第31話 奇遇だな

 行商人は毎回同じルートを辿って移動していると聞いたので、次の移動先の方向に先回りして待ち伏せることにした。

 念のため、リッド君にはついてこないようにしっかりと言い含め、その間しっかりと魔力操作の練習をしておくよう約束した。

 一応、帰ってきたときにどれだけの成果を得られたか試験すると言ったら、真剣な顔で頑張ると決意を漲らせていたので、魔族をひと狩りして帰ったときが楽しみだ。

 とまぁ、そんな感じで早朝に村を出て、村からじゅうぶん距離を取ったところで待機中というわけ。

 なんかこうしてるとさ、異世界系でお馴染みの馬車を襲う盗賊になった気分だね。

 いや、それだとこっちが討伐されちゃうことになるから駄目なんだけどさ。

 ……しっかし、この世界に転生してきたときは魔族の相手とか面倒そうだから、主人公君に任せて放っておけそうならそうしようと思ってたのにな。

 それなのに、早速俺の周りをちょろついてくれるんだもん、まったく困ったもんだよ。

 魔族のクソバカが吸命の首飾りなんて下らねぇもん持ち出してきたせいでナミルさんは危うく死にかけたし。

 テグ助だって、もしかしたら立派な片思いの美学の体現者になっていたかもしれないのに……

 それだけじゃない「吸命の首飾り」あれは腹内アレス君を本気で怒らせた。

 腹内アレス君にとって、あれは存在を許してはならない物らしい。

 ちらっと思い浮かべる、ただそれだけでかなりご立腹なのだ。

 ま、そんなわけで行商人になりすました魔族、お前はアレス・ソエラルタウトを敵に回したってことだ。

 そんなことを考えていると魔力探知に反応があった。

 思った通り、普通の人間の反応としか感じられないね。

 まったく、上手く擬態したもんだよ。

 とりあえず、まだだいぶ距離はあるが、戦いのときが近づいている、気合を入れて行こう!

 そうして、ようやく視認できる距離に馬車が来た。

 うん、昨日見た奴に間違いない。

 よっしゃ、行くか。


「止まれ、そこの馬車」

「……なんでしょうか?」

「吸命の首飾りと言えばわかるか?」

「……さぁ、何のことでしょう。私も忙しいので、特に用がないならこれで……」


 このどうでもいい会話中、魔力探知でこの男の魔力をじっくり探ってみたが、やはり普通の人間と変わらないように感じる。

 近くでなら少しぐらい違和感とかないかなって思ったのだけど全然。

 エリナ先生、まさしく先生の言った通りでした……だけど、いつの日か違いのわかる男になれるよう、これからも魔力探知の精進を重ねます!

 とまぁ、誓いも新たにつらら発射。

 一応、本当に人間だったら困るので手足を狙う。


「な! 急に何をするんですか!?」

「ほう、よく避けたな」


 つららを上手く避けながら、馬車から飛び降りる男。

 ま、これだけの身のこなしが出来るんだ、一般人じゃないね。


「次は10本行ってみよう」

「くっ!」

「おぉ、すごいすごい。レベルアッ~プ、今度はホーミング式だよ!」

「馬鹿にするな!!」


 さすがに、人間に擬態したままでの対応は無理だと悟ったのか、正体を現してファイヤーボールでつららを相殺したようだ。


「魔法上手だね、魔族さん」

「……俺をここまでイラつかせるとは、劣等種族の分際で生意気な野郎だ」

「へぇ、普段はそういう感じなんだ、そっちの方がワイルドでイケテルと思うよ?」

「この野郎、さっきから黙って聞いてたら! 調子に乗るのもその辺にしとけよ、コラァ!!」

「お~コワっ! って言うと思ったか? お前が言う劣等種族にビビり散らして陰でコソコソと下らねぇことしか出来なかったクソザコが」

「……言いたいことはそれだけか? てめぇもコソコソとヘタクソな魔力探知を向けてきたなぁ? 劣等種族の魔力探知はこんなもんかと哀れに思っちまったぞ?」

「あぁ!?」

「お、どうした? もしかして自信あったのか? 可哀そうに……あれじゃ全然だめだわ、お前才能ねぇよ? それとも教えた奴が無能だったか? ハハッ!!」

「……エリナ先生を無能呼ばわりとは……この世界に来て……いや、もしかしたら前世を含めてかもしれないな、こんなに頭に来たのは初めてだ……お前、楽に死ねると思うなよ」

