第666話 何をしてもそう返されてしまいそう

『この第3試合もかなり長引いてきましたが……依然として両者の攻防は続いています!』

『これだけの高速戦闘を続けているわけから、両者共そろそろ限界が近付きつつあると思います』

「サンズきゅん! 頑張ってぇ~!!」

「サンズ様なら! きっと勝てますわぁ!!」

「ウークーレンなんか知ったこっちゃねぇです! サンズさんのほうが強ぇんです!!」

「シュウとかいう薄ら笑い野郎を凍り付かせてやってくださ~い!!」

「サンズ様~! こっち向いてぇ~!!」

「このおバカ! そんなことできるわけないでしょ!! サンズ様、大丈夫です! 試合に集中してくださいね~っ!!」


 サンズのファンクラブ会員たちの応援も続いている。

 若干、何かを勘違いした子もいるようだがね……


「シュウ! そんなチビ助さっさとやっちまいなさいよ!!」

「まったく、ちょろちょろして鬱陶しい奴ね! 早々に捻り潰されればいいのにっ!!」

「ほら、早く! 一発ガツンと決めてやるのよ!!」

「ホントそう! サンズごときに時間をかけ過ぎよッ!!」

「そんな小さな男に大剣は似合わないわ、体のサイズに合うようヘシ折ってあげなさいな!」

「そうよ、そうよ! 短剣マンにしてあげちゃって!!」


 シュウを取り巻く武闘派令嬢たちも応援に熱が入っているようだ。

 しかし、大剣をヘシ折って短剣マンにしてやれって……なかなかヒドイことをおっしゃるお嬢さんたちだね……


「ふむ……このままではマズいな……」


 隣でボソリとロイターが呟いた。


「ああ、どうやらシュウはサンズの動き、そしてその戦闘パターンが読めているみたいだもんな……?」

「うむ、読めているからこそ、ここまでずっと最小の動きで対処できているのだろう……」

「ということは、シュウがうっすらと浮かべている笑みも、フリじゃなくて本物というわけだ……」

「そうだな……普通なら、サンズの機動力と大剣が迫ってくる圧迫感に精神が擦り減っているところだろうが……」


 スタンの解説では、サンズの体力とシュウの精神の勝負とされていたが……この調子でいくと、先にサンズの体力切れがきてしまいそうだ。

 さて、サンズよ……ここからどうする?


「……おっと!」

「残念、もらったと思ったんですけどね……」

『今! サンズ選手の一撃がシュウ選手にクリーンヒットしかけていたのですが! すんでのところでシュウ選手は防御に成功しましたッ!! いやぁ、スタンさん……今のは惜しかったですね!?』

『ええ、私も一瞬、決まるかと思いかけました……ギリギリのところでシュウさんはよく防いだと思います、本当に』

『それにしても、ここまでキッチリとサンズ選手の攻撃を防ぎ切っていたシュウ選手でしたが……ここにきて精神的疲労から、ついにその防御能力にも綻びが生まれ始めたということでしょうか?』

『う~ん……それはどうでしょうか……』

『では、違うと……?』

『そうですね……サンズさんの攻撃に一瞬の違和感を感じたもので……』

『違和感……ですか?』

『ええ、違和感です……単なる気のせいかもしれませんが……』


 いや、スタンよ……その違和感は単なる気のせいじゃないぞ?

 そこに気付いた辺り、やはり武術をよく研究しているだけあるね!


「ここにきて、サンズはお前から学んだ剣技を繰り出したようだ……残念ながら、決めることはできなかったが……」

「ああ、そのようだ……」

「ここまで温めてきて、満を持してといったところだったのだろうが……実に惜しかった……」

「俺としても、あそこで決めてくれると嬉しかったのだがなぁ……」


 とはいえ、相手はシュウだからなぁ……


「なるほど、王国式の中にアレス君から学んだレミリネ流を組み込みましたか……やりますね!」

「ハァ……分からないように混ぜたつもりだったのですが……さすがシュウさんだ、アッサリと見破られてしまいました……」

「いえいえ、僕も一瞬ヒヤッとさせられましたからね、とても巧妙に組み立てられていたと思いますよ?」

「一瞬ヒヤッとさせただけ……実に悔しいです……」

「まあ、僕もそれなりにレミリネ流には注目していましたからね、だからこそ気付けたみたいなところがありました……そう考えると、運がよかったのでしょう」

「フフッ……あらゆる武術に通暁しているであろうシュウさんには、何をしてもそう返されてしまいそうですけどね……?」

「ハハハ、それは買い被り過ぎというものですよ」

「果たして、そうでしょうかねぇ? まあ、いいでしょう……そして、僕もそろそろ限界を迎えつつあるので、ここからはラストスパートと行かせてもらいます!!」

「そうですか……では、僕も心してお相手致しましょう!!」

『ここまでとても激しい攻防を繰り広げていた2人でしたが、さらに気迫がこもった様子! そしてこの試合も最終盤を迎えましたが、果たして勝利の栄光をつかみ取るのはどちらなのか!?』

『一瞬たりとも目が離せませんね』


 普段の関わりから、心情的にサンズをより応援したいところではあるが……かといって、シュウにも世話にはなっているからねぇ……

 というわけで、どちらも悔いの残らないよう、全力を出し切ってくれることを願うばかりだ。


「サンズ……」


 そして俺の隣では、ロイターが静かに……でも熱く、今日一番気持ちを昂らせているようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る