第725話 響き
姉弟子……嗚呼、なんてステキな響きなのだろう……
アレス・ソエラルタウトに足りないものがあるとすれば……それは姉弟子という存在である。
……そんなキメ台詞が思わず飛び出してしまうほどに、羨ましい存在である。
そして、シュウ・ウークーレンという男に対して、俺はなんとなく仲間もしくは同族意識のようなものを感じていたのだが……それは、一介の武辺者として、同じように強さを追い求めている者だからだと思っていた。
しかしながら、それは違ったようだ。
いや、そういった要素も確かにあったのだろうとは思うが……今回初めて知った姉弟子という要素のほうがより強いものだったのではないだろうか……?
まあ、とにもかくにも……姉弟子……とってもいいよね!!
「フフッ……アレス君……ポーションの効果もあるとはいえ、ここにきて一瞬で腕を完全再生させるとは……さすがですね」
「……えっ? あ、ああ……当然……だろ?」
……とかなんとか、とっさに余裕ぶって答えたが……ほとんど腕についての意識は、どっかに飛んで行ってしまっていた。
とはいえ、もちろん腕が吹っ飛んだのを認識してから、身中に残っていた魔力と空気中の魔素を魔力変換しながら回復魔法で再生させようとはしていたけどね……
ただ、残りの魔力がほとんど空に近かったのと、あまりの痛さに意識が持っていかれがちだったので、再生速度としては比較的ゆっくりとしたものだったんじゃないかと思う。
そうしているうちに判定に意識が向き、そんでもって姉弟子という超心惹かれる響きに完全集中しているうちに、腕の再生が完了したってわけだ。
こうして考えてみると……姉弟子という響きに完全集中することで、完璧に雑念が消えていたってことなんだろうね!
ほら、前世でも瞑想とかするときに「数を数えろ」とか「呼吸だけに意識を集中しろ」……あとはそうだな、「ろうそくの火を見つめ続けろ」みたいな感じで、一つのことに集中するよう勧められていたでしょ?
たぶん、そんな感じで上手い具合に混じりっ気なしの純粋な回復魔法に昇華されていたに違いない!!
あ、ちなみにだけど……ろうそくを使って瞑想するときは、火の扱いに気を付けるんだよ! これ、アレス君との約束だからね!!
「……お前たち、次の試合のため舞台を整備せねばならんから、話の続きは医務室でするといい」
「これはどうも、すいません」
「同じく、すいませんでした……これから医務室に向かいたいと思います」
「それじゃあ、私はこれで……」
「ああ、フェイさん……このたびは、お手数をおかけしましたね」
「ええ……それよりも、あとで当主様からの説教があるでしょうから……そのつもりで」
「あはは、分かっておりますとも」
「それと……いい試合だった、とだけはいっておくわ……それじゃあ」
「フフッ……ありがとうございます」
そういって、フェイ先輩は観客席の2年生が集まっている辺りに戻って行った。
ふむ……どうやらフェイ先輩は2年生のようだ。
ということは、エトアラ嬢と同級生ってことになるわけか……なるほど、組み合わせの状況としてはセテルタと同じだね!!
……あれ、今さらながらに思い出したけど……シュウを取り巻く武闘派令嬢たちって、確か同じ学年だったよな?
ふぅむ、彼女たちはシュウにお熱だったみたいだけど……フェイ先輩がシュウの本命だと考えるならば、彼女たちは単なるファンってことになりそうだな……
……そんなことを脳内で考察しつつシュウに視線を向けてみると、またいつものように、のほほんとした笑顔に戻っていた。
なるほど、これでシュウの奴も戦闘モード解除って感じかな?
さて、そんなこんなで、とりあえず医務室に向かうとするかね……
「……あ、えっと……お2人に担架を持って来たのですが……」
「おっと、すいません……せっかく用意してもらったところ悪いのですが、自分の足で歩くことができるので今回は必要なさそうです」
「ああ、俺も必要ないぞ」
「そ、そうでしたか……えっと……それでは、失礼します……」
「ええ、お気遣いありがとうございます」
「うむ、礼をいおう、ありがとう」
大会の運営に携わっている生徒会の皆さんが担架を用意してくれたのだが、俺たちには特に必要なかったので断った。
ついでにいうと、俺たちがおしゃべりに気を取られているあいだも待ってくれていたようなので、その点についてもちょっと悪いことをしたなって感じである。
そうして、生徒会の皆さんは担架をマジックバッグに収納しつつ、道具を持ち替えて舞台の整備に取り掛かったようだ。
「では、医務室へ向かいましょうか?」
「おう、そうだな!」
こうして、俺たちは医務室へ向かって歩き始める。
その際……
「素晴らしい試合だった! 感動した!!」
「まさしく、俺の生涯で最高の試合を観せてもらったと思う!!」
「2人のアツさは、フォーエヴァー!!」
「ぐすっ……ああ、ああ! オレは一生、今日という日を忘れない……!!」
「武闘大会とは……実にいいものですね……」
「こういう試合なら、もう一度……いや、もう一度どころか何度だって観たいッ!!」
……といった感じで会場中から温かい声と拍手に包まれながら、俺たちは歩いて行くのだった。
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