第30話 将来が恐ろしい子

 昨日、風呂から上がったあと、リッド君の希望通り、魔力操作と少し早い気もしたが、あと何日この村に滞在するかわからなかったので、魔力探知の概要も一通り説明して、あとは寝る時間までひたすら練習を続けた。

 俺の説明でリッド君はどれだけ理解出来たか不安なところではあるが、一応エリナ先生に教えてもらったことを俺なりに頑張って教えたつもりだし、ここが前世知識の活かしどころだと思ったので、漫画内師匠や動画内師匠の教えもついでだからいろいろ語ってみた。

 それと、リッド君も俺と同じで丹田の位置に魔臓があったのも、説明がしやすくて助かったね。

 ま、昨日の夜はそんな感じだったわけだけど、やっぱ人に教えるっていうのは自分にとってもプラスになるんだなっていうのが改めて気付かされた。

 なんていうか、単純に復習にもなるし、自分自身どれぐらい理解できていたのかとかよくわかったから、これからの鍛錬に活かしていきたい。

 このように、リッド君への指導を経験したことで、俺はまた一段高みに近づいたと思う。

 そんな得難い経験をもたらしてくれたリッド君へ心からの感謝を。


「アレス兄ちゃん、おはよう!」

「おお、リッド君おはよう。昨日はよく眠れたかい?」

「うん! いつもよりスッキリと目が覚めたんだ! それになんか元気が湧いてくる感じがするし!!」

「へぇ、いい感じじゃないか。魔力操作の効果が出てるね」

「そうなんだ! これって魔力操作のおかげなんだ!!」

「俺はそう思ってる。ま、そんなわけだから、これからも魔力操作をコツコツと続けていくといいと思うよ」

「うん! 頑張る!!」

「よし! さて、それじゃあ朝ごはんをいただきに行こうか」

「あ、そうだった」


 リッド君の頭を撫でながら、もしやこの子は筋がいいのかもしれないなと感じた。

 魔力操作の効果を実感出来たのは地味に大きいと思う。

 たぶん、これから魔力操作を続けていくモチベーションになってくれるだろうからね。

 そうして、ナミルさんお手製の朝食をいただく。

 ナミルさんの雰囲気は、昨日と比べればだいぶマシになった気がするが、こればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかないんだろうと思う……

 そんなことを思いながら、ナミルさんの料理を口に運ぶ。

 うん、美味しい。

 普段、貴族家の一員なこともあって一流の料理人の作る料理しか食べてこなかった腹内アレス君もニッコリの料理だ、どれだけ美味しいかは想像に難くないだろう。

 ……あ、腹内アレス君って量に重きを置くタイプだった。

 そんな感じで食事も終わり、ふとゼスにもう数日この村に滞在するつもりなことを話してなかったことを思い出し、言いに行った。


「アレスの旦那、どうしやした?」

「一応昨日でゴブリンの討伐は終えたのだが、少し気になることがあってな、もう数日この村に滞在したいと思ったのだが……」

「ああ、そのことですかい、もともとギルドで1週間程度を見込んでた依頼なんですから、なんの問題もありやせんぜ。ま、一応馬車はいつでも出せるようにだけは常にしてますがね。それに旦那のことだ、今日帰るなら昨日のうちにあっしに一声かけてくれてたでしょう?」

