第735話 時間が経つほど不利になっていく

『1本また1本と木が生えていき……舞台上がちょっとした森になりつつあります!』

『あれだけ次々に木を生やすことができるとは……さすがとしかいいようがありませんね』

『確かに……ウッドランスを複数本射出するだけならまだしも、あそこまで青々とした木を生成するだなんて信じられませんよ……』

『おっしゃるとおりですね……そして、魔力のみで生成した木というのは見た目だけで命が宿っていないという説が有力ですが……ノアキアさんが生成した木からは、不思議と強さが感じられます』

『ということは、あの木たちは生きている……と?』

『う~ん、おそらく命は宿っていないと思いますが……とはいえ、正直判断が難しいですね……ただ、それだけノアキアさんが鮮明なイメージと強い魔力を込めて生成しているということなのだと思います』

『なるほど、だからこそあれだけ生き生きとした木に見えるわけですか!』

『ええ、おそらく……』


 試しに俺も魔力探知で木を探ってみるか……ふぅ~む、内部を魔力が巡っているのは感じられるのだが、肝心の魔臓が見当たらない……なんとも不思議な状態だな……

 ああ、いや……トレントブラザーズに魔力を込めるみたいに、魔力と親和性のある物質に魔力を込めること自体はできるから、そこまで不思議なことでもないか……

 そんなことを考えていると、シュウが口を開いた……


「今はまだ木の形……ある意味、器だけの状態みたいなものですが……そこらを浮遊している実体を持たない者でも宿れば、本物の木になり得るでしょうね」

「ほう、器だけの状態か……」

「ただし、相性などいろいろあって、いうほど簡単に宿れるものでもないみたいですがね……」

「へぇ、そうなのか……」


 まあ、ちょっと違うかもしれないけど、前世で聞いたことのある付喪神とかも長い年月を経る必要があったりしたみたいだから、そんなもんかもしれんね……

 それにしても、シュウの魔眼はそういうことも認識できるってことなんだろうなぁ……凄いもんだよ。


「……ッ!!」

「あら、惜しかったわ……でも、まだまだ行くわよ?」

『これまでは地面から生えてくるだけだった木が、今度は枝を伸ばしてファティマ選手に襲いかかってきたァッ!!』

『枝だけではなく、足を絡め捕ろうと根まで伸びてきているようですね』

『懸命にファティマ選手もウインドカッターで応戦しますが! それがどうしたといわんばかりに枝や根は、怯むことなく次々とファティマ選手に襲い掛かりますッ!!』

『枝や根だけでなく、たとえ木そのものが斬り倒されようと次々に生成されていく……この猛攻は、ノアキアさんの魔力が尽きるまで終わることがないのでしょう……』

『な、なんと恐ろしい……しかもノアキア選手は、まだまだ余裕の表情……これはもう! 時間の問題なのかァッ!?』


 むむっ! どうやら、あの木々から誘眠などデバフ効果のある成分まで放出され始めたみたいだぞ……

 ああなってくると、大量のトレントみたいな植物系モンスターと戦ってるみたいな状況じゃないか……


「そんなぁっ! ファティマちゃぁぁぁぁぁぁぁんんんんんっ!!」

「チクショウ! あれじゃまるで、舞台全体が敵じゃねぇかよッ!!」

「大丈夫……ファティマさんは大丈夫……ファティマさんは大丈夫……ファティマさんは……」

「そ、そうさ……究極美少女ファティマちゃんは、戦闘も究極なんだから……!」

「それにしても……いくらエルフ族っていったって、あれだけやってまだ魔力に余裕があるなんて信じられないよ……」

「エルフ族……化け物か……」

「こんなときこそ! 我々も心を一つにして、ファティマ様を応援しようじゃないか!!」

「「「応ッ!!」」」

「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」」


 ファティマヲタたちの応援の熱量が上がっていくが……


『あぁっと! ついにファティマ選手! 根に足が捕まってしまったァァァァァァァッ!!』

『……ん? いや、あれはどうやら幻影魔法のようです』

『なんと、ファティマ選手! 幻影魔法を駆使して難を逃れたようだァッ!!』

「ふふっ……逃がさないわ」

「……させないッ!」

『ファティマ選手、なんとか躱し続けていますが……徐々に疲労が溜まってきているようです……』

『やはり、保有魔力量が違いますからね……時間が経つほど不利になっていくのは仕方ないのかもしれません……』


 一応ファティマも、なんとか空気中の魔素を取り込んで魔力変換をしているみたいだけどね……


「いいよ、いいよ! ノアキア!!」

「ほ~んとファティマの奴、いい気味ね~っ!!」

「その調子でどんどん削ってあげるのよッ!!」

「キャハハハッ! ただでさえミニサイズなのにぃ~っ! これ以上削ったら、どうなっちゃうのぉぉぉぉっ?」

「う~ん、拡大鏡で見なくちゃならないとか?」

「ちっちゃぁっ! それ、ちっちゃ過ぎでしょ!!」

「まあ、そこまで小さくなってしまったら、さすがに偉そうにはできないかもねぇ?」

「とにかく、やっと……やっとミーティアム家の小娘が挫折する姿を見ることができそうだわ……」

「……ハァ……ハァ……そうよ、そう……そういう顔をもっと魅せてちょうだい……そうすれば、もっと輝くことができるわ……」


 そしてファティマアンチの令嬢たちは、どんどん盛り上がっていく……


「……それなら」

『おぉっと! ここでファティマ選手を中心として大規模なトルネードが巻き起こったァッ!!』

『この魔法が形勢逆転の一発となるかどうか……』

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