第668話 粉骨砕身の覚悟で臨む所存

「せっかく応援していただいたのですが、負けてしまいました」


 戻って来たサンズの第一声がそれだった。


「いや、サンズはよく闘ったよ!」

「そうだぜ! 今回はシュウの奴にちょっとだけ運が傾いたってだけだ!!」

「ええ、そうですとも! もう一度対戦すれば、そのときはきっとサンズさんの勝ちですよぉ!!」

「サンズさんにまで勝利を収めるなんて……やはり、それだけシュウさんは強かったということなんだな……」

「……惜しかったが、いい試合だった」

「そうだよ、サンズ君! とってもいい試合だったよ!!」

「今後につながる経験が得られたのであれば、それでじゅうぶんでしょう?」

「……1回戦のソイル、そしてこの2回戦のサンズのぶんを、私が3回戦でシュウに返してくるとしよう」

「おいおい、ロイターよ……少々気が早いのではないか? お前はこれから第4試合でティオグと対戦せねばならんのだからな?」

「ああ、分かっている……これは自分自身を鼓舞した言葉でもある」

「うむ! ならばよし!!」


 こうして、夕食後の模擬戦メンバーたちはサンズを迎えたのだった。

 また、このときシュウに視線を向けてみると、のほほんとした笑顔を浮かべながらポーションを飲んでいた。

 ふむ……改めて思うが、シュウも一応人並みにポーションを使ったりはするんだなって感じだ。

 なんか、シュウのことだから、よくわからん不思議なポーズを取って体力回復とかやりそうだなって思ったんだよね……

 とかなんとか考えていたら、目が合ってニッコリ微笑んできた。

 あんにゃろう……まだまだ余裕がありそうだな……

 そう思いつつ、俺も不敵な笑みを返しておいた。


「……ティオグ・マイヅさん……ロイター・エンハンザルトさん……2回戦第4試合が始まりますので、準備をお願いします!」


 ここで、呼び出し係の人がロイターとティオグを呼びに来た。


「ロイター! 華麗に決めてくるといいよ!!」

「ロイターさんなら! 勝利は確実だぜ!!」

「僕のぶんも頑張ってきてくださいねぇ!!」

「ロイターさん! 応援してます!!」

「……期待している」

「ティオグ君もロイター君と同じように火属性が得意だろうから、競り負けないようにね!!」

「ロイターの闘いぶり、楽しみにさせてもらうわね?」

「ロイター様! ご武運を!!」

「さっきの続きになるが……ティオグは油断できない相手だろうからな! 気合入れて行ってこい!!」

「皆の言葉を力に変えて闘うとしよう……では、行ってくる!」


 こんなふうに俺たちがロイターを激励しているあいだ、王女殿下の取り巻きグループでも同じようにティオグに声をかけていた。


「俺たち1年男子の中だと、残っているのはティオグだけになっちまったな……俺たちのぶんも頼んだぜ!」

「そうだな……ティオグ、俺たちの想いも託させてもらうよ、ファイト!!」

「みなまでいう必要もないぐらいロイター氏は実力者であり、決して楽に勝てる相手ではないだろう……それでも、気持ちで負けず力を尽くせば、きっと道は開けるはずだ」

「ティオグの刀術が文字通り火を噴くところ! 期待していますよ!!」

「皆々様の期待に応えられるよう、粉骨砕身の覚悟で臨む所存でござる! 拙者の闘いぶり……とくとご覧あれ!!」


 そんな感じで、王女殿下の取り巻きグループも燃えているようだった。

 よしよし……この試合も素晴らしいものになりそうな予感がしてきたよ!

 そんでもって2人は舞台に向かい、まずはいつもどおりに使用武器を選択。

 そこでロイターはオーソドックスなロングソード、ティオグは焔刀を選び、係の先生による装備チェックも完了。


『さて、装備チェックも終わり、選手が舞台中央にそろいました……そして、王女殿下から胸ポケットに最上級ポーションが挿入されます』

「うんうん……さすがティオグだ! 王女殿下を前にして、まさに文句なしの佇まいだ!!」

「うむ、男子たるもの……かくあるべし」

「ティオグ君はよく弁えているし、もともと所作も洗練されていたからね!」

「まあ、ロイターも公爵子息らしく、表面的にはちゃんとしてると思うよ? でもさ、やっぱ内から滲み出る『光栄です!!』って感じ? そういうのが足んないんだよなぁ~っ!!」

「ま、仕方ないよ……ロイター君の目にはファティマさんしか映ってないんだしさ……」

「う~ん……ファティマちゃんも悪かないけど、王女殿下に比べたら……なぁ?」

「まあ、いろいろちっちゃいからねぇ……?」

「あッ! テメッ!! 今! 不埒なこと考えやがったな!!」

「いけませんなぁ……そういう悪い坊やにはお仕置きが必要でしょう……」

「覚悟せよ……」

「なッ!? 別に、ボクはッ……!!」


 なんか知らんけど、軽口を叩いた奴が周りの男子に連行されて行った……なんていうか、試合見なくていいの?

 ……と思ったら、すぐ戻って来た。

 なるほど、そういうフリで遊んでいたわけね……

 ま、それはともかくとして……ポーションを挿し終えた王女殿下が舞台から降りた。

 さて、それではロイターとティオグの試合に集中するとしますかね……


「……それでは、両者構えて!」


 そういって審判の先生が右手を天に掲げ、振り下ろすと同時に……


「始め!!」

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