第843話 いったん後回しになるかもしれん

 とりあえず、夕食を食べ終えた。

 また、こうやっていったん食事を挟むことで、ある程度は腹内アレス君の怒りもクールダウンできたのではないだろうか……

 と言いたいところだけど……まだまだ怒りが収まり切っていないご様子。

 ただ、その怒りは外側に発散されることなく、腹内アレス君の腹の内に抑え込まれている状態といったところだろうか……

 いや、腹内アレス君の腹の内って……これはもう、ワケ分かんねぇなって言われそうだけどさ……

 ただまあ、こんなふうに腹内アレス君がマジギレしてくれているおかげと言うべきか、そのぶん俺は冷静でいられるって感じだ。

 そんでもって、前から腹内アレス君は吸命の首飾りに対してそれはもう、強い怒りを示していたからねぇ……

 とまあ、そんな感じで3人とも夕食を食べ終わり、話をする態勢も整ったところで……そろそろ始めるとしますかね……


「さて……それじゃあ、俺がこのシリアスな雰囲気を出すことになった理由を説明させてもらおうと思う」

「は、はい……お願いします……」

「いったい、どんな話をされるんだろうか……まったく、落ち着かないったらないぜ……」


 こうして重苦しい雰囲気の中、口を開いた……


「まず、先にワイズに謝っておくこととして……悪いがこれから、ミカルという娘のことはいったん後回しになるかもしれん」

「……あ、後回し……ですか?」

「えぇっ!? い、いや……アレスコーチの雰囲気からして、なんかとんでもないことが起ってるっぽいってことは感じますけど……でも、そこまでのことが……?」

「まあ、もしかしたら……こっちの問題が片付くと同時にトードマン問題も解決できてしまうかもしれんがな……」

「ど、同時に解決……ですか?」

「う~ん、どういうことなんだ……ますます分かんねぇ……」

「少々回りくどい物言いなってしまってスマンな……俺としても、このことは慎重に話したいものでな……」

「それだけ大事な話ということなのですね……ええ、構いません、アレス殿の話しやすいようにお話しください」

「ていうか! そこまで大事な話、俺たちが聞いちまってもいいんですか!?」


 マヌケ族絡みの話は、今のところ王国上層部や貴族の中でも当主レベルで留まっていたはずなので、ここで俺がみだりに話すのもどうかと思うんだよね……

 とはいえ、その家の当主判断で近しい人にも話はされているみたいなので、完全シークレットに徹しなければならないかというと、そうでもない気はする……

 それで、どこまで話すかってところで、まだちょっと決め兼ねている部分もあるのだが……


「ふぅむ、そうだな……確かにケインの疑問ももっともだろう……そこで、これからする話は口外しないよう契約魔法で縛らせてもらう必要があるかもしれんが……どうする? ややこしい話にノータッチでいたければ席を外してくれても構わんぞ?」

「我が領のことなのですから、私に席を外すなどという選択肢はあり得ません!」

「……お、俺も! たとえ領は違えど、同じ王国貴族の一員として、何か問題が発生しているのであれば知らんぷりはできませんよ! それに、ここで引き下がったんじゃあ、何があったのか気になってしょうがなくなるでしょうし!!」

「……そうか、分かった……とまあ、ちょいと脅すような物言いをしてしまったが、そういう可能性もあるってことで、ひとつよろしく……そんでもって、この部屋に防音の魔法も施してっと……よし! そんじゃあ、そろそろ本格的にいこうか……まず、お前ら……吸命の首飾りのことは知っているか?」

「吸命の首飾り……ですか? ええ、まあ……昔それを使った事件が発生したという話を聞いたことがあるだけですが……」

「えぇと……確か『第5王妃暗殺未遂事件』って呼ばれてたっけ? それのことですよね?」

「うむ、知っているのなら、吸命の首飾りについて改めて説明する必要もなさそうだな……それで、さっき食べかけた料理だが、お前たちも違和感を覚えていたよな?」

「ええ、まあ……味自体についてはそこまでおかしく感じませんでしたが……なんというか、魔力が騒めいたとでも言えばいいのか……ん? 魔力……ま、まさかッ!?」

「あれって、身に付けた者のあらゆるエネルギーを吸収するって話だったけど……えぇっ!! もしかしてアレスコーチは、あの料理にそれが関わっているって言いたいんですか!? いや、でも……あんなハッキリした固形物が混じってたら、さすがに気付きます……よね?」

「おそらくだが、あれの本体部分が粉末状にされて料理に混入されていたのだろう……」

「まさかとは思いましたが……やはりそういうことでしたか……」

「そうか、粉末状に……そして、だからこそ変な感じがしたってわけか、なるほど……」

「まあ、粉末状になっていただけあって、あれのエネルギー吸収効果は極々微かなものだった……そのため、たとえ魔法士でも気付くのは困難だったであろう……そう考えると、お前たちはよく気付いたといえるだろうな……フッ、それこそここ数日の鍛錬の成果だな? 実に見事だったぞ!!」

「お褒めに預かり、光栄ではあるのですが……」

「ああ、事情が事情だけに、あまり喜べないぜ……」

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