「まあ、そうだな……それなら、もう数日この村で待機してもらうことになるが、よろしく頼んだ。とりあえず、その間これを飲み代の足しにでもしてくれ」

「もう、旦那は変なところで律儀なんだから。ありがたく受け取りやすが……学園都市に帰ったら、今度はあっしに奢らせてくだせぇよ」

「そうか、楽しみにしてるよ……でもいいのか? ゼスも知ってるだろうが俺はかなり大食いだぞ?」

「ははは……お手柔らかに」

「ふっ、冗談だ。それじゃあ、こっちの用が済んだらまた声をかけるよ。またな」

「へい! お待ちしておりやす」


 なんか流れでゼスとメシの約束をしてしまったが、学外の美味い飯屋とか知ってたら連れて行ってもらおうかな。

 御者をやってるうちにいろいろなところにも行ってるだろうから、その辺についても詳しいだろうしさ。

 ……さて、それじゃあ行商人になりすましていると思われる魔族が来ているか見に行ってみようかな。


「アレス兄ちゃん見っけ!」

「リッド君、どうしたんだい?」

「昨日言ってた行商人のおじさん、アレス兄ちゃん知らないでしょ? だから、いたらオイラが教えてあげようと思って!」

「ああそうか、ありがとうリッド君……ただ、もしかしたら危険な奴かもしれないから、いたら他の人には気付かれないように教えてくれ」

「うん、いいよ!」

「頼んだ。それじゃあ、その間市場でも見て回ろうか? 手伝ってくれるお礼にお菓子かなんかも買ってあげるよ」

「ほんと!? やったぁ」


 あ、そういえばエリナ先生にお土産を買って帰ろうかな。

 あんまり重いって思われるのもマズいから、消え物の方がいいよね。

 そうだなぁ、あ、そういえば前世で読んだゲームの設定資料集にエリナ先生はお茶が趣味って書いてあったから、お茶の葉にしよう。

 お、あそこの店にお茶が置いてあるみたいだ、行ってみよう。


「リッド君、ちょっとあのお店に寄ってもいいかな?」

「うん!」


 おお、結構いろんな種類が並んでるね。


「いらっしゃい。リッドと……もしかして坊やかい? あのゴブリンをやっつけたっていう凄腕の冒険者は」

「ええ、まぁそうです」

「やっぱり! ここしばらくゴブリンに備えて商売も出来なかったもんだからさぁ、とっても困ってたんだよ。そんなわけだから、坊やにはホント感謝してるよ、ありがとうね!」

「いえいえ、依頼をこなしただけですので」

「謙虚な子だねぇ。ま、無駄に偉そうなのよりはいいのかもねぇ」

「はは、どうなんでしょう……ああ、それで、お土産にお茶を買って帰りたいと思いまして、何かおすすめとかはありますか?」

「そうさねぇ、この村特産のハーブティーなんてのはどうだい?」

「へぇ、それはいいですね。じゃあ、お土産用と自分用に2つお願いします」

「まいどあり! そうだ、おまけにハーブクッキーも付けとくから、あとでリッドと一緒に食べな」

「それはありがとうございます、お姉さん」

「ありがとうございます! お、おねえさん」

「やだよぉ、こんなおばちゃん相手にお姉さんだなんて! リッドも無理しなくていいよぉ。よし、ハーブキャンディもおまけだよ!」

「たくさんいただいて、ありがとうございます。ですが私は見たままを言ったまでなので」

「まったく、将来が恐ろしい子だねぇ」

「さて、私たちはそろそろこの辺で、村に来たときはまた寄らせてもらいます。それでは」

「またいつでもおいでよ!」


 いや実際ね、話し方でおばちゃん感はあったけど、俺の前世的感覚からしたら普通に綺麗なお姉さんだったからね。

 まぁ、もとがゲームの世界だからか、わりとみんな美男美女なんだよね。

 男性は渋めなオッサンとか、ダンディズム漂うちょいワルオヤジとかもたくさんいるんだけど、女性は年齢を感じさせない人が多い。

 まぁ、アニメとかで普通に20代、下手したら10代に見える母親キャラってたくさんいるでしょ? ああいう感じ。

 そんなこんなで市場でリッド君と食べ歩きを楽しんでいたとき、リッド君がさりげなく俺の服の裾を引っ張った。

 正直、数日は待たなければならないかと思っていたが、運よく1日目で現れてくれたみたいだ。

 とりあえず、そのまま少し離れた広場の休憩所に移動した。


「リッド君、行商人がいたんだね?」

「うん、あっちに人が集まってるところがあるでしょ? ここからじゃ人がいっぱいで見えづらいけど、そこでお店を出してるのが行商人のおじさん」

「どれどれ、ああ、あれか……行商人はいつも何日ぐらいこの村に泊まっていくんだい?」

「んーと、いっつも来た次の日には村を出てたと思う」

「なるほど……そうだ、さっきもらったハーブクッキーとキャンディをまだ食べてなかったね、ここで食べようか」

「うん!」


 これから行ってみるか? いや、村の中で戦闘になったらマズいな。

 ……村に余計な被害を出したくないし、明日にはこの村を出るのなら、村を離れてから始末した方がいいか。

 そういえば確か、エリナ先生が魔族の魔力を探知するのは難しいって言ってたよな……たぶんあの男に魔力探知をかけてみても普通の人間にしか感じられなさそうだ。

 むしろ、中途半端にやったらこっちの存在を認識されてしまうかもしれん、とりあえず今は目視に留めておこう。

 よし、奴の風貌は覚えた、今日はこの辺にしてリッド君の家に戻ろう。


「アレス兄ちゃん、話をするんじゃなかったの?」

「ん、そうなんだけどね、明日村の外でした方がいいかなって思ってね」

「そうなんだ……」


 ……もしかしたらリッド君、明日俺がやろうとしてることを察してるのかもしれないな。

 明日は危険だからついてこないようによく言っておかなきゃだね。

 いや、一応魔力探知で常に所在を確かめておいた方がいいか。


 そうしてこの日も、寝る時間までリッド君に魔力操作の指導をしっかり行った。

 そして明日は魔族狩り、気合入れて行こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る