「はぁ? 何をわけのわからねぇことをブツブツと! 死ぬのはてめぇだ!!」


 その言葉をきっかけに、俺たちの殺し合いが始まった。

 ファイヤーボールが次から次へと魔族から飛んでくる。


「その程度で俺の魔纏を突破できると思うな」

「バーカ、本命はこっちだぁ!」


 上空から無数の岩石が降り注ぐ。


「……ぐっ」


 魔纏によって俺の体そのものには直撃していないが、頭上からの圧力と衝撃はいくらか受けてしまう。


「なんだぁ『楽に死ねると思うな』とか偉そうに言ってたくせに、大したことねぇなぁ!」

「……もう勝利者気取りか? 魔族は短絡的だな……いや、人間と共に平和に暮らしている魔族もいるんだった、まともな魔族に失礼だったな……お前らみたいなのは魔族じゃなくてマヌケと名乗れ」

「てめぇ! 減らず口はその状況をどうにかしてから言いやがれ!!」

「まぁ、そうだな……ミキオ君、今日も元気に蹂躙モードでよろしく」


 ミキオ君に魔力を流し込み、上空に向けて掲げる。

 するとどうでしょう、あんなにたくさんあった岩石がどれもこれも木っ端微塵。

 サラサラと舞う砂粒が日光に反射してちょっと幻想的な風景を演出している。

 うん、ロマンチックだねぇ~


「とまぁ、こんな感じだけど、どうかな?」

「な……なんだそりゃぁ」

「あんな簡単に砕けちゃう岩石しか生成出来ないなんて君、才能ないね! それとも君に魔法を教えた奴が無能だったのかな?」

「ふざけやがって!!」


 なんか彼、キレちまったみたいで、滅茶苦茶でっかい溶岩の塊みたいなのを上空に生成している。

 なるほどね、火属性と地属性の混合魔法って感じかな。


「ハァ、ハァ……ハハッ! これを落とせばてめぇも終わりだぁ」

「……仮にそれで俺が終わったとして、お前も燃え潰れて終わりになりそうだが?」

「そんなこたぁ関係ねぇ、俺をコケにしやがったてめぇは許しちゃおけねぇ、必ず殺す!!」

「そうか、奇遇だな、俺もお前を殺そうと思ってたんだ」


 きっと彼、残りの全魔力をつぎ込んでいるんだろうね、塊がどんどん大きくなってくよ。

 よっしゃ、こっちは対抗してデッケェ氷で迎え撃つ!

 北国育ち舐めんなよ!!

 そんなわけで、ガンガン魔力をつぎ込んで巨大な氷のかまくらを生成することにした。


「ハァ……ハァ……今更遅ぇ、そんな氷ぃ一瞬で溶かしてやらぁ……死にやがれ!!」


 そう言って、魔族の生成した赤々とした溶岩の塊がゆっくりと降って来た。


「そんなとろ火じゃ、俺の氷は溶かせない」


 遂に、俺の巨大かまくらに魔族の溶岩の塊が衝突した。

 ジュウジュウと音を立ててかまくらの表面が溶かされていくが、奴の溶岩も急速に熱を奪われて冷え固まっていく。


「……これはこれでなんかゲイジツって感じに見えなくもないかな?」

「ハァ……ハァ…………く……そ…………が」


 この疲労困憊具合から察するに、おそらく魔力だけではなく、肉体に宿る生命力も魔力に変換して魔法につぎ込んでいたんだろうね。


「お疲れ、それじゃあそろそろお別れの時間だ、さよなら」


 そう一声かけて、ミキオ君を一振り。

 断末魔の声を上げる間もなく、魔族の男は血煙となってこの世から去った。


「……やっぱコレ、邪魔だよね」


 魔力ポーションを飲みながら、魔法の衝突で出来た巨大なオブジェを眺めて出た一言だった。


「仕方ない、頑張って粉砕するか……その前に、魔族が乗ってた馬車の荷物を回収しとくか」


 面倒だったので馬車ごと回収したった、大容量のマジックバッグさまさまだね。

 馬は近くの木に繋いでおいた。

 さて、オブジェの解体だが……なるべくは広範囲に散らすつもりだけど、ちょっとした残骸の盛り上がりが出来たりするのは許してもらおう。

 もしくは風に運んで……ああそうか、粉々にして吹き飛ばせばいいのか。

 いや、下手したら近隣住民に黄砂被害をもたらすかもしれないな……

 そんな感じで、アレコレ悩みながら解体作業にあたっていたら、俺を呼ぶ声が聞こえる。


「旦那~」

「アレス兄ちゃ~ん」

「……ん? どうしたんだ2人とも」

「いえね、リッドの坊主がこっちの方角から物凄い魔力を感じて、もしかして旦那に何かあったのかもって泣きそうな顔をするもんですからね、それならってことで様子を見に来たってわけでさぁ」

「そうか、今回はしっかりと大人に相談したんだね、ナイス判断だったよリッド君」

「えへへ」

「それにしても、それだけ魔力を感じられたのなら、今日の試験は合格だね」

「ホント!?」

「もちろん」


 そうして作業を終え、馬車で村に戻った。

 なんか毎回、戦闘よりあと片付けに時間がかかってるよね。

 おかしいな、先輩転生者の皆さんはもっとスマートに異世界生活を送っていたように思うんだけどな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る