第597話 1勝の重みが違う

 ファティマと約1時間のランニングを終え、別れて部屋に戻って来た。

 そしてシャワータイムを経て、朝食へ。

 この食事であるが、今週に入って女子たちとご一緒する回数が減っている。

 たぶん、模擬戦の最終週ということで俺に対してそれなりに遠慮があったのではないだろうかと思う。

 また、戦闘に重きを置いていない女子が多いとはいえ、成績のことなども考えるとまるっきり捨てるわけにもいかない。

 そうなると、彼女たちだって自分自身の模擬戦に集中する必要もあるだろう。

 というわけで、緊張する異性との食事なんてノンビリやってらんないよねってところなんじゃないかと思う。

 結局、何がいいたいかというと、今日も男子寮の食堂でおひとり様を満喫するってことさ!

 といいつつ、ロイターとかは相変わらず予約が殺到してるみたいなので、お疲れ様って感じである。

 ま、そんなこんなで食堂に到着。

 そこで腹内アレス君のリクエストに応えつつ料理をかき集め、広々としたテーブルを見つけて着席。

 フフッ、この辺はまだ誰も来ていないみたいだから、風景を独り占めって感じだね!

 てなわけで、あとはガッツリといただきます!!

 ……そういえば、今のところスラリとした体型を維持できているからあまり気していなかったけど、ジリジリと食べる量が増えている気がしないでもない。

 ……まさか! 腹内アレス君!?


『……』


 な、なんで……ノーコメントなのォ!?


『うるさい! この程度でどうこうなるわけないだろ! いいから、黙って食べろ!!』


 ……は~い。

 まあ、正直俺も大丈夫だとは思っている。

 なぜなら、俺の意識が浮上して来てダイエットを始めるまでのアレス君の食事風景って、こんなもんじゃなかったからね……

 加えて、今は物理的にも魔法的にも活動量が半端じゃないからね、体に脂肪を貯め込む暇もないはず。

 こんな感じで腹内アレス君と楽しく食事をしているうちに、気付けば周囲のテーブルも埋まってきている。

 ふむ……ならば、しばし今日の話題に耳を傾けてみるとするかね?


「……今日がラストですね?」

「おう、なんとか勝利して気持ちよく終わりたいところだ」

「……チッ! 勝ち越しを決めてる奴は気楽でいいよな!!」

「そうピリピリしなさんな」

「あぁ!? 俺のどこがピリピリしてるってんだ!!」

「そういうところでしょうに……」

「まあ、コイツは今日の結果で勝ち越しできるかどうかが決まるんだから……今はそっとしておいてやろうぜ?」

「それもそうですね……」

「んだと、コラァ! テメェらなんか、たまたま運よく弱ぇ奴をカモにできただけだろうが!!」

「えぇと、それは少し……聞き捨てなりませんね?」

「ああ、そういうことをいわれてしまうと、普段は温厚な俺でも……こう、頭のこの辺りがちょっぴりカッと来ちまうぜ?」

「いいぜ、来いよ! 俺は知ってんだ……テメェらが重ねた勝利の中には、魔力操作狂いと対戦直後の絶不調な奴とか文系野郎がまあまあな割合で含まれていたってことをなァ!!」


 おやおや、最終日ということもあってか、血の気の多い奴らがいるようだ。

 まあ、元気があってよろしいともいえるが……食事時に暴れられると迷惑ではあるよね?

 いや、どっちかっていうと俺は別に構わないんだ……障壁魔法でテーブル周りを囲めばいいだけだし。

 でもね……腹内アレス君がどう思うかな?


「……こ、この強烈なプレッシャーは……どこから?」

「………………アッ!!」

「な、なんで……」

「お前らバカだなぁ……メシ食ってるときに騒ぐからだろ?」

「ホントだよねぇ?」

「倒れたイスによって埃でも舞ったのでは? いや、掃除が行き届いているはずだから、それはないか……」

「おもしれぇから、やっちまえ! ……といいたいところだが、謝罪の言葉だけ残して、さっさと行っちまうことをお勧めするぜ?」


 3人の男子が、ケンカになりそうな勢いだったけど……俺を見て急にワナワナし始めた。

 そして、周囲の奴もアレコレ思ったことを述べ始める。


「も、申し訳ありませんでした!!」

「お食事中、失礼しました!!」

「スンマセンでしたァ!!」


 思いっきり俺に向かって謝って来たので、とりあえず頷きを返しておいた。

 そして、ケンカしそうになっていた3人は急いで食堂を出て行くのだった。

 とはいえ、別に威圧をかけたつもりはなかったんだけどね……

 まあ、この模擬戦期間によって彼らの神経……もしくは魔力経が過敏にでもなっていたのかな?


「……しっかし、今年はキツいとかそんなレベルじゃないよな?」

「絶対! 去年までの予選と1勝の重みが違うよね!?」

「例年なら勝利を計算できただろう下位貴族が、どいつもこいつもやたらと強いからな……しかも、下手したら平民にすら苦戦させられるっていう有様だ……」

「つーか、苦戦どころか負けてる奴もいたよな?」

「ああ、それも少なくない数な……」

「去年までなら『勝ち越してないと恥ずかしい』だったけど、今年からは『勝ち越せたなんて凄い』って感じになりそうだね?」

「まあ、考えようによってはそっちのほうがいいのかもしれないけどな……」

「でもやっぱ、簡単に勝てねぇのはシンドイよなぁ……」

「さて……今日はどうなるかねぇ?」

「ぶっちゃけ、文系とか戦闘に興味ない系の人と当たりたい……」

「その文系の中にも、意外と目覚めてる系が紛れ込んでるから油断できないんだよなぁ……」

「ああ、そういう奴だと、半端に武系ぶってる奴より普通に強いまであるからな……恐ろしいもんだ」


 ……なんてぼやきにも似た話を聞きながら、朝食を済ませるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る