第844話 誰の仕業なのでしょう?
吸命の首飾りの本体部分が粉末状になって料理に混入されていた……その事実をワイズとケインが咀嚼できるよう、ゆっくりと話を進めていこうと思っている。
そして、あまり暗い雰囲気にならないように2人が料理に違和感を覚えたたことについて「ここ数日の鍛錬の成果が出たな!」って言葉もかけてみたりもした。
まあ、その言葉自体に対しては2人とも一瞬明るい表情を浮かべてくれたが、それでもやっぱり重い雰囲気を吹き飛ばすまでにはいかないって感じだ。
「まさか我が領で……このようなことが起こるとは……」
「だよな……でも、これって俺たちを狙っての犯行ではありませんよね? たぶんだけど、食堂だけでなく宿屋に携わる人間の誰もが俺たちをただの冒険者としか思ってないでしょうし……」
「ああ、念のため目に付いた宿屋の人間をそれぞれ魔力探知で探ってみたのだが……魔力の在り方にそれらしき悪意は読み取れなかったので、おそらく宿屋の人間の仕業ではないだろう」
「そう……ですか……」
「ホッ……あんだけ屈託のない笑顔で料理を運んできたウエイトレスが実は……ってなったら今頃、人間不信に陥ってたに違いないぜ……いやまあ、領主の座を引き継ぐってなったら、俺たちもそういう危険な相手を見分ける眼を養っていかなきゃいけないんだろうけどさ……」
笑顔に騙されていたとなったら……うん、しばらくトラウマになりそうだね。
加えて俺の場合、その騙された相手がお姉さんだったとしたら……この上なく悲嘆に暮れることになってしまうだろう……
「宿屋の人間ではない……それではいったい、誰の仕業なのでしょう?」
「おう、そうだった! 誰がこんなことしやがったんだ!!」
「誰が……そうだな……」
「アレス殿には心当たりがおありで?」
「……あれっ? そういや、さっきアレスコーチは『こっちの問題が片付くと同時にトードマン問題も解決できてしまうかもしれん』って言ってましたよね?」
「……そうか! ベイフドゥム商会!!」
「ベイフドゥム商会って……ああ! トードマンの家が経営してて……そんでもって、食品を扱ってる商会だったよな!? そっか! それでベイフドゥム商会が処罰されるから、トードマン問題も同時に解決ってわけですね!!」
「……そう結論を急ぐわけにはいかないだろう……そこで、調査が必要だと思うのだ」
「調査ですか……ふむ……」
「ま、まあ、いきなりトードマンのところに乗り込んでって捕まえるって言っても、あっちも納得しないでしょうからねぇ……」
「うむ、必ず『証拠を出せ!』と言ってくるだろうよ」
「そして領の者を捜査に動員するにしても、父上……は王都だから、母上に報告して納得してもらう必要がありますね……」
「それもそっか! なら、そのための事前調査を俺たちでやろうってわけですね!?」
「ああ、そういうことだ」
ふぅむ、この流れなら……俺がここでマヌケ族の話までする必要はないかな?
調査結果をワイズのお母上に報告しに行くことになるわけだから、その辺の判断はワイズのお母上にお任せすればよかろう。
「……それで調査に動くのは明日からとして……まず、先ほど回収した料理を確認してみようじゃないか」
「分かりました」
「おっと、そうでした……俺とワイズは料理に違和感を覚えただけで、ハッキリと吸命の首飾りの反応を理解しているわけじゃないんでしたね……ハハッ、善は急げとばかりに街中に飛び出すところでしたよ」
「フッ、俺も『ここだ!』と思えば飛び出したくなるからな、気持ちはよく分かるぞ」
「私も……我が領のこともあって、気が逸るのをなんとか抑えているところです……」
「うむ、ワイズは特にそうだろうな……」
そうして俺たちは、吸命の首飾りの粉末について調べ始めた。
「う~ん、魔力を当ててみると……微かにだけど、確かに魔力が吸い取られる感じがしますねぇ……」
「私もです」
「よし、その感覚で正解に違いあるまい……では、その魔力を吸い取る感じのする粉末を小瓶にでも集めてみようか……ウインドボードに慣れたお前らなら、たとえ魔力を吸収されようと、この程度は魔力だけで動かせるだろ?」
「ハハッ! もちろんっすよ!!」
「ええ、問題ありません」
「うむうむ、頼もしいものだな」
そんなわけで、料理に混入されていた粉末を小瓶に分けていく。
まあ、一回の食事ぶんなので、そこまでたくさんは集まらないが、それはそれで構わない。
「……とりあえず、こんなもんですかね?」
「たいした量ではないが……きっと母上なら、これだけでも吸命の首飾りの一部だと理解してくれるはず……」
「ああ、きっとそうに違いない……でもまあ、今日のぶんはどっちかというと俺たちのお試し用みたいなものでもあったからな……そして明日はもっと集めることができると思うぞ?」
「まっ、これで俺たちもだいたいの感じはつかめましたからね!」
「ええ、そうですね」
「それから……まだほとんど料理を食べていなかったし、それで体内に入ったのもたいした量ではないだろうから、自然と消化されてしまうかもしれないが……ちょうどいいので練習として、お前たちの体内に入った粉末を光属性の魔力で消滅させてみたらいい」
「光属性の魔力で……分っかりました! やってみます!!」
「これも練習の機会にする……なるほど、さすがですね」
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