第728話 懐かせてみせるのも一興かしら?

「……ノアキア・イアストアさん、ファティマ・ミーティアムさん……決勝戦が始まりますので、準備をお願いします!」


 俺がみんなに祝福の言葉をもらってから、いくらも時間が経過しないうちに呼び出し係の人がファティマたちを呼びに来た。


「時間みたいね……」

「ファティマちゃん! しっかりね!!」

「ええ、パルフェナの受けた借りを、きっちりと返してきてあげるわ」

「ありがとう……でも、何度もいうようだけど……本当にノアキアさんは強いからね! 油断しちゃダメだよ!!」

「もちろん、そんなもったいないことはしないわ……これを機会に、もっともっと大きくならなければならないのだから……」

「うん、そうだったね……それじゃあ、あとはもう私にできることは祈るだけ……」

「ふふっ、パルフェナに祈ってもらえれば、とても力が湧いてくるというものだわ……いつも、ありがとう」

「ううん! どういたしましてだよっ!!」


 このファティマとパルフェナというコンビ、本当に仲がいいんだなぁって改めて思った。

 まあ、領地が隣接していて幼馴染でもあったわけだから、2人が積み重ねた思い出の数も相当なものだろうしな。

 そんなこんなで、2人のやりとりが一段落したところで、俺たち夕食後の模擬戦メンバーもそれぞれファティマに激励の言葉をかける。

 その激励の言葉に対し、ファティマは一つ一つ落ち着いた様子で返事をしていく。

 ふむ……本当は決勝に向けて心が熱く熱く燃えているだろうに、よく冷静な態度を保てているものだ。

 クール道に身を置く者として、ファティマのこういったところには、素直に敬意を表したいと思う。

 さすがだ! オリハルコンのメンタルを持つ少女よ!!

 そんなことを考えていると、ファティマに一瞬ジロッとした視線を向けられてしまった。


「また、お前は……」

「先ほども、同じような場面がありましたね……」


 うん……いわれてみれば、あった気がしてきたよ……

 それはそれとして……ゼネットナットもファティマに一言あるようだ。


「おい、ファティマ! オメェが負けたらアタシまで弱ぇみたいになっちまうからな、絶対に負けんじゃねぇぞ!!」

「ええ、そうね……絶対に負けないから、安心してくれていいわ」

「ハン、いうじゃねぇか! だが、オメェのダチがやられたことからも分かるように、アタシから見てもノアキアの実力は本物だ……くれぐれも舐めてかかるんじゃねぇぞ!?」

「あら、随分と優しい言葉をかけてくれるのね?」

「……う、うるせいやいっ!」

「ふふっ、ありがとうゼネットナット……あなたのぶんもしっかりと闘って来るわ」

「お、おう……!」


 ほうほう……この2人もタイマンを張った者同士、マブダチとなったようだね?

 そんなハートウォーミング空間を割るかのように、1人のエルフ族少女が声をかけてきた。


「……ふぅん、少し前まで孤高を気取っていたかと思えば、今は嬉しそうに尻尾を振っている……狼の獣人族って、思ったより懐きやすかったのね?」

「んだと、コラァ!!」

「あらあら、ごめんなさい……思ったことがつい、口から出てしまったわ」

「上等だ、テメェ!!」

「待って、ゼネットナット」

「アァッ? んだよ、ファティマ……」

「ねぇ、ノアキア・イアストアさん……あなた、挑発する相手を間違えているのではないかしら? それとも、エルフ族というのは他者を挑発していないと精神の平静を保てないの?」

「いいえ、そんなことはないわ……ただ純粋に、随分と懐いたものだなぁと思っただけよ」

「テメッ! ……チィッ、わーったよ……オメェに任せればいいんだろ……」

「ありがとう……それでまあ、最近よく耳にする表現を使うとするなら、私とゼネットナットはタイマンを張ってマブダチになったのであって、懐くとかそういうのじゃないわ……でもそうね、私がノアキア・イアストアさんを倒して、懐かせてみせるのも一興かしら?」

「ハハッ! そいつは面白れぇ!!」

「うふふ……そうね、本当に面白いことをいってくれるものだわ……いいでしょう、どちらが上かあの舞台ではっきりさせてあげる」

「ふふっ、より本気度が増したといったところかしら……実に楽しみだわ」

「そういっていられるのも今の内よ……覚悟しておくことね」

「ええ、あなたこそ」

「「ふふっ、ふふふふふ……」」


 なんだろう、この2人……既に息ピッタリじゃない?

 とまあ、そんな感じでバッチバチに舌戦を繰り広げながら、2人は舞台へ降りて行った。

 ついでにいうと、2人の後姿を見ていて「喧嘩するほど仲がいい」という言葉が頭に思い浮かんだのだった。

 そんなこんなで恒例の武器選択を経て、2人は舞台に上がった。


『装備チェックが終わり、両選手が舞台中央にそろいます……そして、王女殿下から胸ポケットに最上級ポーションが挿入されます』


 ふむ、この辺はいつどおりの流れだね。

 そして、これまたいつもどおり、男子たちから歓声が上がっている。

 まあ、確かに絵面としてキレイなことは認めるけどね。

 ちなみに「不毛な大地にポーションという一輪の花が咲いた」とか抜かした奴がいて、2人のファンに詰め寄られていたのは見なかったことにしておこうと思う。

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