第33話 久しぶり

「旦那、着きましたぜ」

「おお、なんか久しぶりって感じがするな」

「あっしも今でこそ慣れましたが、初めて遠征したときは同じように感じたもんでさぁ」

「やはりみんなそんな風に思うものなんだな。さて、ギルドに報告に行くとするか。この数日世話になったな、ありがとう」

「あっしも世話になりました。そうそう、今度のメシの約束、忘れないでくだせぇよ?」

「もちろん。俺の腹は食べ物のことはしっかり覚えているからな! よし、それじゃあまたな」

「へい、また今度」


 ゼスと別れて、まずはゴブリンの死体を提出しにギルド裏手の解体兼保管所へ。


「おうアレス、久しぶりだな!」

「ああ、遠征に行っていたからな」

「ああ聞いてるぞ、ゴブリンの集落の討伐だったな。それで、どうだった?」

「なかなかに大量だった。とりあえず先に出させてもらおう」

「そうだな。よし、ここに出してくれ」


 ゴブリンの死体を出しては解体士が運んでいくの繰り返し。

 最初は元気よく運んでいた新人解体士の表情がだんだんと無になっていく……


「これで全部だ」

「予想はしてたが、やっぱすげぇ数だな……そんで内訳は、ノーマルが836体に、ナイトが16体、マジシャンが8体か……多いな、だが噂にあった強個体はいなかったのか?」

「そうだな、妙に頑張る奴はいたような気がするが、よくわからんな」

「そうか。ま、お前さんが無事に依頼を達成出来たのならそれでいいさ。よし、これが今回の引取証明書だ」

「うむ、確かに」

「それじゃあ、あとは受付で達成報告だな」

「ああ、それじゃあまたな」

「おう、またよろしく頼むぜ!」


 受付に移動。


「お帰りなさい、アレスさん!」

「ただいま帰りました、ロアンナさん。まずは達成のサイン入りの依頼書とギルドカード、そして引取証明書です」

「お預かりします。はい、無事達成です、お疲れさまでした。いつも通りギルドの口座に振り込みでよろしいですか?」

「はい、お願いします」

「かしこまりました。それから、こちらが依頼達成証明書となります。ギルドカードを提示していただければ、有料ですが再発行も可能ですので、そのときはお申し付けください」

「わかりました」

「それと、今回の依頼はどうでしたか?」

「そうですね、ゴブリンの集落の討伐はさほど苦労もなく終わりましたし、初めての遠征でしたが、村の人たちも温かく迎えてくれたので気分よく依頼を遂行できました。ああ、それとゼスにもとても世話になりました。また遠征依頼があった場合はゼスに送ってもらえたらと思います」

「そうですか、そう言ってもらえれば、依頼を紹介した私としても安心しました。そして、ゼスの御者ぶりも気に入ってもらえたようでギルドとして嬉しく思います」

「今回はとてもいい経験が出来ました。また私に向いた依頼がありましたらご紹介ください」

「こちらこそ、しっかりと依頼をこなしていただき、ありがとうございます。そして、アレスさんにお願いしたい依頼もまた出てくると思いますので、そのときは宜しくお願い致します」

「もちろんです。それでは、今日のところはこれにて失礼します」

「はい、大変お疲れさまでした、今後とも宜しくお願いします」


 さて、学園に帰ろう。

 時間はもう夜の7時を過ぎてる……さすがにこの時間にエリナ先生の研究室に行くのは控えた方が良さそうだね。

 まぁ、研究室にいるかいないかで言えばいると思うんだけどさ……

 うぅ、今日のところは我慢して、明日授業が終わってから報告に行こう。


 自室に戻って来た。

 こっちも久しぶり感凄いね。

 よし、まずはシャワーをささっと浴びて、腹内アレス君が待ってるからご飯を食べに行こう!


「おい、アレがいるぞ!」

「誰だよ、学園を辞めたとかホラ吹いた奴は」

「いやいや、学園を卒業しなきゃ士爵位をもらえないんだから、簡単に辞めるわけないでしょ?」

「まったくだ、変な噂を信じて馬鹿だなお前は」

「うっせ」


 そうなんだよ、この世界って言うか、この王国では学園を卒業しさえすれば、たとえ平民でも士爵という爵位をもらえちゃうんだってさ。

 なんか前世の大学を卒業したときに取得できる学士っていう学位みたいだよね。

 たぶん俺も、追放とかされずこのまま行けば士爵様だね、えっへん!

 まぁ、士爵だからってだけで領地をもらえるわけでも、お金がもらえるわけでもないんだけどさ。

 それじゃあ意味ないじゃん、と思われるかもしれないが、最下級でも貴族を名乗れるのが地味に大きいのだ、特に親の爵位を継げない貴族家子女にとっては。

 やっぱり貴族と平民では社会的な扱いが圧倒的に違うからね、例えば貴族と平民が喧嘩したら基本平民が罰せられるとかね、これが貴族対貴族なら爵位による圧力とかもないわけじゃないけど、ある程度公平にお互いの言い分を聞いてもらえたりする、らしい、教科書によればね。

 他にもあらゆる面で貴族は特権的扱いを受けられるのだ。

 そこで、未成年の今は、親の爵位にぶら下がる形で、俺だと侯爵家の人間って偉そうにしてられるけど、16歳になって成人したときに学園を卒業出来ておらず、士爵位を持っていなければ平民になってしまう。

 これが、貴族家子女にとってはこの上ない恐怖らしい。

 そんなわけで、この国では貴族であるかどうかっていうのはかなり大きな意味を持つのだ。

 ただまぁ、口の悪い貴族の中には「貴族と名乗っていいのは最大限譲歩しても男爵からだよね」とか言う奴もいたりする。

 それは誰かって、俺が転生してくる前のアレス君だったんだけどさ。

 そこで「ソエラルタウト家は長男が既に内定してるんじゃなかったのか?」っていうツッコミもあると思う。

 それについてはね、アレス君は本気で自分が爵位を継げると思ってたんだよ……なんと傲慢な!

 ま、それはともかく、この王国はそういう設定になっているってことさ。

 というわけで、そんな設定あったなぁと思い出しつつ、美味しくご飯をいただいた。


「しかし、アレは今までどこで何をしてたんだろうな?」

「さぁ?」

「なんかいかがわしい店に出入りしてたとかっていう話は聞いたな」

「またお前は……」

「はぁ……」

「おい! その反応はなんだよお前ら!?」


 さて、ご飯も食べたことだし、部屋に戻って魔力操作の練習をやりますかね。

 今回の遠征で、ゴブリンヒーローには魔纏を突破されたし、マヌケ野郎には魔力探知を馬鹿にされた……こうした課題が見つかったし、まだまだ全体的にレベルアップを図るべきでもあるだろう。

 うん、俺にはまだまだ伸びしろがある。

 この次リッド君に会うときは、俺ももっと成長していたいし。

 よっしゃ、頑張るぞ!

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