第667話 ほとんど同時かつ一瞬

『両者、互いに譲らず、壮絶な攻防を繰り広げています! そして、いったん距離を置きました!!』

『これは……おそらく、次の一撃で決着となりそうですね……』


 スタンのいうとおりだろう、2人から発せられる闘気から「この一撃で決める!!」という意志が感じられる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ハァァァァァァァァッ!!」


 そして2人は、舞台中央で交差……その瞬間に渾身の一撃を放ち合う。


「「「サンズ!!」」」

「「「シュウ!!」」」


 会場中からサンズとシュウ、それぞれの勝利を願って名前が叫ばれる。

 果たして、その願いが叶うのは……


『舞台中央で最後の一撃を放ち合った両者……そして、その余韻を味わうかのように、会場全体が静寂に包まれております……』

『ここから見た限りでは、ほとんど同時かつ一瞬……よって、どちらの一撃が決まったか判断が難しいですね……』


 そんな静まり返った場内で、パリンとポーション瓶が割れる音が響き渡った……


「「「サンズ!!」」」

「「「シュウ!!」」」


 どちらのポーション瓶が割れたのか……


「フゥ……僕の負けのようですね……残念です」

「まさに……紙一重の勝負でしたね」

「その紙一重に、どれだけの努力が詰まっていたのか……僕もこれからもっと、頑張らなければですね……」

「僕のほうこそ、もっともっと鍛錬を積む必要がありそうです」

「フフッ……お互い、まだまだこれからですね……とりあえず、今日のところはおめでとうございます、シュウさん」

「ええ、まだまだこれからです……そして、ありがとうございます、サンズ君」

「また対戦する機会があれば……今度こそは僕が勝利を頂くとしましょう」

「いえいえ、そう簡単に勝利を譲るわけにはいきません」


 ポーション瓶が割れたのは、サンズのほうだった。


「……勝者! シュウ・ウークーレン!!」


 そして今、審判の先生から勝者が宣言された。


『決まった! 決まりましたッ!! 激闘を見事制したのは! シュウ選手だぁッ!!』

『ポーション瓶が割れるその瞬間まで、全く分かりませんでした……』

『ええ、スタンさんのおっしゃるとおりですね! それぐらい、ギリギリの攻防だったということなのでしょう!!』

『はい……とても見応えのある、素晴らしい試合でした』

「……スタンたちは、あんなふうに大絶賛しているが……俺には、何がなんだかサッパリな試合だったよ……」

「うん、目が全然追い付かなかったもんね……」

「特に最終盤の攻防なんかは、ホント意味不明だった……」

「正直、風切り音と打撃音を聞くだけの時間だったなぁ……」

「おいおい、お前ら……あの攻防を感じ取れなかったってマジか? スンゴイ密度だったってのに、もったいない……」

「オレ、魔力操作狂いのいうとおり……魔力操作を練習しといてよかった……」

「今の試合を完全に理解できたわけじゃなかったけど、ある程度は分かった……だから、俺っちもやっといてよかったなぁって思うよ……」

「やっぱ、これだから……奴のいうとおり、魔力操作をやっとかんとイカンってことなんだろうなぁ……」

「うぅむ、今日もまだ試合は残ってるし、武闘大会は明日も明後日も続くわけか……それなら今、この瞬間から魔力操作をやって、多少でも分かるようにならんかなぁ……?」

「う~ん……まあ、やらないよりはやったほうがいいんじゃね?」

「つーか、魔力操作狂いなら、この瞬間も魔力操作をやってそうだし……」

「確かに……」


 うん、正解だ! 俺は今も魔力操作をやっているぞ!!

 そして魔力は俺たちの努力を裏切らない! だから頑張れ!!


「や~ん……サンズきゅんが負けちゃったぁ……」

「あ~あ、惜しかったなぁ……」

「ほ~んと、あとちょっとだったのにねぇ……」

「はぁ……サンズ君をぎゅ~ってして、慰めてあげたい……」

「そうはいうけど……なんか見た感じ、そこまで落ち込んだふうには見えないのよね……」

「いいえ! きっと心の中は悔しさでいっぱいのはずよ!!」

「そう……だからこそ! このわたくしが優しく抱き締めて差し上げねばっ!!」

「まあ、なんというか……サンズに迷惑がられないといいけどね……」


 サンズのファンクラブ会員たちは……残念がってはいるようだけど、むしろこれをチャンスに変えてやろうという、したたかさも感じられるね……


「やった! シュウが勝った!!」

「ふふん、当然よね?」

「まっ! サンズなんかに負けるシュウ様じゃないわ!!」

「むしろ、『サンズごときに手こずらされるなんて!』と叱ってあげるべき?」

「まあまあ、それだけサンズさんも懸命に頑張ったってことなのだから、そこは認めてあげましょう?」

「とりあえず、シュウが楽しそうだったから、それでいい」

「そうね、先ほどのソイル戦に続き、今回も満足そうな顔をしているものねぇ……」

「はぁ……アタシがシュウと闘って、ああいう顔をさせてあげたいわぁ……」

「そう! ホントそう!!」

「つくづく、わたくしも男に生まれていれば……そう思わずにはいられませんわ……」


 そして、シュウを取り巻く武闘派令嬢たちは勝利に湧きつつ、やっぱり自分たちがシュウと闘いたいらしい……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る