第599話 一筋の汗

 周囲の生徒たちの会話を耳にしながら、運動場へ到着。

 そしてAクラスの待機場には、既にロイターたちがそろっていた。

 まあ、朝食もゆっくりいただいていたし、ここまでの移動ものんびりだったからね、そんなもんかなって感じ。


「今日が最終日だね、最後まで全勝で突っ走ろう!」

「ああ、そうだな」

「それにまだ、予選突破確定とは言い切れませんからね、気を抜くわけにもいきません」

「だいぶ全勝者も減ったと思っていたが……まだそれなりにいたんだな?」

「ええ、そして全勝の人はもちろん、まだ1敗ぐらいの人にもチャンスが残されているものね」

「うん、1人でも多く全勝を減らして、1敗で並ぶことができれば予選通過決定戦に残れる……そんな気持ちで今日に賭けてるんじゃないかな?」


 ということは、今日は全勝の奴と1敗の奴の対戦が一番白熱しそうだな。

 まあ、勝ち越しのかかっている奴の対戦も見どころいっぱいかもしれないけどね。

 ……なんて気楽に構えていて勝利を落としたらシャレになんないからね、俺も気を引き締めてかからねば。

 そんな感じで雑談をしていると先生たちが運動場に到着。


「改めていうまでもないが、今日は武闘大会の予選を兼ねた模擬戦、その最終日だ! 悔いの残らないよう、各自の奮戦を期待する!! それでは、いつものように名前を呼ばれたら、速やかに指示された場所に来るように!!」


 先生の号令によって、ついに最終日の模擬戦が開始された。

 そうして次々と対戦がおこなわれていく。

 それでまあ、当然といえば当然かもしれないけど、全体的にやる気いっぱいとそうでもないって感じの生徒に二分されるって感じ。

 その中で、最初から戦闘に興味ないってスタンスの奴はもう「そうなんだね……」としかいいようがない。

 だけど、さっきの彼みたいに諦めちゃってどうでもよくなってる感じの奴っていうのが、見てて歯がゆい感じがするんだ。

 しかも、どうでもよくなってはいるものの……でもやっぱり、なんとなく気持ちの中で未練のようなものがあるのか、たまに一瞬だけ本気の垣間見える一撃を繰り出す奴がいる。

 そして、その一撃を相手に防がれたとき、半笑いで「今のは本気じゃないですよ?」みたいな雰囲気を出すんだ……

 その姿にもどかしさを感じてしまう……

 本気の一撃を防がれたっていいじゃないか、何も恥ずかしくないよ……

 そうやって作り笑いを浮かべながら本気をごまかす必要なんかないよ……


「……次! ビム・インファウ!! それから……」


 おっ! あれは俺と初日に対戦して、それからたくさんのガッツを見せてくれたビムじゃないか……

 まあ、戦績的には1週目で敗北が重なったため予選通過どうこうの話は関係ないが、ビムの闘いは見応え抜群だからね。

 そしてビムの対戦相手は……


「テメェか……あのまま沈んでりゃよかったのによ……」

「そんなわけにはいかないよ……もっと腕を上げて、いつかアレスさんと再戦させてもらうつもりなんだからね」

「チッ……」


 あれは確か、ビムの初勝利を思いっきり貶してた奴らのうちの1人……もっといえば、そのリーダー格なんじゃないかと思う。

 そして何より、俺はビムの言葉に……トキメキを感じた。


「奴はお前と再戦希望だそうだ、よかったな?」

「おやおや、アレスさん……いつもいってる顔のクールさを保てていませんよ?」

「あっ、ホントだ! でもまあ、あんなラブコールを送られたら、仕方ないよね?」

「アレスにとって、それ以上の言葉はなかなかないものね?」

「あははっ! アレス君、本当に嬉しそうだね!!」

「……ま、まあな」


 思いっきりロイターたちにイジられてしまった……でも、嬉しいのは確かだからね。

 そうこうしているうちに、ビムたちの対戦が始まった。


「……たいしたことねぇクセに……ちょっと勝てるようになったからって調子に乗ってんじゃねぇぞ! オラぁ!!」

「知ってる……だから僕は愚直に努力を積み重ねるだけ」


 貶しリーダーの大振りな一撃を、丁寧に捌くビム。


「チッ……ウゼェことを語りやがって……」

「でも、そんな僕の一撃をアレスさんは認めてくれた……あの一撃を、僕は求める!」

「……なッ! クソ……重ぇ……」

「まだまだ! こんなもんじゃない!」

「ヂッ……グジョォ……」


 貶しリーダーも、保有魔力量的にはそこそこありそうなので、決して弱い奴ではないと思う。

 でも、ビムの猛攻に圧されっぱなし。

 確かに、あの日ビムが最後にくれた一撃はとても素晴らしかった。

 なんたって、今でも木刀で受けたときの感触を思い出せるぐらいだからね。

 その一撃を、通常の一撃にするべくビムは研鑽を重ねてるところって感じなんだろうなぁ……

 そんなことを思いつつ、ビムの一撃一撃を観察している。


「……なんで……なんでこんな奴に! こんな奴にィィィッ!!」

「君もアレスさんと対戦してみれば、もしかしたら何かをつかめるかもしれないね?」

「ざけんな! んなもんありゃしねぇッ!! くだんねぇことばっか述べてんじゃ……ッ!?」


 最後まで言い切る前に、貶しリーダーの剣はビムによって弾き飛ばされた。

 そしてビムの剣の切っ先が、貶しリーダーの首元に突きつけられた。

 それを受けて、貶しリーダーのこめかみを一筋の汗が伝う。


「……それまでッ! 勝者! ビム・インファウ!!」


 そういえばビムが初勝利を収めたとき、それはまぐれで、また負け始めるだろうから涙を拭く用にハンカチをプレゼントしようぜって貶しリーダーたちは悪ノリで話してたっけ……そのハンカチ、今は貶しリーダーが汗を拭くのに必要かもしれないね?

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