第662話 一瞬の隙
「いつもどおりに動くには、身体強化により多くの魔力が必要となるってわけか……まったく、困ったもんだよ……」
「……こちらとしては、身体強化そのものを発動できなくさせるつもりだったのだが……」
「アハハッ! 僕にだって、魔法を使う者としてのプライドがあるからね……さすがに、そこまでさせてあげるわけにはいかないよっ!!」
「……そうか」
ヴィーンとセテルタの激しい打ち合い……
これがセテルタでなければ、ヴィーンの阻害魔法によって身体強化が使えず、ボコボコにされて終わっていただろうな……
そして、見た感じ剣の腕としては、ややヴィーンのほうが上っぽいけど、かといってそこまで差があるわけではなく、ほぼ互角といったところだ。
「……!!」
『おっと! 地面から急に生えてきたストーンニードルをとっさの判断で躱したヴィーン選手!!』
「う~ん、闇属性でコーティングした特別製だったのに……残念! いやぁ、ヴィーンもなかなか勘がいいねぇ……」
「……不意打ちには昔……痛い目を見たことがあるからな……」
昔、不意打ちで痛い目を見た……か。
「ヴィーン様……」
以前、ランジグカンザ家の執事に成りすましていたマヌケ族が、ソイルの魔法が暴発した瞬間を狙いすまして、ヴィーンにケガを負わせた。
それが原因で、ヴィーンたちはぎくしゃくするようになっていった……
たぶん、ヴィーンはそのときのことをいってるんだろうなぁ……
そして、ずっとソイルは自分の暴発した魔法がヴィーンにケガを負わせたと思っていたらしいが……それも、エリナ先生がマヌケ族本人から聞き出した真相によって、ソイルの魔法が直接ヴィーンを傷付けたわけではないと判明した。
だからソイルとしても、いくらか気持ちは軽くなっているはずだし、そもそも論としてそのときの話は既に解決済みだ……
ただ、それでもやっぱり、そのときのことがヴィーンたちの今に与えている影響は少なからずあるのだろう。
というわけで、ヴィーンも不意打ちに対する警戒心が人一倍強くなっているってわけだね!
「ここッ!!」
「……」
『セテルタ選手、剣を横一閃! だが、ヴィーン選手のウォーターウォールが阻みます!!』
「クッ……!」
『おっとぉ? セテルタ選手の剣が……ウォーターウォールに食い込んだまま抜けなくなったぁっ!?』
『どうやらヴィーンさんは水の粘度を高めて、セテルタさんの剣を絡め捕ったようですね……』
「……舐めてもらっちゃ困るよッ!!」
『ここでセテルタ選手の剣から燃え盛る炎が発生! それによって剣とウォーターウォールの接地面が蒸発していく!!』
「よし……おっと!」
『剣を引き抜くことに成功したセテルタ選手ですが! さらに至近距離からウォーターバレットの連射にさらされます!!』
「なんの! これぐらいでッ!!」
「……ならば!!」
『ここを攻め時と思い定めたか、ヴィーン選手! 一気に攻める! 攻めるゥッ!!』
『いつも一発一発冷静に決めていくヴィーンさんがここまで激しく攻め立てるとは……とても珍しい光景ですね……』
あのヴィーンの猛攻……どこかトーリグに重なって見えるね……
「おぉっ!? いつもクールぶってジッとしてるヴィーンが、まさかあんな激しく動くなんてな!!」
「ヴィーン君って……意外と情熱的なのかな?」
「内に秘めたる熱い想い……ってカンジ?」
「しっかし……これで決め切れるかね?」
「ああ、相手はセテルタさんだからな……」
「でも、ヴィーンの奴! メチャメチャ押してるぞ!?」
「だな……セテルタは防戦一方だ!」
「これは……もしかするか!?」
そして、ヴィーンの勢いがどんどん増していく……
「ヴィーン様! そこだッ! 行っけぇーッ!!」
「ヴィーン様! そうです! 僕たちとの訓練を思い出してくださいッ!!」
「ヴィーン様! あと少し! 勝利は目前ですよぉッ!!」
トーリグ、ソイル、ハソッド……仲間たちが、力の限りヴィーンに声援を送る……
「……セテ君ッ!!」
そして! 2年生の席からはセテルタを応援するエトアラ嬢の声も聞こえてくる!!
「僕だって……ここで負けるわけには! いかないんだぁーッ!!」
「……! だが!!」
『ヴィーン選手の怒涛の攻めに対し! セテルタ選手も力を振り絞って押し返そうとする! しかし、ヴィーン選手はお構いなしで攻めの手を緩めません!!』
『ヴィーンさんの全身から煮え滾るような魔力が噴出しています……どうやら、完全にここで決めるつもりのようですね……』
「……まだまだ! 僕だって行けるッ!!」
「……ここで決める! ………………絶対に!!」
この気迫の勝負……さて、どちらがものにするのか……?
そう思った矢先……
「……なッ!?」
「……もらった!!」
『な、なんとォッ!? これは不運! セテルタ選手の剣がいきなり砕けてしまったァッ!!』
『この一瞬……ヴィーンさんが見逃すわけもありませんでしたね……』
セテルタの剣の刀身が砕けた、その一瞬の隙を突いて……ヴィーンはセテルタの胸ポケットに挿してあるポーション瓶を割った……
「まさ……か……」
「……どうやら、運は私に味方してくれたようだ」
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