第664話 目で追うのがしんどい……

「さて、僕の出番がきたようですね……」


 呼び出し係の人がサンズとシュウを呼びに来たので、これから2人は舞台に向かうところだ。


「しっかりな」

「シュウさんと対戦していると、こちらの動き……その意図の全てが見通されているかのように思えてきますが、気持ちで負けないように! 頑張ってください!!」

「サンズさん! ソイルの仇を討ってやってくれよな!!」

「トーリグの表現そのものは物騒ですが、気持ちとしては僕も同じですねぇ!」

「……勝利を願っている」

「サンズ君なら大丈夫! 自信を持って行ってきてね!!」

「期待しているわ」

「サンズよ……相手はかなりの使い手だ! ここが気合の入れどころだぞ!!」

「皆さん、ありがとうございます! それでは、行ってきます!!」


 こうして、サンズは舞台に向かって歩いて行った。

 また、この際シュウにも視線を向けてみたが……やっぱり、相変わらずのほほんとした笑顔を浮かべているのみだった。

 シュウの奴め、気負いというものが全くないじゃないか……

 だがな……サンズは強ぇぞ?

 その余裕の表情、どこまで持つだろうなぁ?

 なんて思っていると、シュウから視線が返って来た……もちろん、のほほんとした笑顔のままだ。

 ほう……あくまでもその表情を崩す気がないというわけか、面白い……

 サンズよ! バッキバキにやったんさい!!

 とまあ、そんなこんなでサンズとシュウは武器選択へ移行。

 そして2人が選んだのは、いつもどおりというべきかサンズは大剣、シュウはオープンフィンガーグローブだった。

 いやぁ、なんとも見た目に差がある2人だなぁ……って感じがしちゃうね。


『両者、装備チェックを終えて舞台中央にそろいます……そして、王女殿下から胸ポケットに最上級ポーションが挿入されます』

「アイツら、表面的な態度自体はそれなりだが……でもやっぱ『ありがてぇ!』って感じが足んねぇよな!?」

「うん……心の中に余裕があるのが感じ取れるもんねぇ?」

「あんにゃろう共め……もっと、こう! 感動に打ち震えろってんだ!!」

「ま、彼らも10年後ぐらいに『あのときの経験は、実に素晴らしいものだった……』とかシミジミ思い返すことになるんじゃないか?」


 ここで、毎度お馴染みの王女殿下への対応チェック繰り広げられていたので、なんとなく耳を傾けていたのだった。

 まあ、そんな会話に毎度耳を傾けるなんて、俺も物好きなものだよなぁ……なんて思ってみたり……

 そうして、ポーションを挿し終えた王女殿下は舞台を降りた。

 そして審判の先生から準備オーケーかの最終確認をされ……サンズとシュウはオーケーと返す。

 これであとは、試合開始の掛け声を待つだけだ。

 というわけで会場全体が固唾をのんで見守る中、ついに……


「……始め!!」

『さて、2回戦第3試合! シュウ・ウークーレン対サンズ・デラッドレンスの試合が開始となりました!! といったところで早速! 両者が舞台中央で激しくぶつかり合う!!』


 今回もシュウは、初撃から高速移動による一発を入れに行った。

 それに対し、サンズも突撃を敢行した。

 そして、普通ならサンズの大剣の圧力に負けてしまうのだろうが……シュウの拳は、それと互角にぶつかり合っていた。

 まあ、俺も魔纏を常時展開しているので、シュウと同じようなことをしようと思えばできるだろう。

 とはいえ、見た目の圧迫感はやはり大きいので、わざわざ大剣に拳を合わせようとは思わないけどね……


『開始早々、激しい攻防が繰り広げられていますが……スタンさん、やはりこの試合は物理戦闘メインの展開となると見て間違いないでしょうか?』

『ええ、そうですね……お2人とも、基本的には物理戦闘のほうを得意とされていますので、その見方で合っていると思います。そして、既に身体強化などは使われているようですが、そういった形で魔法の運用は補助的なものとなっていくと思います……まあ、かといって攻撃魔法などをまったく使わないというわけでもなく、要所要所で使われるとは思いますが……』

『なるほど……そういうことであれば、2人がどのようなタイミングで攻撃魔法を撃つのかに注目してみるのも面白そうですね?』

『はい、そういった見方も楽しめるだろうと思います』


 ふむ……牽制で一発かますとか起死回生の一撃にかけるとか、いろいろありそうだもんね?


「しっかし、あの2人……序盤から思いっきり飛ばしてんなぁ……?」

「動きが速すぎて……目で追うのがしんどい……」

「目で追えてるだけ凄いよ……僕なんかもう、残像を感じてるだけだもん……」

「俺は、そうだな……奴らの魔力が動いているのを感じ取るって感じかな?」

「へぇ、そいつはやるねぇ……」

「そうはいっても、完全に2人の攻防を把握できているわけじゃないけどな……大まかに魔力の塊が動いているのを感じているだけっていうか……」

「いやいや、それだけできてたらじゅうぶんでしょ……それって、やっぱ……魔力操作狂いの影響なの?」

「まあ、そうだな……たぶんだけど、奴が常日頃から『魔力操作をやれ!』って強く推してなかったら、見向きもしてなかっただろうなぁ……」

「ふぅん……ちょいちょい影響されてる奴が増えてきたなぁ……」

「へへっ、それならオレも、最近始めたんだぜ?」

「おお、お前もか……」


 フフッ、それはそれは……いい感じだねぇ。

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