第736話 心を彷徨わせるな!

「なかなか見事なトルネードではあるけれど……残念ながら、それだけで私の生成する木の勢いを止めることはできないわよ?」

「……そう」

『ファティマ選手の巻き起こしたトルネードが、ノアキア選手の生成した木を切り刻んでいきますが! それと同等か、それ以上のスピードで新たに木が生成されていきます!!』

『相手がノアキアさんでなければ、勝負を決められるだけの力を持ったトルネードだと思うのですが……そして、このままではファティマさんが圧倒的に不利な魔力量勝負へと突き進んでしまう……』

『さぁ、ファティマ選手……このままズルズルと魔力量勝負を続けるしかないのでしょうかッ!?』


 ふぅむ、あのトルネードで一気に押しきることができればよかったんだろうけどなぁ……

 ただまあ、魔力量勝負が不利だってことぐらいはファティマだって分かりきっていることだろうし……表情を見る限りでは、そこまで悲壮感のようなものも漂っていないので、まだまだやれるはず……


「男子の物凄い試合を観たあとだけど……女子も劣らず凄い試合を観せてくれるぜ……」

「あんな規模と激しさの魔法……もう、天災だよ……」

「今年、武闘大会を観に来てよかった……」

「だな……」

「実は僕、今日のぶんのチケットしか取れなかったのだけど、何気に一番の当たりを引いたのかもしれない……とはいえ、明日や明後日は今日よりもっと凄い試合を観れるのかもしれないけどさ……」

「へぇ、そっかぁ……俺っちは運よく明日のぶんのチケットも手に入れることができたんだけどねぇ……」

「まあ、やっぱり明後日の3年生の試合が一番レベルが高いとみんな思うだろうから、必然的に入手困難になるわなぁ……とかなんとかいっておきながら、俺様は3日間ぶんのチケットを手に入れたがな!!」

「おぉ~っ、やるねぇ!」

「へへっ……どうしたって地方じゃ数に限りがあるからな! チケットを確実に手に入れるためには、やっぱり学園都市で買うのが正解さ!!」

「なるほどね……とはいえ、チケットを買うためだけに村と学園都市を行ったり来たりはできないよ……」

「じゃあ、学園都市に住んだらどうだ? 現に俺様はそうしている!!」

「そ、そこまでぇっ!?」

「フフッ、俺はもう何年もこの武闘大会を観戦してきたが……お前のような男を何人も見てきたよ……ああ、もちろん俺も同類さ……」

「こ、ここにもいたぁっ!!」

「まあ、それだけ何度もベテラン観戦者アピールをしていれば、そうなんだろうなぁって感じだよ……」

「それはそれとして……あの斬り倒した木、あとでくれないかなぁ……?」

「ははっ! 確かにあの木を使って作った家具なんかは、さぞかしいい物になるだろうな!!」

「しかも、『あのエルフ族の生成した木を使用!』っていえば、もんのスゲェ付加価値が付くに違いない!!」


 そうだなぁ……トレントブラザーズには到底及ばないだろうけど、あれだけ豊富に魔力を含んだ木を素材にすれば、なかなかの武器が作れそうだね。


「……そんなぁっ! ファティマちゃんのトルネードが弱まっちゃったよぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ヤバイ! ヤバイ! ヤバイィィッ!!」

「どうか! 負けないで、ファティマちゃん!!」

「く、苦しいときこそ……笑顔で!!」

「おいコラッ! ファティマちゃんが大変なときに、アホみてぇなリクエストしてんじゃねぇッ!!」

「い、いや、そういうつもりじゃなくて……」

「おい、お前たち! 俺たちが揉めてる場合じゃないだろ!?」

「そのとおり……僕たちにできるのは、全力でファティマ様を応援することのみ……」

「ああ、そうだったな……ワリィ、つい頭に血が上っちまって……」

「う、うん、こっちこそ……」

「とにかく、我々の想いのパワーをファティマ様へ届けるのだ! それには、今一度心を一つにせねばならん!! 分かるな、皆の衆!?」

「「「応ッ!!」」」

「では、ゆくぞ!!」

「「「応ッ!!」」」

「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」」


 ファティマヲタたちが声をそろえる……

 さらにいうと、俺の隣でロイターも……


「ファ~ティ~マ! ファティマ!! ……おい、何をしているお前たち! もっとファティマさんの応援にリキを入れんか!!」

「「「ハ……ハイッ! ごっつぁんです!!」」」

「おい、シュウ! お前も身体を酷使していたとはいえ、声ぐらいは出せるだろう!? ならば、出せ!!」

「シュウよ……この状態のロイターのいうことは聞いておいたほうがいいぞ?」

「あはは、そのようですね……」

「おい、アレス! 誰が無駄口を叩けといった!?」

「ハイッ! ごっつあんです!!」

「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」」


 実際のところ、シュウは普段から俺たちと密につるんでいるわけではないので、そこまで熱心にファティマを応援する必要はないのかもしれないけどね……

 ただまあ、ロイターの反対側ではあるが、俺の隣に座ってしまった君がいけないのだ……諦めてくれたまえ。


「おい、アレス! 心を彷徨わせるな! 声に『氣』を込めろォッ!!」

「ハイッ! ごっつあんです!!」

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