第734話 普通じゃないの……

「さあっ、どんどん行くわよ?」

「……ッ! 望むッ! ところだわッ!!」

『避けた先、そのまた避けた先の足元から次々にウッドランス状の木が急激に突き出てきて、ファティマ選手を襲います!!』

『木の生成スピードが速いですが……ファティマさんも負けじと高速で回避していますね』

『それにしても、よく見てみるとファティマ選手の足が着地する前に木が突き出てきているようですが……それでよく回避できていますね? いくら身体強化をかけていたとしても、蹴るべき地面がないと跳ぶことも難しいでしょうに……』

『そうですね……どうやらファティマさんは、空気を圧縮して足場にしているようです……また、それで間に合わないときは自身にウインドブロウを当てて回避しているのだと思います』

『空気を圧縮して足場にするのは分かるとして、自身にウインドブロウを当てて回避ですか……なかなか勇気がありますね……』

『まあ、そこはアレスさんに教わったであろう魔纏でダメージを受けないようにしているようなので……あとは、気分的な慣れの問題だと思われますね……』

『なるほど、慣れですか……』


 緊急回避の手段として風歩を使うのは……グッドだね!


「ふむ、風歩か……」

「そういえば、僕らも模擬戦中にアレスさんが使っているのをマネさせてもらって、風歩を使うようになりましたねぇ……なんだか懐かしいです」

「ああ! 俺も突進力が欲しいとき、使わせてもらっているぜ!!」

「確かに、まっすぐ進むだけなら下手に身体強化をかけるより、使いやすかったりしますからねぇ」

「とはいえ、最初はウインドブロウの出力を調節するのに苦労させられたなぁ……」

「……狙った距離や速さに調節するのは、それなりに練習が必要だった」

「まあね、魔纏とウインドブロウを同時使用することになるわけだから、慣れていないと難しいのは確かだろうなって思うよ」

「その点については、もともとファティマちゃんは風属性が得意だったし、魔纏も毎日練習してたからね!」

「フッ……魔纏の常時展開に慣れておくと、ウインドブロウを使っているだけって感覚になるだろうけどな!」


 ドヤァ! って感じでいったった!!


「さっすがファティマちゃん! 凄い回避能力だよ!!」

「ハハッ! どんだけ木属性が珍しいったって、当たらなければ意味がないのさ!!」

「そのとおりっ! ファティマちゃんの天才的な魔法の運用能力を舐めんなっ!!」

「ただ、いくらダメージがないっていったって……よく自分に魔法を当てられるよな?」

「そういったところがね、ほかの女子とファティマさんの違うところなんだよ! どうか、世の女子たちにはその辺のところをよぉ~く理解していただきたい!!」

「ファティマ様の勇気に感服いたします!!」


 ファティマヲタたちは盛り上がっているようだが……


「……チィッ! あのチビ女ったら、くっだらないアピールしちゃってさぁっ!!」

「え、待って……『アレス様に教えてもらった魔法で私は無敵でぇ~す』っていいたいの? うっざ!!」

「なんなの、あの女! 勘違いし過ぎぃぃぃぃぃぃっ!!」

「でもまあ、日頃からアレス様方と模擬戦をしているんだからさ……当然、そのとき学ぶこともあるんじゃない?」

「ていうかね……わざわざあんな避け方をしなくても、地面に障壁魔法でも張ればいいって話でしょ? そういうあざとさがイヤ……」

「いえてるぅ~っ!」

「フフッ……でも、あの子だって簡単に回避できているわけじゃない……なぜって? それは、あの子の必死な顔を見れば分かるでしょう? あの木属性の魔法はね、普通じゃないの……中途半端に障壁魔法を張ったところで、すぐに突き破ってくる……だから、あの子はああやって必死に回避するしかない……嗚呼、本当にいい顔をする……でも、もっとよ……もっと欲しいわ……フフッ、フフフフフ……」

「そ、そう……普通じゃないのね……?」

「そうはいっても、ファティマにダメージを与えられてないんだったら意味ないでしょ……」

「確かに……そんでノアキアも、あんなに木ばっか生やしてなんのつもりかしら?」

「う~ん、庭師にでもなったつもりなのかな?」

「ぶふっ……もうっ! 試合をしている真っ最中に庭師になるおバカさんがどこにいるっていうのよ!?」

「……あそこに?」

「いやいや、そのキョトンとした顔はやめなさいって……ぶふっ……」

「まあ、冗談はさておき、どんどん逃げ場がなくなっていっているわ……そろそろ終わりよ、ミーティアム家の小娘……」


 うぅむ、あれだけガンガン木を生やすことができたら、前世の環境破壊も食い止めることができたのかなぁ……

 そんでもって地球温暖化……いや、俺が生きてた最後のほうは沸騰化とか言い始めてたっけ? とにかく、そういうのが森林のおかげで防げていれば、俺もこっちの世界に転生して来なかったかもしれないんだなぁ……

 いや、この世界での暮らしそのものは幸せなので、嫌なわけではないのだが……迷惑をかけた前世のみんなのことを思うと、申し訳なさが湧いてきてしまうんだよなぁ……

 おっと、あんまり沈んだ雰囲気を出すわけにもいかんな……

 そうして、ふと思い出したのだが……もともと生えている木ではなく、最初から魔力のみで生成した木っていうのは純然たる木じゃないって前読んだ本に書いてあった気がする……

 となると……今舞台に生えている木では、前世の環境破壊を食い止めることができないとか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る