第97話 否めない

 オーガを探し求める日々が続いていたが、ようやく出会うことが出来て、討伐も完了した。

 あんなに探し求めていたオーガだったのに、出会ってしまえばあっけないものだったね。

 でも、これである程度の実力がわかった。

 おそらくオークナイトより少し強いぐらいかな……間違ってもジェネラルまではないと思う。

 ただ、手加減用のつららだったとはいえ、それを砕ける反射神経や身体能力の高さがある。

 それに加えて、地味に勘がいいような気もするので、そこは注意が必要かもしれない。

 でもまぁ、これぐらいならゲームのシナリオ通りに野営研修に乱入してきたとしても、主人公君たちを護りながらでも戦うことは可能だ。

 というか、最近本気になって徐々に実力を伸ばしつつある王女殿下の取り巻きたちなら人数もいるし、普通に勝てるっていうか、オーバーキルしそうな気もする。

 ついでに言えば、主人公君の覚醒という切り札もあるし。

 こりゃ、俺の出番はないかな?

 とはいえ、不測の事態っていうのもあるだろうから、野営研修中の状況の推移はしっかりと注視して行きたいとは思う。

 そんな感じで、オーガの実力判定も済んだところで死体の取り扱いを冒険者たちと話し合おうかな。

 何気に彼ら、逃げずに残っていたみたいだし。

 こういう場合って、囮だヤッホーみたいな感じで見捨てて逃げるんじゃないの?

 俺が前世でそういう展開のファンタジー小説を読みすぎてただけ?

 ま、それはともかくとして声をかけよう。


「とりあえず討伐は完了したが、お前たちでこのオーガの死体を持って帰れるか?」

「え? いや、そいつはゴブリン狩りが仕留めた奴なんだから、ゴブリン狩りが持って帰ってくれればいい」

「ああ、俺たちは生き残れただけでじゅうぶんだ」

「そうそう」


 う~ん、彼らは欲がないと言えばいいのか……俺としてもオーガの実力を試したかっただけで、そのチャンスを与えてくれた彼らにお礼をしたいぐらいだったんだけどな。

 そうだなぁ……


「じゃあ、このオーガを換金したお金でメシでも行かないか?」

「……いいのか?」

「俺たち、なにもしてないんだぞ?」

「オーガ、怖かった……」

「よし、決まりだ! 行くぞ!!」

「お、おう!」

「お言葉に甘えるとするか……あのゴブリン狩りと飲む機会なんて滅多にないだろうしな」

「これって、お祝い?」


 日暮れが近かったこともあり、速やかに学園都市に戻り、換金を済ませた。

 そして、彼らが普段よく行くオーク肉の串焼きの店に連れて行ってもらった。

 これがまた美味かった。

 甘辛の醤油だれは絶品だった。

 そして、パラパラっと塩コショウを振っただけの串焼き、これもまた美味い。

 やっぱ、オーク肉のジューシーで濃厚な味わいは癖になるね。

 腹内アレス君も大喜びだったし、何本でも食べれちゃう。

 そんな俺の食べっぷり、一応冒険者たちも噂では多少知っていたみたいだが、それでも驚きは隠せなかったようだ。

 まぁね、それだけ美味かったってことだよ。

 オーク肉の串焼きについてはそれぐらいにしておいて……話によると彼ら、去年から冒険者稼業を始めたとのこと。

 最初は街中での雑用依頼をこなしながら資金を貯めて装備を整え、ゴブリンの討伐をコツコツ行っていたそうだ。

 それで今年に入ってオーク狩りに挑戦し、最近ようやく慣れてきたかなといったところで今日のオーガとの遭遇。

 まったくもって、引きがいいのか悪いのか……

 そんな感じで彼らの冒険者生活について聞かせてもらった。

 それと、彼らのうちの1人がオーガ戦で俺が使っていた風歩に興味を持ったようなので教えてあげた。

 ただ、彼の場合は戦闘用というより逃走用にという気持ちの方が強いみたい。

 まぁ、俺も接近戦で思わぬ苦戦を強いられたときの緊急離脱に使おうと思っていたから、選択肢としてアリだと思う。

 とはいえ、平民出身の彼らの魔力量と魔力操作の練度では、そよ風程度のものしか出せない。

 そのため、戦闘等で役立つレベルになるまで、これから練習を頑張ると張り切っていた。

 というのも、どうやら今回みたいに下手したら死ぬって状況を経験したことで、魔力操作がつまんないとか言ってられないことを強く認識したかららしい。

 そういう意味では、生き残ることが出来たからこそ言えることだが、今回のオーガとの遭遇は彼らにとってラッキーなことだったのではないかと思う。

 そうした会話を楽しんで、今日はお開きとなった。

 この街にいる限り、彼らとまた会うこともあるだろう。

 そのときは風歩がどれだけ上達しているだろうか……楽しみである。

 そんな楽しい気分のまま男子寮に帰ってシャワーを浴び、一息ついたところでファティマのことが自然と思い出される。

 あの冒険者たちとメシに行ったのも、ファティマのことを一時的にでも忘れていたかったから……そんな気持ちが少なからずあったことは否めない。

 でも、この学園にいる限り、きっとどこかではファティマと会わなければならないときが来る。

 そのとき俺は、どんな顔をしてファティマに会えばいいのだろう……

 そんなことを思いながら眠りについた。

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