第726話 自信を一時的に喪失
「「失礼します」」
「来たわね、2人とも……早速だけど体の状態を確認するから、そこに座ってちょうだい」
というわけで、医務室にやって来た俺たちは、先生の指示に従って椅子に座る。
「それじゃあ、シュウ君から先に診てみるわね」
「はい、お願いします」
シュウは全身……内側も外側も満遍なく大ダメージを負ったからね、優先的に診るのも当然といえるだろう。
……まあ、俺も両腕が吹っ飛ぶっていう重傷を負ったわけだけど、最上級ポーションと回復魔法のおかげで既に完全回復しているもんね。
そして正直、これほどの重傷を負わされることがあるとはあまり考えていなかったけど、こんな事態に備えてロイターたちに回復魔法を教えてもらっておいてよかったなって感じだ。
そう考えると、あのタイミングでロイターと決闘をして、回復魔法の習得に興味を持たせてもらえてラッキーだったといえるだろう。
さらにいうと、回復魔法の練習をする際に自身を傷付けてメチャクチャ痛い思いをし続けていたのも、振り返ってみるといい経験だったんだなって気がしてくる。
そうでなければ、あの舞台の上で無様に泣き叫び、のたうち回っていたに違いあるまい……そんな自分のあり得たかもしれない姿を想像すると、この上なくゾッとしてしまうね。
フゥ……危うく、アレス・ソエラルタウトのブランドに傷がつくところだった。
それはそうと……改めて思い返してみるが、絶対の防御力を自負していた俺の魔纏が突き破られるとはな……
もちろん、過去にもゴブリンヒーローやファティマに破られたことがあったのは確かだ。
それでも、ゴブリンヒーロー戦のときに比べて俺自身大幅にレベルアップしているはずだし、ファティマのときはこっちが腑抜けていて魔纏の強度がそれほどでもなかったはず。
要するに、今回は一切の言い訳が許されないほどに全力全開の魔纏を突破されたってわけだ……これはショックを受けずにはいられない。
……ん? ショックを受けただと?
待てよ……結局のところ俺は、「何人たりとも、俺の魔纏を突破できるわけがない」と高をくくって傲慢になっていたということか?
そうであるなら、これまで俺が他人に向けていたリスペクトは、単なる口先だけのものだったのではないだろうか……
いや、仮にリスペクト自体はあったのだとしても、それは「俺には及ばないが」という言葉が付いていたのではないだろうか……
……ヤバい……なんか、だんだん恥ずかしくなってきた……
ただまあ、周囲に対して傲慢キャラで接しているので、そもそも俺に謙虚さを感じていない人も多いだろう……そのため、そういった表面的な部分においては、さほど気にする必要がないかもしれない。
でもなぁ……この傲慢さを「キャラ」として演じていたみたいな感覚がそれなりにあっただけに……やっぱ、恥ずかしくなってくるよなぁ……
「……腕も含めて体そのものは問題ないけれど……ここにきて、心のほうが少しグラつき始めているみたいね?」
「……えっ? あ、その……」
いつの間にか思考の海に潜っていたようで、気付けばシュウを診終わっており、俺の順番になっていたようだ。
そして、医務室の先生に俺のメンタル状態が見抜かれてしまったようだ。
「でも……うん、アレス君なら大丈夫そうね」
「そ、そうなの……ですか?」
「ええ、眼を見れば分かるわ」
「そうですか……先生にそういってもらえると、安心ですね」
「まあ、この武闘大会の時期は、技を破られて自信を一時的に喪失する子が少なからずいるからねぇ……でも、みんな遅かれ早かれ立ち直っているし……アレス君なら、今回の経験もすぐにやる気の材料に変えてしまうと確信しているわ」
「それは、恐縮です」
「アレス君……君は魔纏を破られたと思っているのでしょうが……僕だって、とっておきの一撃が最終的に防がれたと思っていますからね?」
「おっ、おう……そうか……」
「ふふっ、2人とも謙虚ねぇ……その謙虚さを大切にしながら、これからも良きライバルとしてお互いを高め合えたらいいわね」
「……この私が、謙虚……ですか?」
「ええ、もちろん……まあ、リリアン様を始め先祖代々受け継いできた才能もあるでしょうけれど……その才能も、アレス君の努力あってこそ有効に活用できるもので、場合によっては才能に溺れて害にすらなり得るものだし……」
「努力あってこそ……」
「そう、そんなふうに努力できるということは、謙虚である何よりの証拠よ」
「なるほど……ありがとうございます! なんだか元気が出てきました!!」
「それはよかったわ」
「僕も今回の敗北を糧に、さらに努力を積み重ねて次こそはアレス君から勝利を得させていただくとしましょう!!」
「……ほう? 面白い! 俺も今回は完全勝利という感じがせんからな、次こそは納得いく勝ち方をしてみせるぞ!!」
「フフッ、いいでしょう! 燃えてきました!!」
「ハハッ、それはこちらの台詞だ!!」
「はいはい、2人とも元気なところはいいけれど……魔臓等も含めて全身にかなり負担がかかっているはずだから、今日のところはこれ以上無理をせず、安静にしておくのよ?」
「「はい……気を付けます」」
「よろしい……それで、あとはもう大丈夫そうだから、ファティマさんとノアキアさんの応援に行ってあげるといいわ」
こうして俺たちは先生にオッケーをもらい、医務室を後にしたのだった。
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