第813話 効いてる感

「それじゃあ、またあとで」

「おう、教室でな!」


 約1時間ほどのランニングを終え、俺たちはそれぞれ部屋に戻る。

 そして、いろいろとファティマからアドバイスしてもらったことによって、今回のミッションをより良い形で進ませることができるようになった気がする、ありがたいものだ。

 そんなことを思いつつ、自室に到着。


「ただいま、キズナ君! 今日も気分上々で走ってきたよ!!」


 なんて挨拶をしつつ、風呂場へ向かう。


「フッ……水も滴るいい男とは俺のことさ!」


 といいつつ、みずみずしく魅力的なハンサムマンであればこの言葉に該当し、実際に濡れている必要はないらしいけどね。

 でもまあ、逆に濡れてちゃダメってこともないだろうから、どっちみち俺はいい男ってことさ!!

 そんな感じで視聴者サービスなんかをしちゃったりしながら、ゴキゲンでシャワーを浴び終えた。


「……さて! シャワーのあとはこの一本!!」


 というわけで、トレルルス特製のポーションをゴクリといっちゃう!

 ここでふと思ったが、トレルルスの弟子となった少年少女たちも彼の下で日々腕を磨いており、いずれは巣立っていくことだろう。

 そうして徐々にトレルルス式のポーションが流行になっていき、いつの日か「ポーションは美味しい飲み物」と人々に認識されるようになっていくかもしれない。

 それって、とってもステキなことだよね!

 とはいえ、「効いてる感」を味わいたくて、ポーションに苦さを求める層も一定数は残り続けるかもしれないけど、それはそれ、好きな味を各自楽しめばいい。

 え~と、確か……こういうのを前世で多様性って言うんだったっけ?

 いや、ポーションの味ぐらいで、そこまで大げさに言うほどの話でもなかったかもしれないけどね。

 そもそも論として、外傷とかだと直接ポーションを傷口にかければ治るわけだから、味が気に入らないなら飲まなきゃいいわけだし。

 ただ、病気とか体内で起こっている問題に対しては、飲んだほうがより効率がいいのだろうとは思うけどね。


「フゥ……今日も美味しいポーションをありがとう」


 こうして、少しばかり余韻に浸ったところで、そろそろ朝食に向かうとしますかね。

 また、ある程度お誘い攻勢も落ち着きつつあるが、今日の朝食は令嬢と一緒にいただく約束をしている。

 ただ、これから1週間不在にするため、そのぶん戻ってきたあと一時的にお誘いがまた増えるかもしれないなぁ……

 しかしながら、俺と一緒にメシを食うと魔力操作や剣術などの鍛錬について熱く語られるってことが令嬢たちのあいだで情報共有されているらしく、そういうのがイヤって令嬢は実家からの命令など特別なことがない限り、あまり積極的に声をかけてくるつもりはないようで、いくらか助かっている。

 フフッ……この辺は、俺の傲慢キャラぶりが功を奏しているって感じかな?

 たぶんだけど、今より表面的に気を遣った態度で接していれば、もっと令嬢たちが集まってきた可能性もあるからね……そこんところ、家同士の関係に配慮もしているロイターたちはよく頑張っていると思うよ。

 そう考えると、当主と不仲のアレスさんってポジションは、意外とオイシイと言えるかもしれない。

 なんたって、俺と下手に関係を結んでしまうと、ソエラルタウト侯爵とギクシャクすることになりかねないって心理的ブレーキが働いて誘うのをためらうだろうからね!

 ハハッ! クソ親父もクソ親父なりに役に立つと言うものだ、ハーッハッハッハ!!


「……魔力操作狂いの奴、急に笑い出しやがって……怖っわ!」

「なんかさ、背中の辺りが『ゾクッ!!』としちゃったよ……」

「一応、笑顔には見えるんだが……微妙に邪悪?」

「彼の頭の中では今、どんなことが思考されているのやら……」

「チッ、あの野郎……俺らの気分を害して何が楽しいって言うんだよ……」

「いやいや、ぶっちゃけ僕らのことなんて眼中にないでしょ……」

「ハァ? 眼中にねぇとか、それはそれでなんだか腹が立ってくるな!」

「ふむ……進む方向からして、中央棟……ということは、今日も令嬢と食事か……あの恐怖心を刺激する笑みによって相手が泣き出さねばいいが……」

「うっわぁ……相手の子、かわいそうに……」

「そうは言うけどよ、あんな野郎とメシを食いたがる見る目のない女なんだから、そんなの自業自得ってもんだろ?」

「それはそうかもしれないけど……実家からの指示とか、本人の意志じゃない可能性だってあるでしょ?」

「ケッ! だったら、そんな家に生まれた自身の不運を嘆くこったな!!」

「ふむ……お前さんのそういったところが、いまいち令嬢方にモテない理由かもしれんな?」

「そうだなぁ……顔とか身体的スペックはそんなに悪くないのにな?」

「うるせぇ! 見る目のねぇ女なんか、こっちから願い下げだってんだよ! 何度も言わせんな!!」

「あらら……キレちゃって、怖っわ!」

「そうやって僻みを勢いでごまかすの……あんまりカッコよくないよ?」

「だなぁ……むしろダサい?」

「まあ、お前さんはもう少し……いや、だいぶ心を鍛えねばならんかもしれんな?」

「黙れ黙れぇっ! 好き放題言いやがって、コンチクショウ!!」


 おっと、少々悪い笑みが漏れていたようだ……クールな無表情に戻さねばならんね。

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