第665話 ひたすら高速の攻防

 サンズとシュウの高速戦闘。

 これを俺自身、目で追えているのかって話だが……「何もせず、完全に裸眼で視ろ」といわれてしまうと「ちょっとキツイっす……」って答えざるを得ないだろう。

 そのため、眼に魔力を込めて視る力を大幅に上げているのだ。

 こうすることによって、2人の動きをシッカリと視ることができている。

 とまあ、学園の生徒たちや俺でこんな状況なので、一般の観客たちはというと……


「駄目だ……俺には、あの2人が何やってんのかサッパリ分からん……」

「ああ、俺もだ……なんか動いてんなって、そう思うぐらいだ……」

「ハハッ……ボクも、2人の奏でる音を耳で愉しむだけだねぇ……」

「愉しむって……ドカッとかバキッって音が面白いもんなのか?」

「フフッ……音の表情を味わう……とても繊細で優雅な愉しみだよ」

「えぇ……戦闘音のどこが繊細で優雅なんだろう……」


 ……変わった愉しみを見出している奴もいるみたいだが、一般の観客たちの多くはやはり、2人の動きに目が付いて行っていないようだ。

 ただ、そんな中にも……


「おい、リッド……どうだ?」

「うん……今、大剣を持った兄ちゃんの上段からの一振りを、メガネの兄ちゃんが当たるスレスレの半歩で躱して、即突きを入れて反撃しようとした……でも、それを大剣の兄ちゃんが……」

「よしよし、もういい……やっぱ、お前もちゃんと視えてんだな?」

「うん! アレス兄ちゃんに教えてもらったとおり、眼に魔力を込めているからね!!」

「だな!!」

「なんだい! 視えてるのは、君たち2人だけじゃないよ~だ!!」

「そうそう! 僕だって、今! メガネの人が蹴りを入れようとしたところ、大剣の人がバックステップで躱したところ、ちゃんと視えてたし!!」

「まあまあ、私たちみんなちゃんと視えているってことでいいでしょ~?」

「ま! そうみたいだな!!」


 うむうむ……俺が教えたことを、リッド君たちはシッカリとものにしているようだ。

 フフッ……教えがいがあるし! とても頼もしいね!!


「そんなことよりさ! あの大剣、カッコよくね!?」

「分っかる! あの武骨な感じがカッケェもんな!!」

「しかも、あの大剣の人ってあんま体はデカくないのに、剣はデカいってアンバランスさがもう! これでもかってぐらいイケてるよねっ!!」

「オレ……村に帰ったら、早速あの人みてぇにデッケェ剣を試してみっかな!?」

「おっ! イイねぇ!!」

「……まあ、『そんな剣を買うお金なんて、ウチにはありません!』って母ちゃんに怒られそうだから、地属性の魔法で石をそれっぽい形に自分で加工するしかないかなぁ?」

「やっぱ、そんな感じだろうねぇ……」

「というわけで、カッツ! 手伝ってくれよな!!」

「お前に手伝ってもらえば、絶対にイケてる大剣が作れるはず! 頼んだぜ!!」

「……分かった」


 なんか、ソレバ村や近隣の村々で大剣ブームが起きそうな予感……

 と思いきや……


「う~ん、僕はメガネの人みたいに、徒手格闘を極めてみたいかも~?」

「おうよ! 男は黙って、素手一択!!」

「そうだねぇ……メガネの人の『サッ! スッ!』って洗練された身のこなし……あれはもう、アートだね!!」

「それに、いくら身体強化で腕力をサポートできるっていったって、俺たちの魔力にも限りがあるからなぁ……やっぱ、その辺は節約したいじゃん?」

「確かに、軽い剣ならまだしも……あれだけ大きな剣を振るってなると、半端な身体強化じゃ足りないだろうし……」

「ま! そういうんなら、お前らは素手を極めたらいいだろ? 俺たちは大剣っていうロマンを追い求める!!」

「だねっ!!」


 うん、戦闘スタイルっていうのは、人それぞれだろうからねぇ?

 とりあえず子供たちには、今はいろいろ試して、これからの可能性を模索していってもらいたいところだ。

 そう考えると、今回の武闘大会観戦は子供たちにともていい刺激となっているのではないだろうか?

 ついでにいうと、本戦に残ってる連中はみんな、それぞれ手本とするのにふさわしい実力者たちばかりだからね!

 そんな彼ら彼女らの動きをガッチリと眼と脳に刻んで、これから何度も体と脳で反芻しながら自分のものにしていったらいい!!

 ……なんてことも思いつつ、舞台上ではサンズとシュウの攻防がずっと続いている。


『休みなしで両者、ひたすら高速の攻防を繰り広げていますが……果たして、いつまで持つのでしょうか……』

『高速という意味では同じですが、シュウさんの場合は動きを最小限に抑えています……対するサンズさんは機動力を活かして戦闘を組み立てています……そのため、このまま続けばやがて、サンズさんのほうが先にスタミナが尽きてしまいそうな気がします』

『なるほど……勢いという点においてはサンズ選手のほうが押しているようにも見えましたが……このまま勝負を決める一撃を入れることができなければ、とたんにサンズ選手のほうが劣勢に立たされるというわけですね?』

「そうですね……ただ、サンズさんが現在繰り出している一撃一撃はどれも当たれば終わりといえる威力がありますので、それを捌き続けるとなるとシュウさんも精神的に楽ではなく、ふとしたタイミングでミスが出てもおかしくはないでしょう」

「ということはこの勝負……体力と精神の勝負といった様相を呈してきましたね」

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