第663話 4人と闘ってた

「……勝者! ヴィーン・ランジグカンザ!!」


 審判によって、ヴィーンの勝利が宣言された。

 ふむ……ヴィーンが勝ったか……

 まあ、これまで夕食後の模擬戦など日頃から2人の様子を見てきた感じ、実力にほとんど差はなかったと思う。

 ただ、魔法はセテルタ、物理はヴィーンって感じで部分的に差はあったと思うが……それでもやはり、総合力としては同じぐらいだっただろう。

 よって、この2人が試合を重ねていくと、たぶん勝率5割で拮抗する気がする。

 それに時間制限が加われば、引き分けも増えてなおさらだろうし……


『2回戦第2試合は、ヴィーン選手が勝利をその手につかみ取りました!! そして、スタンさん……スタンさんが最初におっしゃっていたとおり、とっさの判断が明暗を分けた試合となりましたね?』

『ええ、セテルタさんの剣が砕けるというアクシデント……おそらく普段から使い慣れていた剣であれば、そうはならなかったと思いますが……とにかく、その一瞬の隙をしっかりとものにしたヴィーンさんが見事だったというほかないでしょう』

『確かに……あの一瞬をものにできる人など、なかなかいなかったでしょうね……』

『はい、実際にセテルタさんも剣が砕けたのを認識した直後に障壁魔法を展開していました……この剣が砕けてから障壁魔法を展開するまでのあいだに1秒もかかっていなかった……本当に一瞬というしかない、瞬間的な出来事……そんな一瞬に的確な判断を下せたのは、まさにヴィーンさんならではの芸当だったと思います……』

『そう考えると……その判断の素早さこそが、ヴィーン選手の最高の資質だったといえるかもしれませんね……?』

『ええ、そういっても過言ではないかもしれません』


 まあ、いつも冷静沈着なヴィーンだからこそ、そういった一瞬のチャンスをつかみ取る準備ができていたってことだろう。

 さすが! 俺と同じクール道に身を置く者って感じだね!!


「スタンの話を聞いて、ヴィーンの凄さも分からなくはないが……それでもまさか、あのセテルタを倒しちまうとはな……」

「うん……セテルタ君を優勝候補に挙げていた人もいたぐらいなのにね……」

「だって、いっちゃなんだが……ヴィーンって、思いっきり地味だったじゃん!」

「ああ、魔力操作狂いとの関わりのせいもあって、どっちかっていうとソイルのほうが目立ってたぐらいだしな?」

「まあ、そのソイルの得意魔法を秘密裏に習得してたっていうのが、また……ね?」

「あれなぁ……よく今まで誰にもバレずに隠しとおせてたよな?」

「それこそが、地味なヴィーンならではってカンジ?」

「ソイルの得意魔法を秘密裏に習得ってトコで思ったけどさ……ヴィーンの終盤の猛攻って、トーリグっぽくなかった?」

「そりゃトーリグの家はヴィーンの家の寄子だし、パーティーを組んでいつも一緒なんだから、似てくるのは当然だろ?」

「いや、そうなんだけど……なんていうのかな……普段のヴィーンの技術力にトーリグの気迫が上乗せされていたっていうか……」

「まあ、あの熱さ……普段のヴィーンらしくはなかったもんな……」

「そんなこといったらよ……ヴィーンの水属性魔法の運用方法って、ハソッドのねちっこさにそっくりじゃね?」

「う~ん……確かに、いわれてみれば?」


 なんか、そう聞いていると……セテルタはヴィーンだけでなくソイル、トーリグ、ハソッドの4人と闘ってたみたいに聞こえてくるな……


「なるほど……つまりはこういうことか? ヴィーンは仲間の技術や特性を自分のものとして闘っている……と」

「言い換えるなら、模倣力に秀でた男ってことか……」

「そうだなぁ……それだけヴィーンは仲間のことをよく観てるってことでもあるんだろうなぁ……」

「そんだけ観てくれるってんなら……ヴィーンの下に就くのもアリかもしれんね?」

「その場合……『お前から吸収するものなんか何もない』って思われたら切ないだろうな……」

「い、いや! 俺から吸収することはいっぱいあるし!!」

「さて、どうだかなぁ……?」

「その言い方やめて! ちゃんとあるから! マジで……!!」

「ま、冗談はさておき……ヴィーンたちってこの夏休み中、ひたすら訓練に明け暮れてたらしいから、その成果がしっかりと出たってことなんだろうな」

「ああ、聞いた話じゃ、この夏一番訓練してたのがあいつらかもしれないレベルだったもんな……」

「だからこそ1回戦負けだったとはいえソイル、トーリグ、ハソッドのパーティーメンバー全員が本戦進出を果たすことができたんだろうしなぁ……」

「実際、それって凄いことだよな……」


 そんなこんなで観客席の学生たちの話を耳にしているうちに、ヴィーンとセテルタが戻って来た。


「いやぁ~負けちゃったよ」

「……運に恵まれた」


 2人の第一声がそれだった。

 そうして俺たち夕食後の模擬戦メンバーは、口々に感想を述べつつ2人を迎えたのだった。

 また、ヴィーンとセテルタが戻って来たということは、次の第3試合が迫って来ているということでもある。

 その第3試合に出るのはサンズ……そして相手は、1回戦でソイルを破ったシュウだ。

 さて、そんな強敵のシュウ相手に、サンズはどう闘うか……見せてもらおうじゃないか!

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