第727話 今だけは優勝の喜びに浸っているがいい
「あっ、アレス様! 大丈夫でしたか!?」
「シュウ様も! 心配しておりました!!」
………………
…………
……
医務室から出た直後、集まって来ていた大勢の女子たちに囲まれながら、あれこれ声をかけられていた。
とりあえず、そういった女子たちに愛想笑いで返事をしながら通路を進む。
「……どうやら、女子の部はまだ決勝が始まっていないようですね?」
「ああ、そうみたいだな」
といいつつ、そこまで長い時間医務室にいたわけじゃなかったからね。
それに、俺とシュウの戦闘による余波で舞台もそれなりに破壊されており、その修復時間も相応にかかっただろう。
そんなこんなで、今はまだ休憩時間って感じかな。
「……ファティマさんをガッカリさせずに済みそうで、よかったですね」
「えっ?」
「フフッ……アレス君に応援してもらえば、とても心強いでしょうからねぇ……」
「そ、そうか……」
コ……コイツ! のほほんとした笑顔を浮かべておきながら、まさかのイジりをかましてきやがった!!
こうなったら、俺からもイジり返してやる!
逆襲のアレスを舐めるなよ!!
「そういえば、さっき見てて思ったのだが……フェイ先輩とは特別仲がいいみたいだな?」
「ええ、領地が隣だったこともあって、よく一緒に鍛錬もしましたし……この眼を制御する効果的な方法を探したり、その方法を試す際の手伝いなんかもしてもらったりしましたからねぇ……フェイさんには、本当にお世話になってばかりですよ」
「ほぉう?」
……グハァッ!!
ハァ……ハァ……な、なんて尊い、関係なんだ……姉弟子……最高かよッ!!
フゥ……考え方によっては、今日一番のクリティカルを喰らったかもしれん……
シュウ・ウークーレンとフェイ・リーリゥというペアの攻撃力は、まさしく無限大といって差し支えないのではないだろうか?
うぅむ、恐るべし……
それはそれとして、実にいい話を聞かせてもらった……心がこの上なく温まるよ。
この温もりさえあれば、これからやってくるであろう冬だって心穏やかに越せるはず……ありがとう、俺は感無量です。
「おい、見てみろよ……魔力操作狂いの奴、優勝したからって浮かれ過ぎじゃねぇか?」
「う、う~ん……あの表情って、あんまり優勝したこととは関係なさそうな気も……?」
「ああ……何かもっと、根源的な喜びみたいなものが感じられるな……」
「とにかく顔、緩み過ぎ……」
「まあ、シュウはシュウで、いつも以上に穏やかな微笑みを浮かべているもんなぁ……」
「いわれてみれば、確かに……」
「なんていうか、アイツら……どうしちゃったんだ?」
「とてもじゃないが、さっきまで壮絶な試合を繰り広げていた男たちには見えんぞ?」
「いや、だからこそなんじゃない? 荒々しさは試合で全て出しきった……そういうことなんだよ、きっと」
「なるほど……今は戦士の休息といったところか……」
「といって、完全に気が抜けているかというと……そういうわけでもなさそうだな?」
「うむ……仮にここで彼らに不意打ちを仕掛けてみたとしても、一瞬で返り討ちに遭うであろうよ」
「だなぁ……思いっきり締まりのない顔をしているはずなのに、隙がない……」
「それが今日の武闘大会、ワンツーの実力というわけか……」
「……遠いなぁ」
「ああ、途轍もなく遠い……でも、奴らの背中を見ながら、俺たちなりに一歩ずつ確実に追いかけて行くしかないだろ?」
「そうだな……進むべき道は彼らが示してくれているのだ、ありがたくその道を追わせてもらおう」
通路ですれ違った男子たちの会話が耳に入ってくるが……そんなに俺、締まりのない顔をしていたのか……
これは不覚なり! もっとキリッとしたクールな面構えに戻さねば!!
そうして通路を抜け、自分たちの席に戻って来た。
その際……
「さすがだ……アレス・ソエラルタウト……だが、俺とてこのまま終わるつもりはないからな……せいぜい、今だけは優勝の喜びに浸っているがいい」
「おう、テクンド! 俺もお前との再戦を楽しみにしているからな、今よりもっと腕を磨いて来いよ!!」
「アレスさん、優勝おめでとう! そして、オレのことも忘れてもらっちゃ困るぜ!?」
「ああ、忘れるわけがないだろう? お前にも、さらに強くなってもらわねばならんからな!!」
こうして、対戦したテクンドやラクルスと言葉を交わした。
うんうん、2人ともこれからイイ感じで実力を伸ばしていってくれそうだね!
特にラクルスは、原作ゲームによってポテンシャルを保証されているわけだからね、自信を持って頑張ってもらいたいところだ。
「戻って来たか……ひとまず優勝おめでとう、といっておこう」
「やりましたね、アレスさん!」
「さっすがアレス! 僕もこうしちゃいられないね!!」
「スゲェよ、マジで……」
「ええ、本当にねぇ……」
「あのシュウさんに勝ってしまうだなんて……やっぱり、アレスさんは凄いや……」
「……そんなアレスと、準決勝で対戦できたことを誇りに思う」
「おめでとう、アレス君! とってもカッコよかったよ!!」
「優勝できたことは素晴らしいけれど……それ以上に、魔纏を正面から破ってくれる人が現れてよかったわね?」
「みんな、ありがとう……そして、ファティマのいうとおりだな……シュウには俺の魔纏に対する過信を気付かせてもらえた、感謝でいっぱいだよ」
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