第32話 いい傾向だ

 あれから村に戻り、あの行商人になりすました魔族が二度と来ないことを魔族の存在をぼかして村長に伝えた。

 なぜぼかしたかと言うと、魔族の暗躍を表沙汰にしていいのかちょっと自信がなかったので、学園都市に帰ってから然るべきところに報告して、そちらの判断に任せようと思ったからだ。

 あ、勝手なことしたって怒られるかな?

 まぁいいや、あんまりうるさく叱責されたら逆ギレの傲慢をかましてやろう。

 もともと評判の悪いアレスさんだ、一つや二つやんちゃなエピソードが増えたところで大した問題でもなかろう。

 あとは、生け捕りにしなかったことを指摘されるかもしれんけど、ああいう輩ってさ、ファンタジー系あるあるだと思うけど、基本口が堅いし、更に情報漏洩防止の魔法っていうか呪いみたいのがかかってて無理な尋問とかすると死んじゃうから、情報を引き出せないのよね。

 ゲームのヒロインその2の魔族少女に関しては、主人公君の愛のパワーによる奇跡だかなんだか知らんけど、なぜかご都合的にその辺の問題はゴリ押しでクリアしてたけどさ。

 ま、とにかく、主人公君みたいな謎パワーがなければ奴等から情報を抜くのは無理ってことだね。

 だから俺も躊躇なく始末することを選んだわけだし。

 長くなったけど、そんな感じで村長へ話を通しておいた。

 ちなみに、あのマヌケから強奪した形になった馬だけど、ちょっとした迷惑料代わりに、村に寄贈しておいた。

 まぁ、この村は辺境でもなんでもなく、行商人もあのマヌケしかいなかったというわけでもないのでさほど困らず、村長としてはむしろ儲けた感があったみたい。


 そしてリッド君の家に戻り、ナミルさんとリッド君に明日学園都市に帰ることを告げた。

 ナミルさんはもちろん、リッド君は泣きながら寂しがってくれたので嬉しかったね。

 でもま、この村と学園都市は大した距離でもないし、学園都市から西の地方に依頼で行くときはこの村に毎回立ち寄ることになるだろうから、わりと会う機会があるんじゃないかと思ってる。

 そう話せばリッド君も泣き止んで笑顔も見せてくれた。

 ついでだから、村に立ち寄った際に毎回魔力操作の上達具合をチェックすると言ったら、若干真顔になってたけどね。

 まぁ、そのときリッド君が魔法に興味を失ってそうなら、以後は無理強いをしないつもりだから安心して欲しい。

 ただ、あの顔は頑張る方向に決意を固めている顔だと思うので、そういう心配は必要なさそうだけどね。

 そんな感じで、この日も時間の許す限り、リッド君に俺が教えられる範囲の魔法を教え込んだ。


 そして翌日、学園都市に帰る日の朝が来た。

 ナミルさんやリッド君は当然として、村長や茶葉を買ったお店のお姉さん等、交流のあった村人が見送りに来てくれた。

 

「見送りありがとうございます、また村に訪れたときはよろしくお願いします」

「アレスさん……本当に、本当にお世話になりました。うちで良ければ、またいつでも泊まりに来て下さいね」

「アレス殿、この度は村のために大変世話になり申した。感謝致しますぞ!」

「坊や、またいつでもおいでよ!」

………………

…………

……


「旦那、そろそろ出発しますかい?」

「そうだな、それでは皆さん、お元気で!」


 そうして、馬車が動き出す。


「……アレス兄ちゃん、絶対また来てね! 絶対だよぉ!!」


 馬車を走って追いかけてくるリッド君。


「ああ、もちろん! 次に会うときを楽しみにしているよ!!」


 少しずつ速度が上がっていく馬車であるが……その速さに地味についてこれているリッド君。

 さてはリッド君、俺が教えた運動用魔力循環を早速使っているな。

 ただ、さすがに練度と魔力総量的に、長距離は無理だったみたいだね、徐々に遅れていく。

 だがいい傾向だ、本当に次に会うときが楽しみになってくるよ。


「リッド君! 君は本当に凄い魔法士になれるかもしれない、だからこれからも頑張るんだよぉ!!」


 遠ざかるリッド君にそう激励の言葉をかけ、お互い見えなくなるまで手を振り続けた。


「旦那、リッドの坊主は将来スゲェ魔法士に成長するかもしれませんね」

「ほう、ゼスもそう思うか?」

「当たり前でさぁ、なんたってあんな子供のうちから旦那に魔法を教わったんだ、並で終わるはずがありやせん」

「ふむ、だが王国民なら誰でも魔法の基礎を教わることができるはずだ。それと大差ないのではないか?」

「そうなんですがね、あっしらみたいな普通の平民が魔法を教わっても、しばらくすると魔力操作に飽きちまうんでさぁ。それで結局、ちょっとした種火を出すとかコップ1杯の水を出すみたいな生活魔法を覚えて終わり。本格的な魔法はお貴族様のような才能のあるお方にしか無理だなと諦めちまうのが大半なんです。ですが、坊主には旦那という見本であり憧れがいますからね、旦那みたいに汗だくになりながら一日中魔力操作を行うのが当たり前だと思えば、きっと努力を続けられますよ」

「なるほどな……そういえば、ゼスは村にいる間、魔力操作をやってみたか?」

「ええ、時間があったんでやってみましたよ。ただやっぱり、ガキのときもそうでしたがじっとしてやるのはあっしには無理でしたね。ただ、旦那に教わった歩きながらやるのっていうのはあっしに合ってたみたいで、あれなら続けられそうでさぁ」

「おお、それはよかった。よし、慣れてきたら今度、本も読みながらやってみるといいぞ。運動、魔法、知能と3つを同時に鍛えられるからな、オススメだ!」

「ははは……慣れたらですね」


 そうしてゼスと会話を楽しみつつ、学園都市へ向けて馬車は進んでいく。

 もちろんその間も魔力操作の練習は怠りなく行った。

 行きに比べて帰りともなれば、汗だくアレス君に対するゼスの反応もだいぶ慣れたものになっていた。

 これもまたいい傾向だ、そんな風に思った帰りの馬車のひととき。

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