第98話 柄にもなくセンチメンタル
「空は晴れ、俺の心は曇り空」
目覚めとともに、部屋の窓から外をちらりと眺めると、自然にそんな言葉が口から出た。
一晩経ってみても、やはり未だ昨日のことが心に残る。
ここ最近、ファティマとよく会って喋っていたからな……
アイツのことをよく知らなかったときは、きゅるんとした小娘とか勝手に心の中で呼んでてさ……
朝練のときなんかは、アイツのことを夏休みのラジオ体操でスタンプを押してくれるおじさん扱いなんかもしてたよな……
そして、アイツと一緒に食べたオークの焼肉、あれは美味しかったなぁ……
それで去り際の「ねぇ、なんであなた……痩せてしまったの?」って台詞、あれはマジで衝撃的だった……
まさかのデブ専なんだもんな……
思えばあのときからなんだよな、俺たちの関係が動き始めたのは……
最初は息子の体調を心配するお母さん感を出していたように思うけど、いつの間にか辛辣な言葉でツッコミを入れてくるようになっててさ……
それだけ遠慮がなくなってきていたってことなのかな?
でもまぁ、あの感じ……嫌いじゃなかったんだよな……それどころか、面白いとすら感じてた。
……でも、そんな楽しいと思えるような日々を捨てることにしたのは俺だ。
だけど後悔はいらない、きっとそれがアイツのためだったと思うから……
そんなことを頭の中でゴチャゴチャと考えながら、今日もまた朝練に向かう……サボるわけにもいかないからね。
そしてもうきっと、ファティマは来ないだろう。
いや、その方がいい。
だってその方が気楽だから。
そうしていつものコースで向かい風魔力操作音読ウォーキングをしていると……
「おはよう。今日はまたこれ以上ないぐらい辛気臭い顔をしているわね」
「は? え? どうして?」
「どうしてと言われても、朝の散歩が日課だからよ?」
「いや、えっと……昨日のことがあったからさ、もう来ないかと思ってた……」
「だから昨日言ったでしょう? 自惚れるのも大概にすることって。まったく、なぜ私が日課をやめなければならないのかしら……理解に苦しむわね」
「そ、そうか……でも、俺なんかともう、二度と喋りたくないとかはないの?」
「どうして? 私たち、友達なのでしょう?」
「あっ! でも……え!?」
「それと、学園での大事な3年間がどうとかって言っていたけれど、それは大きなお世話よ」
「えぇ……」
「だって私、別にこの3年間で相手を決める必要なんてないもの」
「そんな、マジか……」
「一番上と二番目の兄様は既に結婚して子供もいるし、四女の私が実家を継ぐ可能性なんかほとんどないもの。それに父様も母様も自由にしていいと言っているし、なおさら心配いらないわ……だからこれも前に言ったでしょう? あなたのは独り善がりだって」
「じ、じゃあ……ロイターはどうするんだ?」
「はぁ……だからそれも大きなお世話。ロイターはロイターで自分の生き方を勝手に決めるし、その責任も彼にある。それに既に何度も断っているのに、それでも諦めないのが彼。私の知ったことではないわ」
ファティマさん……ドライすぎるよ……
いやでも、なんなのコレ……昨日からの俺の悩みはなんだったの?
柄にもなくセンチメンタル決めてたんだよ?
「ああそれと、私は別にあなたに結婚してなんて頼んだ覚えはないわよ? それどころか婚約を前提に付き合って欲しいとも言っていない……たった一度夜会のエスコートをさせてあげただけで随分と舞い上がったものだわ」
「はぁ!? えぇ!?」
「ふふっ、あなたって本当に……自惚れ屋さんね?」
「あぁ……もういいよ、それで……」
「そんなわけだから、これからもよろしく。さしあたっては野営研修で組むパーティーかしら」
「……ああ、うん、そんな感じで」
「それじゃあ、またね」
「……はい」
そうしてファティマが去って行ったあと、しばし呆然としていた。
ファティマの奴……気の強い奴だとは思っていたが……まさかここまでとは……
でも、思い返してみれば「友達」と言ったとき少し声が震えていたような気もするが、実際のところはどうだったのかわからない。
いや、こんな風に思ってしまうのもアイツの言う自惚れってやつなのだろうか……
ただ、お前がそう言うのならいいよ、お前は俺の「友達」だ、これからもずっと。
だから、俺はお前に対して女性としての好意、恋愛感情をこの先も持たない……友達だからな。
そんなことを考えていたときふと思った……
もし、この世界がアレス・ソエラルタウトを主人公とした恋愛シミュレーションゲームだったとすれば、お前はアレスのヒロイン候補だったんじゃないかって……
でもプレイヤーが俺だったからな、お前のルートには進まないんだ。
もし仮に、他のプレイヤーがアレスだったのなら、お前のルートを選んでいた可能性もあったかもな……
そう思うと、俺がプレイヤーで……ごめんな。
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