第693話 こんなところで立ち止まるわけがない
ロイターとシュウが交差した。
そして、会場中の人々が固唾を飲んで見守る中……パリンと硬質な音が一つだけ響き渡った。
「……まさか、もう一段階出力を上げることができたとはな……完全にしてやられたよ……」
「ゼェ……ハァ……いえ、これは……今までの僕では出せなかった力です……間違いなく、ロイター君が相手だったからこそ……引き出させて……もらっ……ガッ、ハァッ!!」
「……ッ!? おい、シュウ!!」
全身から血を噴出させながら、シュウは倒れた。
「勝者! シュウ・ウークーレン!! あぁ、やっぱり無理をしたわね……」
そういいながら、今回審判を担当したお姉さんがシュウの体に最上級ポーションをかける。
それによって、シュウの体は回復していく。
また、先にポーション瓶を割られたことで回復が始まっていたロイターもシュウに駆け寄り、回復魔法をかけてシュウの体の回復スピードを加速させてゆく。
「ロイター君……あなたもかなり無理をしたのだから、シュウ君のことは私たちに任せて、自分の回復に専念するといいわ」
「いえ、この程度は……」
「はぁ……まったく、元気な子なんだから……でもダメよ、いうことを聞いてもらうわ」
「……ッ……はい……」
そうお姉さんがシュウの体に回復魔法をかけつつロイターと問答をしているうちに、係の皆さんが担架を持ってきた。
そしてシュウを担架に乗せ、急ぎつつも丁寧に医務室へ運んでいく。
また、ロイターも付き添って医務室へ行くことにしたようだ。
試合中に受けたダメージ量から考えて、本来ならロイターだって担架で運ばれて行ってもおかしくないレベルなんだけどね……実際、係の皆さんは担架を2つ持ってきてたしさ。
でもまあ、そこはロイターだからって感じかな……
限界を超えて攻撃に全振りしていたシュウとは対照的に、ロイターは防御に全振りして戦闘を組み立てていたって感じだからね……試合後のダメージの残り具合にやっぱり差があるんだよ。
『……ま、まさにシュウ選手……捨て身の覚悟でもぎ取った勝利……でしたね?』
『ええ、凄まじいまでの勝利への執念でした……』
『それにしましても……ああまでムチャクチャに全身を酷使して、シュウ選手は大丈夫なのでしょうか? それに、このあと女子の部3回戦が始まり、そのあいだに回復できるとはいえ……シュウ選手は決勝の舞台に立てるのでしょうか?』
『この学園には王国最高レベルの技術を持った先生たちがそろっていますからね、シュウさんの肉体そのものの回復は問題ないと思います……ですが、決勝が始まるまでに昏睡状態から目を覚ますことができるかどうか……いえ、たとえ目を覚ますことができたとしても、普通なら大事を取って安静にすべきといえるかもしれません……』
『な、なんということでしょう……それでは、このままいくとアレス選手の不戦勝による優勝の可能性が高いというわけですね……?』
「まあ、普通であれば……ですがね……」
「……!! なるほど、シュウ選手のことですからね……奇跡的な回復を我々に見せつけてくれる可能性は大いにありそうです!!」
「ええ……あとは全て、シュウさん次第です……」
フッ……シュウの奴が、俺を放っておいてベッドでおねんねしているだと? バカをいうんじゃない。
奴は必ず起き上がって来る! 俺と闘うためにな!!
「……シュウは! シュウは絶対に目を覚ます!!」
「ええ、間違いありませんわ!!」
「シュウは武術の申し子……こんなところで立ち止まるわけがない」
「そう! ホントそう!!」
「シュウ……信じてるからね……」
「よし! ウチらも医務室に行こうぜ!?」
「たぶん、医務室の先生に部屋の中まで入るのは止められるでしょうけれど……少しでも近くで、シュウ君の回復を祈りたいものね……」
「決まりだな! 行くぜ!!」
「「「賛成っ!!」」」
そうして、シュウを取り巻く武闘派令嬢たちは医務室へと向かったのだった。
うむ……君らの想いがシュウに届いて、きっと回復を早めてくれることだろう。
そしてもちろん、俺も祈る……だから受け取ってくれよな! シュウ!!
『……さて、この第2試合を持ちまして、1年生男子の部3回戦が終了しました。このあとは舞台の整備と小休憩を挟みまして、1年生女子の部3回戦が始まります。男子に負けないぐらい、女子も見事な試合を見せてくれることでしょう……ご期待ください』
ナウルンの場内アナウンスにより、観客席は休憩モードに移行。
「ロイター様……」
「かぁ~っ、惜しかった! マジで惜しかったッ!!」
「運がシュウさんに味方した……ということなのでしょうねぇ……」
「そうだよね……2人の実力に差なんかなかったはず……」
「……間違いない」
「シュウも強いとは思っていたけど……まさか、ロイターに競り勝つほどとはね……この学年、本当に面白いね……僕もこうしちゃいられない! もっともっと腕を磨かなきゃ!!」
「ロイター君が負けてしまったのは残念だったけど……あれだけの凄い試合を見せてもらったんだから、私たちも頑張んなくちゃだね! ファティマちゃん!!」
「ええ……そうね」
ふむ……ファティマとしても、ロイターの敗北に思うところはあるといったところか……
「……別に、負けたこと自体はたいした問題ではないわよ? だって、この試合をとおして、ロイターはさらに器を大きく成長させることができたのだもの……まあ、決勝であなたと当たれば、さらに大きく成長できたでしょうから、それを思うと少し残念ではあるけれど……」
……だそうです。
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