんな俺には、恋愛とかハードルが高過ぎますよって感じだ。
……なんてことを言っておきながら、ワイズの恋愛に首を突っ込むというダブスタぶり……うん、なかなかのワガママさんだね。
「……あっ、変なことを言ってしまって、すみません」
「ああ、いや……我ながら勝手なことを考えているものだと自身に対して呆れていただけで、こちらこそ急に無言になってしまってすまなかったな」
「いえっ、そんなことありません! アレス様は現在、ご自身を磨くことに集中なさっているのだと思っておりますし、それにきちんと線引きをされていて思わせぶりな態度で女子に接することがないだけ、むしろ誠実だと思います!!」
「お、おう……そうか……」
「ええ、そうです! 将来を期待だけさせておいて、遊ぶだけ遊んだら捨てるだなんて酷いことをする方だっていらっしゃるのですから!!」
「え、えぇ……マジかよ……」
そりゃ、そういう奴もいるだろうなって思わないでもなかったけど、やっぱりいたのか……
まあ、平民は当然として、貴族でも相手が下位なら、後々問題になっても親の権力で黙らせるってことができるだろうからなぁ……
そんなん、クソ過ぎだろって思わずにはいられないけど、同時に、権力というものはそういうものなのだろうとも思ってしまう。
というか下手したら、原作ゲームの制作陣がキャラ設定として、原作アレス君にそういうクソ設定を付加していた可能性もあったよな……
ただまあ、あの親父殿が原作アレス君のために権力を振るうなんてこと絶対ないと思うからね……そう考えると、仮に制作陣がそんな設定案を出していても、即ボツになっていたに違いない。
それに、原作アレス君はプライドの高さもあってか、原作ゲームのシナリオ上では王女殿下という最上級の地位を持つ女性にだけ執着していたからね。
その点、俺が転生してくるまでのあいだに原作アレス君が女性たちから恨まれるようなことをしていなくて助かったなって思う。
ただまあ、そこそこ恐れられてはいたみたいだけどさ……
「かなり驚かれているようですが……マジです! なぜなら学園に入学後、先輩から一番最初にそれはもう! 厳しく注意するよう教えていただきましたから!!」
「へ、へぇ……先輩からね……」
「はい! そのおかげもあって、今まで信用ならない男子に引っかからず済みました!!」
「そうか……それはよかったな」
「はい! そうして注意深く見ているからこそ、アレス様の誠実さが際立って見えるのです!!」
「お、おう……それはどうも……」
「……あっ、私ったら、急に熱く語り出してしまって……変な子だなって思っちゃいましたよね?」
「いや、そんなことはない……人を見極める目を養うことは、とても大事だと思うからな……特に女子は結婚相手によって人生が左右される割合が大きいとされているようだし……まあ、俺としては、男も女も自身の実力でもって自由に人生を切り開いて行ってほしいという気持ちがあるのは確かだが……」
「そうですよね、人を見極める目を養うことは大事ですよね! そして、アレス様がおっしゃるように、自身の実力で人生を切り開くって考え方も、すっごく勉強になります!!」
「うむ、それは何よりだ」
そんなこんなで、後半は令嬢の勢いに若干押されつつ朝食の時間を過ごしたのだった。
そして、この子の様子を見た限りでは、今日からしばらく俺が練習会に不在となったとしても、そこまで不満は出なさそうで助かったといった感じだ。
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