第598話 本当はいつからだって間に合うはず

 朝食を終えて、模擬戦がおこなわれる運動場へ移動。

 その際、周囲の様子を眺めながら歩いていると……


「あ~あ、もう負け越し確定だし……ヤル気出ねぇ……」

「とはいえ、たった1勝でも積んどいたほうが……見栄え的にはマシじゃね?」

「そうそう……そうすりゃ、ちっとでも親父のキレ方が穏やかになるかもしんねぇし……」

「いやぁ、どうだか……負け越しって時点でマジギレに変わりはねぇんだから……1勝ぐらいじゃゴマカシ効かねぇだろ……」

「う、う~ん……」

「そりゃそうかもしんないけど……『それでも』ってところに期待するしかねぇべ……」

「そんな期待……するだけ無駄ってもんだろぉ?」


 ……もし仮に、俺が彼らと同じようにこの予選で負け越したとする。

 その場合、ソエラルタウトの親父殿は一切無反応だろうな……

 いや、心の中で「スカッ!」とした気分になるだろうことも予想されるね……

 そう考えると、このまま予選を突破して本戦で優勝まですれば、親父殿的にはイラつきまくりかもしれない……ウケる。

 まあ、そんなくだらん理由で頑張る必要もないが……ウケることには変わりないよね。

 とりあえず、彼らにはそんなふうに真剣にキレてくれる親がいるだけ、アレス君よりはマシなんじゃないかなぁって気がしなくもなかった。


「はぁ……こんなことなら、もっと気合入れとくべきだったかなぁ……?」

「いやいや、気合入れるったって……この状態だと、いつから入れなきゃだったんだよ……武闘大会直前に『えいやっ!』ってやっても意味なかっただろぉ?」

「いつからって、そうだなぁ……」

「まあ、一番分かりやすいタイミングってことなら、王女殿下の取り巻きたちが無謀とも思える挑戦を始めたときって感じじゃね? あのときバカにしてないで、俺たちも何かしら動き始めてたら、こんなことにはなってなかったはずだろ……」

「ああ、あのときね……でも、あいつらにとって一番の目的といえる『王女殿下のハート』は誰もゲットできてねぇんだから……やっぱ、あの挑戦自体は無謀ってかバカだったろ……」

「まあ、その点だけで見たらそうかもしんないけど……でも、『近衛になる!』って奴もいるだろ? そいつらはよかったんじゃないか? 実際に強くもなってるわけだし」

「あと、同じように王女殿下に憧れて取り巻きになった令嬢とくっついた奴もいるみたいだから、その辺はやり方次第なんじゃね?」

「近衛ったって、本当になれるかどうかも分かんねぇし……そもそも王女殿下に釣り合う自信がないから、そうやって逃げを打ってるだけだろ? それに、取り巻き同士でくっつくっていってもなぁ……なんか、妥協感が出てる気もするし……」

「ま、まあ、奴らが近衛になれるかどうかみたいな話は正直どうでもいいんだよ……そのときから頑張ってたら、俺たちの負け越しって現状は回避できてただろうなって話なんだから」

「ま、今回はもう、仕方ねぇけど……これからのことは考えてかないと……だな?」

「えぇ、こんだけ出遅れといて……今さら? もしかして、挽回できる気でいるのか? 無理無理、めんどくせぇことはやめとけって……」


 同じめんどくさがりでも、トイとは違ったタイプだな……


「でも……そうやってソイルが実力を発揮し始めたときもスルーしたし、そのソイルと和解してヴィーンはともかく、トーリグとハソッドまでマジになり出したときもスルーした……そしてこの予選期間中にあの魔力操作狂いと対戦して目覚めた奴……いや、その対戦を見ただけで心境に変化があった奴だっているのを、これまたスルーするのか? 俺たちは一体いつまでスルーし続ければいいんだ?」

「だよなぁ……俺、来年も再来年も負け越したくねぇぞ? そりゃまあ『戦闘とか興味ねぇから……』っていってれば通用はすると思うよ? 実際にそういう奴もいるわけだし……でもやっぱ、負けてばっかは面白くねぇよ……」

「……そうかい、分かったよ! そんじゃあ、お前らは無駄な努力をチマチマと頑張ってくださいよ! 俺は知らねぇ、好きにすれば?」

「おい、そんな言い方ないだろ……なんでそう投げやりなんだよ……」

「今ならまだ間に合うって……いや、本当はいつからだって間に合うはずだし……だから……」

「あーもう、うっせぇ! そういう泥臭いのがいいんだったら、勝手にしろっていってるだろ! 俺を巻き込もうとすんな!! とりあえず、ウゼェから二度と話しかけてくんなよ!!」

「あ、ちょっ! 行っちまった……」

「前にもこういう流れがあったよな……?」

「ああ、『俺たちも頑張ろうか?』って話を始めたら、毎回こうなってる気がする……」

「はぁ……かといって、このままアイツをほっとくっていうのも……なぁ?」

「だよな……ホント、どうしたもんかねぇ……」


 やっぱり、彼の中で「頑張っても駄目だったら……」って気持ちがブレーキになってしまっているのかなぁ?

 まあ、俺が勧める魔力操作も、やったらやっただけの成果はあると思っているけど……模擬戦みたいな相手のあるもので確実に勝てるって約束はされてないからなぁ……

 いや、俺レベルになると、魔力操作の練習をすること自体が趣味って状態になってしまっているから、やって損したって段階はとっくのとうに過ぎてるみたいなところもあるけどね……

 そして剣術修行も、それによってレミリネ師匠を傍に感じたりもしているので、やらない理由がないし。

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